006 哲学の小道――冬
23 大臣は誰がために
俺は、目がすっかり覚めたら、古代遺跡から元のオオガミファームへ出ることにした。
では、あの感電する蔦をどうしたか。
女子高生女神達が、通り道を作るようにかき分けてくれた。
「女神は、感電しないのよ」
何て、余計なウインクまで飛ばした秋桜さんに、俺は手刀でウインクを受け止めた。
緊迫した中でのやりとりで、俺も力を抜けとのメッセージだと思った。
入って来た所までは、近いのだが。
「はー! やっと出た!」
「よかったと思う。大神さん」
菜七さんの微笑みはいつもほころんでいて大好きだ。
明るい太陽の光を一杯に浴びる。
ああ、秋風が気持ちよく吹く。
俺の周りに女子高生女神達がいる。
何か、黙っていたら、悪いな。
思い付くのは、凄く恥ずかしくて、俺らしくもない、そんな台詞だ。
「皆、ありがとうな」
俺は、照れくさくて鼻の下を掻いた。
女子高生女神達は、女神ライトを浴びていて、表情がよく見える。
ほんわかした笑顔にしか見えないな。
一部、女子高生女神の間で険悪になっているのを除けば。
◇◇◇
井戸の近くまで行って、そこから、畑の方へ戻った。
「折角、集まっていることだし、俺を先頭に馬蹄形に並んでくれないか」
生まれた順に時計回りが無難だろう。
「そうだ。新人も増えたことだし、オオガミファームの大臣の発表をする。そうしないと、総崩れになりそうだ」
先ず、春チームか。
「櫻女さんは、小麦と蔬菜大臣。畑にいけば小麦があるから、早速スタートさせたい」
「うん。分かったね」
「菜七さんは、家畜大臣。家畜は、ブンモモモさん以外にも連れてくるから、可愛がってやってくれ。肉は食べないから」
「はい。それならありがたいと思う」
次に、夏チームだな。
「紫陽花さんは、茸大臣。茸の自然な収穫と人工栽培を試みて欲しい。分からないことがあったら、相談して」
「ふう、そうです。奇妙よね、茸なんて」
「百合愛さんは、生乳と乳加工大臣。基本的に肥育は頼んで、加工の方に力を入れてくれるかな。ときには助け合ってもいいと思うが」
「できるよ。直きゅんの為だからね」
えーと、秋チーム。
「菊子さんは、果樹大臣。栗みたいなのがまさかウニの訳はないと思うので、拾うだけでいいよ。他には、新しく食べられそうなものを探して来て」
「百合愛と一緒にいられないので、却下ですが」
「はあ? 何だって? なら、一人だけぶらぶらと遊んでいればいいだろう」
俺は、二の句が継げなくなった。
仕方がない、放置だ。
「秋桜さんは、
「私は、静かに本を読む時間があればいいの。大神直人さまへのお手紙もしたためたい」
「分かりにくいお返事だな。花が嫌いか?」
「いえ、栞にしたいです」
「なら、OKということで」
冬チームか。
水仙さんだけだな。
「水仙さんは、
俺は、一つの大きなため息をついた。
「各大臣は、大変だと思う。だが、お互いに助け合って行こう。何かの縁で、ここへ召喚されたりゲームから入ってしまったのだから」
俺は、立ち上がって、拳を胸に当てた。
こうして、一区切りをつけられ、オオガミファームの大神直人として、少し落ち着いた。
◇◇◇
「畑が足りなかったら、俺も【力拳】で【開墾】するから相談してくれ」
櫻女さんが、胸の前で腕を交差する。
「先ずは、クエスト005で貰った、小麦の種を――。【散桜】よ、我が意思に従いて小麦の発芽を助けん」
すると、ニャートリーが産んだ小麦の卵さんがパンと散り、土に溝ができ、そこにきっちり蒔かれて行く。
「さあ、【散桜】よ、栄養を与えよ。肥料は鳥類の糞より得たり」
溝にきらきらしたものが降って来る。
「ぐんぐん伸びるべく、【散桜】の力を借りて、我は麦踏をする」
========☆
櫻女
HP 0081
MP 0080
【散桜】2050
========☆
俺は、傍観者になっていた。
だって、何でも櫻女さんがするのだから。
何か、神々しい。
農業の女神か?
「麦踏をする櫻女さんは、カッコいいし可愛いな」
俺は、思わず本音を漏らした。
「大神さんも、やってみませんかね? 寒さや乾燥に強くなる他、エチレンで
「詳しいな」
「連作障害を起こさないように、蔬菜も交互に入れましょうね」
「小麦よ、我が手に集い給え」
あっと言う間に、櫻女さんの胸元に小麦が束になって行った。
「さて、蔬菜ですが、何がいいかな? 幾つかの種を植えました。収穫まで、【散桜】で急な成長をお楽しみくださいね」
「櫻女さんが、特殊能力を持っていることがよく分かったよ」
「行けー! 我が【散桜】よ。四種の蔬菜を育てるのだ」
========☆
櫻女
HP 0070
MP 0055
【散桜】1772
========☆
「櫻女さん。先程いただいた、ジャガイモとトウモロコシにトマトとマイマイネがまだ手元にあるよ。これか? 種を少し残してくれよな」
バーン!
パラパラパラ……。
「随分と大雑把だが、畑に蒔いたことには間違いない」
そこで、細やかな仕事をしている女子高生女神がいた。
「あ、紫陽花さん! 畝を作ったりしなくても大丈夫ですよ」
「いいえ。ふう、その……。後で分かるように札も立てて綺麗にしたいのです。種の形で区別がつきますので、ゆっくりと作業したいです……。ふう」
紫陽花さんが、茸以外にも手を貸してくれるのか。
俺だってさ。
案外、いい人柄に惹かれるものがあるな。
「よし。頼んだよ。茸があったら、それもよろしくな」
「水耕栽培にも適応できるようです……。ふう」
「随分と、進んでいるな!」
俺は、驚くしかなかった。
◇◇◇
次は、菜七さんだ。
そうと思ったら、新しい家畜を探しに、畑から留守をしていた。
期待はしよう。
よろしく頼むよ。
◇◇◇
これが、春チームのお仕事振りだ。
特に険悪な様子もないので、新学期までがんばっていただけたならと思う。
――いじめをノックアウトできるクラスで、俺だったら子どもを育てたい。
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