005 絡まれ――秋

18 百合なんですか

「ブンモモモさん達と戯れていてください」


 俺は、この場から離れる為、百合愛さんに押し付けてしまった。

 牝牛似の乳搾りをしている彼女は、夢中になっていた。

 けれども、俺がブンモモモさん達の群れを抜け出ようとすると、彼女は牛の背より一つ頭を出した。


「直きゅん?」


「俺は、家畜大臣の菜七さんを呼んでくるよ」


 俺は、手を振って去ろうとした。

 だが、どうだろうか。

 ブンモモモさんは、凡そ百頭はいる。

 ホルスタイン風と黒毛和牛風と分けても牛舎を四棟はいるな。

 それと放牧地。

 木立もさっぱりさせないといけないのか。


「お乳を飲めるように殺菌しないといけないじゃん」


 おう、また次の課題が。

 ニャートリーがいなくても自発的にクエストができてしまうのも困ったものよのう。


「そうか、よく低温殺菌とかあるものな。この場合はどうしようか。火を扱えるのは、ニャートリーだけだし」


「危ないじゃん」


「どうして?」


「今頃、花から産まれているよ」


 俺は、鼻息を荒くした。

 そ、それって五柱か六柱目の女子高生女神降誕だよね。

 気が付くと、急ぎ足になっていた。

 狭い土地だと思っていたが、心が急くと遠く感じるものだ。


 ◇◇◇


 丁度、ニャートリーが五柱目の女子高生女神にスポットを当てていた。


 ========☆

 菊子きくこ


 HP  0100

 MP  0100

 【雅塚みやびづか】0001 

 ========☆


「一応、女。割と女」


 その菊子さんは、ルックスが男らしい。

 積極的に女子だと、周りに訴えていた。

 だが、それは嫌味のないさっぱりした感じだ。


「えっと、その。菊子さん。初めまして。オオガミファームの大神直人です」


「だらしのない男は嫌いだよ」


 はっきり言って、むっとした。

 俺のことをだらしがない?

 こんなに張り切っているのに。

 今から割り込み参加して、何様だよ。


「だらしなくはない。俺もがんばっている」


「喧嘩は売ってないよね?」


 そうか……。

 ここで揉めるのは、いい結果に繋がらないな。

 何とか誤魔化すか。


「おお。塚的づかてきだな。【雅塚】もここから来ているのかな?」


「そうだな。塚は、兵庫県ひょうごけん宝塚市たからづかしから来たからだよ。そこの女子じょし紅花べにばな高等学院こうとうがくいんさんあか組。演劇部えんげきぶで、部長をしている」


「百合愛さんは真っ赤な髪だけれど、菊子さんも特徴的だね」


 はっ。

 俺の失言か?


「金髪なのは、役で染めたからなんだ。段々と下に紫へとグラデーションがかかるのは、気に入っている。黒いシャツに水色のネクタイが男らしくていいよ。でも、触れば女だって分かるさ」


 セーフ。

 本人は、気にしていないらしい。

 しかして、触れるとは、お乳か?

 は!

 ブンモモモさんのお乳から離れろ。


 クエスト004の一柱の女子高生女神は、菊子さんだったのか。

 そうだな。

 九月九日は、重陽だから、彼女は縁起のいい人だろう。


「果樹大臣をお願いしようかな。この辺、栗に似たものとかありそうだ。育てなくても今から食べられる」


「栗などを食したいと言うのか」


 菊子さんは、腰に手を当てて、ちょっと偉そうだな。


「そうだが。これは、オオガミファームからの命だよ」


 俺は、ぶすっとしてしまった。

 だって、ここでは俺が一番偉いのだろう?


「それより、百合愛を知っているのか?」


「今は、ブンモモモさん達と一緒だよ」


 どかか、どかかっかか……!

 この轟音は、嫌な気配がする。

 その先頭をもの凄い速さで見覚えのある制服が近付く。

 小柄な赤い髪がやって来た。


「百合愛さん、何で戻って来た?」


「百合愛!」


 と、両手を差し出す菊子さん。


きくきゅん!」


 菊子さんと百合愛さんのお二人。

 抱き合うのですね。

 男の俺からは、何も言えないです。

 百合愛さんがブンモモモさん達の面倒をかなぐり捨てたのは、そう言う理由ですかな。


「ラーブ、ラブ。ラーララララー」


「ラーララララララー」


「お二人とも超ご機嫌ですね」


 今にもキスでもしそうな二人を見たいやら見ていられないやら。


「大神さん、この動物達をどうしたいと思う?」


「ナイス。菜七さん。畑を荒らさないように、一所に纏めたいです」


「でも柵は可哀想だね。大神くん」


「櫻女さん。何か自然の力を越えた、ブンモモモさん自治会があればいいのですが」


 げー。

 俺、何てメルヘンなことを。

 自治会が牛様動物にあるなんてあり得ないだろう。


 ========☆

 櫻女


 HP  0100

 MP  0100

 【散桜】3000

 ========☆


 櫻女さんが、深呼吸をして、気合いを入れる。

 胸の前で両手を交差し、一気に唱えた。


「何とかいたします。――我が【散桜】よ! ブンモモモさん達に一つ春を起こすのです。愛し愛されれば、あなた方の取る行動はもう決まっています。明日が欲しければ、オオガミファームに尽くすのです!」


 下から上に向かって、桜の花びらが吹雪の状態になった。

 櫻女さんは、もう見えない。


「ブンモオオオ……!」


 んん?

 変わった牛様動物がいたものだな。


「直きゅん。このピンクのブンモモモさんが、リーダーになって自分達にしか見えない柵を作ってくれるって。はあ、はあ」


「ああ、何て言ったらいいのかな。この場合」


 櫻女さんの息を切る姿が、艶っぽくもあったが、女子高生相手にそんな気持ちになったら、だめだっ。

 落ち着け、直人。


「あ、あの。あ、あり……」


「蟻?」


 櫻女さんが、きょとんとした後、ふふふと笑う。


「そうだ。蟻の子一匹入らない柵だといいな」


 無理だ。

 俺は、無茶苦茶だ。

 向こうでは、まだ百合愛さんと菊子さんが、ラブラブになっている。

 飽きないんかね?

 俺の頭に影が落ちた。

 見上げれば――。


「あ! ニャートリーじゃないか。聞いてくれ。俺は、大変だったんだぞ」


「ニャンニャン」


 ニャートリーが俺の頭上にとまって、足をピンクのふわふわお腹に隠して座る。


「誤魔化したってだめだっ。俺の傍にいてくれなきゃ、だめなのだっ」


 ニャートリーは、暫く毛繕いをしていた。

 おい、俺の髪も一緒に繕うな。

 そして、軽やかに飛び立つと、ニャートリー節を咲かせた。


「ニャートリーノ」


 ★=== クエスト005 ===★


 生乳を飲めるように加工する。

 報酬は、小麦の種。

 ================★


「おう、小麦か! 欲しいな。それにミルクがあれば、元気になれる」


 ここにいるのは、ブンモモモさん達。

 生乳を加工するにはどうしたらいいだろうか?

 早く、美味しいパンと牛乳が欲しい。

 ――思い出の栞を開くと、母さんは、パンまで捏ねて焼いていたな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る