20 八つの栞に込めた光

「んー! うんまい! 飲めるぞ。ホットミルクだ」


 ★=== クエスト005 ===★


 生乳を飲めるように加工する。

 報酬は、小麦の種。

 ================★


 クエスト005が点滅する。


「やった、クエストクリアだ」


 そして、ニャートリーが、お楽しみの小麦の種をくれるんだな。

 火種をくれた後、俺の肩で遊んでいたニャートリーが、ひょいと降りる。


「ニャニャ」


 ニャートリーが、畑にうずくまる。

 蔬菜ぽんぽん種のときを思い出す。


「ンンン、ニャー」


 暫く力んでいたかと思うと、茶色い卵を体の下から嘴で出す。

 こうなったら、ニワトリかチャボだな。

 全部で四個とは、大事にしなければならない。


「小麦の卵さんが産まれたぞ!」


「大神くん、割ってみてね。小麦は私のお仕事だから。中身も知りたいね」


 それもそうだと、思うが、他に同意が欲しい。

 今、女子高生女神が産まれる花に水をやっている菜七さんに目をやると、首肯してくれた。


「割ったら、卵の黄身と白身でしたってことはないよな」


「大神さーん。大丈夫だと思う」


 菜七さんの素敵な水やりで虹でも出そうな感じ。

 眩しくて見ていられない笑顔だ。

 人は、これを二重否定ならぬ二重肯定とでも言うのか。


「よし。割ってみる」


 卵を丁度いい所にあった石で割ろうと斜めに当てる。


「せーの」


 今にも石に当たりそうなときだった。


「きゃー! 菊きゅんに直きゅん!」


「どうした? どうした?」


 百合愛さんは、顔を覆って驚いている。

 菊子さんは、何故か百合愛さんにしがみついている。

 俺の頬を眩しい光が後方から射た。

 恐る恐るそちらを向くと、菜七さんが、水をパシャリと女体に跳ね飛ばしてしまっていた所だった。


「ま、まさか。このタイミングで新女子高生女神のご降誕か」


 俺は唾を飲んだ。


 ========☆

 秋桜しゅうおう


 HP  0100

 MP  0100

 【八栞やつしおり】0001

 ========☆


「秋桜さんと書いてコスモスさんだろうか。これで、六柱目の女子高生女神が揃ったということかな」


 俺は、顎に手をやって、秋桜さんがどうするのか見ていた。

 しかし、彼女は、秋桜の花弁を捨てたら、じいっと立っているだけだ。

 どうしたのか。

 しんとしてしまったな。

 困った。

 俺は、手持ち無沙汰に、消毒したてのホットミルクを飲む。

 ごくり。

 喉越しもいいな。

 会話が手持ち無沙汰だ。


「百合愛さん。いいホットミルクだね」


 何なんだ、世間話もまともにできないのか。

 俺のスキルは、そんなに低いか?


「大神くん。この方は、秋桜さん。東京都とうきょうと杉並区すぎなみくにある、三美神さんびしん大学附属だいがくふぞく高等学校こうとうがっこうの三年C組で、文芸部に所属されているのね。とても読書家で有名なの。メガネもチャームポイントね」


 成程という感じがしないでもない。


「菊きゅん、いつまでもこのままでいたいけれども、そんなにべったりしていられなくなったじゃん」


「百合愛。……仕方がないね」


 何だ?

 何が起こったんだ?

 菊子さんが、秋桜さんに向かって、カツカツと進みゆく。


「菊きゅん。止めて!」


 百合愛さんの悲鳴に満ちた涙声を無視して、菊子さんは、秋桜さんを睨みつける。

 そして、現れたばかりの秋桜さんをビンタした。

 その風に煽られて、秋桜さんは揺れるように倒れ、頬を庇いながら面を上げた。

 ある意味、秋桜さんが初めて動いた。

 菊子さん。

 喧嘩を吹っ掛けるなよ。


「だって、コイツは……。私の駆け落ちが失敗したとき、傍にいてくれた百合愛の唇を奪いやがった」


 んーにゃ?

 何だ、何だ。

 俺まで、ニャートリーか?

 菊子さんが駆け落ち。

 失敗してから百合愛さんと言うことは、最初に駆け落ちした方が別にいるのか。

 この中の誰かかな?

 それで、秋桜さんが、百合愛さんを求めたと。


「しゅ、秋桜しゅうおう様、お久し振りです……。ふう」


「え? コスモスさんと読まないのか? 紫陽花さんが話すとは珍しいな」


 珍しいは、失言だったか。

 ここは見逃してくれ。


「大神くん。この方は、しゅうおうさんですね」


「櫻女さんもご存知で。結構有名なのですね。初めまして。大神直人です。と、一応言って置かないと、皆からの視線が痛い」


「ニャニャンニャンニャー」


 ★=== クエスト004 ===★


 この二つの種を発芽させる。

 報酬は、後程。

 ================★


「ああ、クエスト004が消えて行く。だが、新しい種は、ないのか。いつか貰えるんだな。ニャートリー」


 ピンクの猫鶏が、何故か頬を染めている。

 赤い絵の具をぐったりと刷毛で殴ったようだ。


「ニャニャー!」


「おい、何処に行くんだ。ニャートリー!」


 空高く飛んで行ってしまった。

 太陽と被って星になってしまい、もうピンクのもこもこが感じられない。

 

「ニャートリー。照れたのかな?」


 何に対して照れたのかは、後で訊いてみよう。

 ん?

 俺ってそんなにニャートリーと親しかったっけ。

 そんなの大きなお世話だろうよ。


「私をぶったのは、菊子さん。恋の栞を挟んであるの。ぶたれたら、ぶち返すわ」


「コイツ。【八栞】を出すのは、卑怯だぞ!」


「菊子さんが悪いのよ。イケナイ子……。我が身に禍をもたらす不届き者には、成敗を! 天空より、【八栞】をこの手に集え――!」


 空が急に曇り出し、一条の光が秋桜さんの天を示す指に巻く。


「行け! 本当の姿を! 行け! 女神の皮を剥いでしまえ」


 ========☆

 秋桜


 HP  0100

 MP  2500

 【八栞】5000

 ========☆


 全員の異なる女子学生服が、徐々に、脱がされて行く。

 服が飛んで行くのではなく、自分で脱いで行くんだ。


「ああー」


「きゃー」


「やめてー」


 何だ、何だ。

 こんなお色気シーンは、求めていないぞ。

 俺の好きなギャルゲーの攻略コースは、なかよしコースだ。

 次の瞬間から、何と呼び掛けたらいいのか、分からなくなるじゃないか。


「ふん、ふん。鼻息が荒くて辛い。俺は、ここを離れたい。しかし、食べ物も水もなくなる」


 後ずさりを余儀なくされる。


「そうだ、井戸に行こう! 俺は、あっちで隠れているから、皆、きちんと服を着るように――」


 あっちゃー、下着姿にまでなっちゃってる方々も。

 着替えの素早い百合愛さんなんて、もう表現してはいけない。

 ――俺は、変態ではない!

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