004 叫べ――夏

11 雨霧の乙女

「んー! 朝、一番にいいたいことは、『お腹空いたー!』だ」


 ========☆

 大神直人


 HP  0093

 MP  0043

 【空腹】0019

 ========☆


 あははは。

 うふふふ。

 方々から笑い声が上がる中、ニャートリーは空へと舞い上がった。


「ニャートリー、クエクエ」


 小さく可愛らしくも見える嘴から、ブルースクリーンを照らす。


 ★=== クエスト004 ===★


 二柱の種を渡す。

 この二つの種を発芽させる。

 報酬は、新しい種。

 ================★


「よっしゃあ! 再び、女子高生女神二柱降誕だな」


「失礼かと思う。大神さん」


「大神くん。仕方がないね。でも、私を忘れないで」


 うぎょ。

 二人に睨まれた。

 ハートがチキンにドクンドクン。

 割れそうな心臓でドクンドクン。

 俺のゲーオタスイッチバチンバチン。

 絶対攻略ズズカズカ。

 はー、軽いロックもいいね。


 たまにプレイする『ドレミの妖精』は、音ゲーだ。

 最初は、純粋に新しい音楽をタップしながらクリアする楽曲ゲームとしての入り口が強い。

 だが、入り込んで行く内、ゲーム内プレイヤーの信楽琴美しがらき ことみちゃんとかと仲良くなり、『フェアリー・ド』などの音の妖精を集めてしまうという罠に嵌まる。

 魔法のアイテム、七色の瞬くハープを用いて、『ダイヤモンド・トゥインクル・ハープ』を長い名前だと敵に笑われつつ攻撃に使うのもオツだ。

 バトル要素のある美少女育成音ゲーが正しいジャンルだな。


「ニャン!」


「は! どうした? ニャートリー! お、俺としたことが、涎を」


 また、トリップしてしまったか。

 そして、新しいクエストは、再び女神の降臨だ!

 種を埋める場所は、ここ。

 櫻女さんと菜七さんの並びがいいかな。

 手際よく、さっと土が乾かないように水をやろう。


「ニャーニャ」


「へえ。要領がよくなったって? ニャートリー」


 褒められても何も出ないんだが。

 ハートが赤くなるだろう。

 ととと、水やりをしているときだ。


「おお! 何かしら芽が出て来た。前程忙しく成長はしないな」


 ちょろちょろぱっぱと水をやる。

 してして、見守る。


「ん? よく見ると、これは花だ。俺でも知っている。二つともだな」


 うーん。

 多分、夏。

 シーズンは夏だ。

 何故、知っているかって?

 母さんが生け花の師範だからだよ。

 優花にも時折教えていたな。

 あの妹は、ガサツだ。

 俺の方が向いている。

 やれやれ……。

 名前は、優しい花なのだが。


「ここからが、二柱の女子高生女神になり難いのか? 渋っている。喧嘩でもしているのか?」


 まさか、花が揉めたりしないだろう?

 女神になりたくないのかな。

 女子高生だものな。


「では、私の【抱菜】を使いますか?」


「そうだな。んん、頼む。優しく労わってくれ」


「分かりました。聖なる力、【抱菜】よ! 私のこのかいなに宿り給え」


 菜七さんが、胸を抱えるようにゆっくりと包む。


 ========☆

 菜七


 HP  0074

 MP  0078

 【抱菜】3000

 ========☆


「葉七は、仲良くなって欲しいと思う! 強く思う!」


 あたたかい萌える黄色が、辺り一面を包んだ。

 俺もその一つだったりする。


「ああ、芽が……」


 芽が柔らかく膨らんで、花をつける。

 紫陽花と百合が――。

 これは、期待していいぞ。

 しかし、大変なことが起きた。


「茸も生えた? おいおい、茸もだぞ」


「茸って、食べ物ですね。儲けましたね。大神くん」


 俺は焦っていたのに、櫻女さんは呑気だな。

 櫻女さん、ほくほくしたって、ダメですよ。


「茸は、私の【抱菜】で生えるのですね」


 な、菜七さんったら!


