21 女子高生女神の制服を脱いだら

 俺は、オオガミファームの畑から離れ、脱ぎ脱ぎしている女子高生女神を後にして行く。

 目指すは、井戸だ。

 何故って、あの近くに古代遺跡があった筈だ。

 そうそう。

 鍋を拾ったな。


「おおっと、お腹がごろごろとするな。さっきブンモモモさん乳を殺菌して飲んだが、当たったかな?」


 うう……。

 お手洗いなんてものはないから、そこの茂みでいたそう。

 言い表したくないものとご対面してしまった。

 砂を狙って集め、犬か猫みたいに掛ける。


「お腹が痛かった訳だ。これでは」


 殺菌方法を考えるべきか。

 もっと沸かす時間を長くするべきか。


「あちょー! 紙がない!」


 水が欲しいとか、野菜や茸を食べたいとか、牛乳が飲みたいとか随分と言ったものだが、結果がこれか。

 人間の――。

 自然の摂理だよな。


「葉っぱで拭くかな。……いてーよ!」


 くっ。

 そ、そうか。

 表面がつるつるのものが適しているのだな。


「これか? ちょっと肉厚だが、拭いてみるべし」


 ひいー!

 これが、声にならない悲鳴と言うヤツだな。


「はあ、はあ……」


 俺は、腰を庇いながら。

 いや、尻を庇いながら、井戸についた。


「不浄の物だが、尻に水分を与えてやってくれ」


 俺は、ヤシの殻に似た実を桶にして、水を掬う。

 よっこいせ。


「んん。重いな。汲み過ぎの訳ではないだろう」


 お尻が火が付いたように痛い。

 我慢できないから、もう一度。


「よっせ。はい、よっせ。お、重力が異常で……」


「ほほほ。……ほほほほほ」


 ひっ。

 女の笑声は、だめだっ。

 背筋がぞくっとしたよ。


「誰かいるのか?」


 俺は、注意を払って、周りを見渡した。

 だが、誰もいない。


「ほほほほほ」


「何処だ。姿を現せ!」


 向こうからだけ見ているのは、ずるいだろう?

 幽霊か何かか?

 この近くに古代遺跡があるものな。


「姿を現わしてよろしいのじゃな」


「お、おう。立ち向かおう」


 本当に、俺はチキンで仕方のない心臓しか持ち合わせていなかった。

 もうちょっと大人っぽかったら、堂々とできるが。

 現状、お化けと付き合わなければならぬようだ。


「お覚悟願いましてよ。――はああ!」


 ========☆

 水仙すいせん


 HP  0100

 MP  0100

 【合奏がっそう】0001

 ========☆


「わらわは、水仙。縁あって、参った。本当は、召喚魔法を待っておったが、冬にならないと呼ばれないでな。先にこちらの世界へ召喚された気になる方がいるので、自ら井戸に身を投げたのじゃ」


「あの……。どの時代の井戸ですか? その前に日本でしたか」


 ざばりと水を被っているが、その水の粒はきらきらとはしていなかった。

 淀んで見えたのは俺だけか。


「水仙さんですか。髪まで黄色と白の花に彩られているのですね。和服姿ですか。他の女子高生女神達は各々の制服を着ていますよ」


 懐かしい、そして、遠い目をして、自己紹介をしてくれた。


「元紅花高等学校、元一年きく組、そして堂々の帰宅部きたくぶで有名じゃったのう」


「その学校の名前、知っていますよ。菊子さんと一緒だ」


「驚いたかのう?」


 水仙さんは、素敵な着物がナインペタンの懐から、抹茶セットを出した。

 啜る。

 この異次元のポケットは、どうなっているんだ?

 しかし、触れば痴漢になってしまう。

 百合愛さんの、エッチバチンと変わらない。


「偶然ですが、黒いシャツの制服ではないのですね」


「わらわの時代は、着物に袴が正装じゃて」


 お洒落で和装ではないんだ。

 左右に赤いリボンで結った髪から、金の髪が流れゆく。

 それに沿って、水仙も散る。

 胸元は、水仙で沢山覆われている。

 瞳は、深いブルー。


「時代! いつの時代でしょうか?」


「タイショウじゃよ?」


「日本の古き元号ではないですか。うちの曾祖母が生きていたら、同じ位になりますね」


 水仙さんは、喉を潤したのか、落ち着いたのか、抹茶セットを懐に戻した。


「ここは、井戸か……。では、この先にある建物はご覧になったかのう?」


「はい。入り口付近で鍋を拾いました。とても便利ですよ。水やりにも鍋を作ったり牛乳を沸かしたり」


「それは、正しい使い方じゃ。鍋を被ってはならない。断じて」


 当然だろうよ。

 ざるも被るとだめだっ。


「何で、そんな言い伝えがあるのか。それは、戦時中に、鉄砲等が怖くて鍋を被っても貫通したと聞いたが、知らぬか?」


「初耳ですよ」


 横道にそれたが、水仙さんがご登場だ。

 てっきり、次の種から蕾が膨らんで第七柱目の女子高生女神が現れると思っていた。

 不意打ちをくらったな。


「何故、このタイミングでご降誕くださったのか」


「女子高生女神にも因果応報の欠片があったりするものじゃ。鏡の欠片……。だからじゃよ」


 ――鏡の欠片。

 この言葉に僕はとても感化された。


 ◇◇◇


「きゃあああ! いやああーん! 菊きゅん。助けて」


「私は、ブンモモモさんをコントロールできないんだよ。百合愛が、生乳と乳加工だろう?」


 き、来たー!

 何故か、百合愛さんはブンモモモさんを連れて来てしまうのだよな。


「じゃあ、菊きゅんは、果樹で栗拾いに行けばいいじゃん」


「チクチクするのは好きじゃない」


「さぼり魔の菊きゅん。それは、だめだっ」


 どうして、井戸へ駆けて来るんだ?

 仲がいいのか悪いのか。


「櫻女さんは、小麦・蔬菜で大変だね」


「土の物は一度でいいよ、もう。覚悟したし」


 菜七さんと櫻女さんはよく話しているな。

 気が合うのかな?


「菜七さんは、優しい家畜でしょう。紫陽花さんは、ぴったりの茸だね」


 俺は、櫻女さんをじっと見てゆっくりと言葉を紡ぐ。


「櫻女さんよ。紫陽花さんに茸が似合うだなんて悪口に聞こえるかも知れないだろう? 儚げな所がいいとか、ボキャブラリーがないの?」


 分からなかったら、類語辞典を用意しなってことだね。


「所で、制服は抱えているものではないよ。着ないとね。ショーツだけですと、お腹を冷やしちゃうだろう」


 今になって、急に気が付いたらしく、そこら中で悲鳴が上がった。


「いやーん」


「きゃああーん」


「恥ずかしくて、霞になりそう!」


 くうー。

 逃げて来たのにここまで追って来て。

 恥ずかしかったら、服を着ろ。

 お腹が空いていたら、これでも食べなさい。

 拾ったわらづとで作ったのだ。

 

「もう、納豆ご飯を食べてろ!」


 この匂いの攻撃で、先ずは、紫陽花さんからばたりと倒れた。

 その後、他の女子高生女神たちも全て倒れてしまった。

 ――どうなる、わらづとの俺?

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