10 おなごな訳

 俺は、初めての調理に挑んだ。

 といっても、力仕事ばかりかな。


「かまどを作るといいと思う。大神さん」


「え! 俺が?」


 てっきり、ハーレム農場になると思っていたのに、何ともこき使われること。

 菜七さん、女子高生といえども、女神だから働かないのか?


「がんばってね」


「ニャニャー」


 櫻女さんとニャートリーも一瞥しやがって。

 いや、これは、ニートに対する仕打ちだろうな。


「くー」


 拳を握っても致し方がない。

 かまどは、石を積み重ねて用意するか。

 面倒なことはしない。

 近場で得た石を引きずって来よう。


「結構重たいなあ」


 最悪、持ち運んだ。

 要領が悪いな。


「大神くん。鍋も用意してね」


 ぷりっとして、櫻女が頼んでも頷きたくはない。


「ニャー」


 あー、睨まれた。


「はい、はい。ニャートリー様の言う通りですよ」


 鍋だって?

 どうしたかというと、井戸の少し奥にどうやら古代遺跡のようなものを見つけたんだ。


「あー、何度行ったり来たりするんだよ。おや、ヤシの殻コロコロ。追ってみるべし。おおっと、ここは! 古代遺跡への坂だけが青白く仄暗い」


 俺が息を飲んだ洞穴の坂は、手を入れるとすっと暗黒世界へ通じているかのようだった。


「こ、怖い……」


 そこから、鍋をゲットだ。

 え?

 何かスルーしていないかって?

 かなりしたな。

 だって、恐ろしいのだから、仕方がないだろう?

 今は、鍋の話だ。


「よし、かまどに鍋。OK」


「大神さん、包丁はなかったと思う?」


「ねー、包丁。大神くん」


 おいおい、美女二人でどうしたのかい?

 菜七さんは、きっちりと、櫻女さんは第一印象から緩んで、甘ったるくなちゃって。

 ふふふ。


「ん、んー? そうだ! 風の【竜巻】だ!」


 ゲージを上げるべく、集中した。


「はああ……」


 俺の真剣は、カッコいいんだぜ。


 ========☆

 大神直人


 HP  0013

 MP  0099

 【竜巻】0099

 ========☆


「風の【竜巻】よ、我が手に……!」


 白い炎が我が手に纏わり付く。

 俺にエネルギーが漲る。

 MPが99になったとき、放つのが最上だ。


「行け! 真剣、風の【竜巻】よ!」


 通り道にある、ジャガイモもトウモロコシもシュパパと切り刻んでやった。


「ちょっと細かいね」


「櫻女さんて、正直だな」


 火起こしには、スギのを乾燥させたものに、小枝のキボッチをくべた。

 林間学校で、少しだけやった経験もある。

 決め手は、これ。

 ニャートリーが、かまどへ滑降しながら嘴を開く。

 そして、必殺の咆哮。


「ニャートリーノ……!」


「うおおお! 猫鶏なのに、火を吹いている!」


 これには、腰を抜かしたね。


「み、見直したぜ。ニャートリー」


 二柱の女子高生女神に向かって、ヤシの実に似た殻で作った食器にジャガイモとトウモロコシの蒸かしたものと別にトマトを並べた。

 テーブルはまだなく、畑の近くの倒木に置き、そこに腰掛けた。

 向かい側に二柱の女子高生女神がいる。


「さて、いただきまーす!」


「召し上がれ」


「召し上がれ」


 暫くして、俺だけが食べている不思議さに気が付いた。


「あれ? ジャガイモとトウモロコシも蒸かしたし、トマトは井戸でつやっつやに光が零れているよ。マイマイネは、マヨネーズができるといいなとは思っているから後回しだけれども」


 もしや、女子高生女神達は、お腹が空かない?

 でも、HPがあったよな。


 ◇◇◇


 俺だけが食べながら、話をする。

 女神のことは訊けないので、俺の話に自然となった。

 まあ、何とも黒歴史な訳だが。


「さっきから疑問に思っているのだけれども、どうして、おなごを連呼しているね?」


「ぎっくー! 櫻女さん!」


「傷を深く抉ったようだと思う」


 俺の顔色も優れないよ。


「菜七さんは、優しい女子高生女神じゃのう。それに免じてかどうか、俺の黒歴史を聞くかい?」


 櫻女さんの首肯が激しくて、こけしのようだと笑った。


 ――おなご。

 俺が、女の子をじょしとは呼ばず、おなごと称するには訳がある。

 中一のとき、俺は、六組だった。

 何かの委員や部活で目立つ女の子ではなかった。

 けれども、その子は、周りから女史じょしと呼ばれていた覚えがある。

 勿論、俺とは関わりがない。

 俺も惚れていないし、女史も頬を染めている風ではなかった。


 六月の朝、クラスの黒板に相合傘が咲いていて、びっくりした。

 クラスの連中は知らない。

 だが、俺と女史だったからだ。


「昨日、雨の中、相合傘で帰ったって」


 誰だ、そんな嘘を言いふらして。


「聞いた、聞いた。あのオタクの奥手がね」


 オタクじゃない。

 それは、文化だし。

 奥手は、美徳だ。


「見たよー。見た。メガネ坊主がどうしたのかな」


 見た目で全て決めるな。


「美女と野獣とはこのことよのう」


 女史をこれ以上巻き込むのは止めてくれ。

 何が噂の火元か分からなかった。

 とにかく、女史と俺は付き合っているらしい。


「女史! どこまで行ったの?」


 二組の高田たかだくんまで、何で紛れているかな?


「やめ……。やめろよ。女の子にそんな質問は、失礼だろう?」


 俺は、こういうのは、大嫌いなんだ。

 友達を大切にしないなんて、それなら、恋人にもなれないだろう?


南野みなみのデパートまでよ」


 女史は、喉越しもよく、つるんと喋った。

 そのありさまが、どうにも悔しい程に両の眼に焼き付いている。

 だから、女史よりもいい大学へと進学する為に、勉学はしたのだがな。

 そこまでは、父さんの思惑通りだっただろうよ。

 何といっても父さんは、東大学を二度合格している。

 父さんの高校卒業と同時で一回、俺が受験したときも再度受験して、それこそ喉越しがよくご入学だ。

 普通、そんな親いるか?

 そして、誓約書を俺に書かせた。

 その文言は、『特待生を三回取って卒業すること』だと。

 二回生、三回生、四回生で取れということだ。


 ========☆

 大神直人


 HP  0200

 MP  0043

 【空腹】0001 

 ========☆


「あー。くさくさする」


 ========☆

 大神直人


 HP  0200

 MP  0043

 【心音ここね】0001 

 ========☆


 お腹だけは、満腹だよ。


「一つ、【心音】が表示されて気になるが、いつか役に立つのかな」


 ニャートリーは、強い羽ばたきで、垂直に飛び上がった。

 万能な猫鶏だな。

 いや、その前にピンクのもこもこを否定しない俺もどうかして来た。


「大丈夫ね?」


「大神さん。気にしないでいいと思う」


 やっぱり女子高生女神なのかな。

 少し癒されたからね。


「ニャン」


「ニャートリー。肩に乗るのが好きなのかい? 俺も悪い気はしないよ」


 この異世界、今は、俺の他に一匹と二柱がいる。

 何という世界かはさっぱり分からないけれども、井戸の奥に遺跡があったな。

 いずれ、ニャートリーらにせっつかれて行くのだろう。

 ――夜露を避けて、お腹が膨れている内に、眠ろう。

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