「違うよ、神経系や消化器系をやられるものもあって、危ないんだぞ」


 菜七さんと櫻女さんは、ちょっと引いたようだ。


「そうなのね」


「それは、残念だと思う」


「でも、研究する価値はあるぞ。栽培可能なら、美味しい食材だ。種の心配も菌床だから、俺達がコントロールできるかも知れない」


 ふと、後ろから、紫の神々しい光が射し込めて来た。


「あ、花から、女子高生女神がするりと抜けて来たのか! どんな女子かな?」


 振り向こうにも眩しすぎて振り向けなかった。

 目を瞑って、手で覆いながら、悔し紛れに振り向いてやる。

 俺が攻略できない女子高生女神がいる訳がない。

 ギャルゲーのクリア数、カウントマックス持ちだからな。


 ========☆

 紫陽花あじさい


 HP  0100

 MP  0100

 【雨霧あまぎり】0001

 ========☆


 あ、僅かに神々しさが柔らかいというか、暗くなって来た。


「ほうほう。これなら読めるよ。あじさいさん」


 紫の瞳が俯きながら語っている。

 髪も紫で、ロングヘア―が結ばずに梳かれて、輝いている。

 制服は、白い襟を被って、深緑のリボンで留めた。

 他の生地は、肌も殆ど見えないロングの紫陽花の如き紫色だ。

 七変化とも言うが、俺のイメージする紫陽花はやはり紫だな。


「ふう、そうです。でも、奇妙よね」


 かなりの俯き加減に暗さ、今までの二人とは違う。

 先程の櫻女さんと菜七さんは、おきゃんだしな。

 む?

 死語だったかな。


「は?」


 俺だって、タヌキ顔になるだろう?


「どうなっているのかしら?」


 ああ、転生したことを受け入れられていないのだな。

 女子高生が元なのだろう。

 無理もないな。

 又、あの手だ。


「そ、そうだ。自己紹介をしよう!」


 俺の仲良し促進委員会は、これしかしないのか?


 ◇◇◇


「ダメだと直ぐに、思い詰めやすいタイプだな」


 あ。

 俺ったら、いきなり失言してしまった。

 謝らなければ。

 でも、どうしたらいいのか。


「ふう、そうです」


 ずっこけ。

 認めるの?

 まあ、先へ行くか。


「学校は?」


 多分、これなら無難な話題だ。


青森県あおもりけん弘前市ひろさきし聖泉大学せいせんだいがく附属ふぞく高等学校こうとうがっこう、二年いち組、英語部えいごぶです」


「好きなものは?」


「猫と神様です」


 ぶっ。

 ニャートリー、モテるだろう?


「今、紫陽花さんは、神様だけれどもね」


 あ、更に俯いてしまった。

 失言、パートツーかよ。


「感動したことは?」


「教会で、不思議な経験をしたのが印象的です」


 どんな風に不思議なのだろうか?

 女神になる位だから、転生かな?


「嫌っているものは?」


「タピオカです。ふう、そうです」


 タピオカさん?

 誰の名前だろうか?

 ああ、俺ったら無知を晒しているよ。


「俺のこと、こちらの櫻女さんは、大神くんと呼んでくれる。その隣の菜七さんは、大神さんと呼ぶよ。紫陽花さんはどうするかな?」


「えーと。で、では。大神様おおがみさまにいたしたいと思います。ふう、そうです」


 様!

 俺は、ニートだったぜ?

 様はないだろうけれども、彼女の気持ちも考えるか。


「OK」


「素敵な自己紹介だったと思う。紫陽花さん。菜七と呼んでください」


「呼び捨ては、ちょっと。ふう」


 やはり、遠慮がちな子なんだな。

 修道院を思わせる学校の制服、きっとミラクルを起こせるだろうよ。


「うん。菜七さんでお願いしたいと思う」


「私は、櫻女さんね!」


「よろしくお願いいたします。ふう、そうです」


 自己紹介も悪くないな。

 俺は、ちょっと喋って喉が渇いた。

 ――水を汲んで、百合の花にもお水をやらないとね。

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