第28話:お披露目――下
堕天使の出現ポイント。そこはサンシティから遥か東に位置する廃村の教会だった。【転移】で廃村の入り口に移動し、リーンゲイルを先頭に廃村へと足を踏み入れた。一人で来ていれば一気に駆け抜けて教会に突入するが、リーンゲイルたちが露払いを買って出てくれたからゆっくり歩いて行ける。
この廃村は扱い的にはダンジョンになっているらしい。現に村の中でもモンスターが出現してる。村の入り口から教会までは、そう距離が無いので、簡単に駆け抜けられるのだが、リーンゲイルは走りたくなかったらしい。
村の入り口から五百メートルほど進んだところに教会はあった。いたるところで壁が崩れ、中が丸見えだ。正面の扉も壊れている。
「シンジ君、準備ができるまで少し待ってくれ」
さっそく教会に突入しようとしたら、リーンゲイルに制止された。高島竜二やそのほかの人たちが教会の壊れた壁のところから、中を撮影できるようにカメラを設置しているようだ。
しかも、ハンディカメラではなく、どこの放送局だ? と言わんばかり本格的な機材を二台も設置していやがる。
「アレで撮るんですか」
「ああ、これならバッチリだろ? 真治君がどんな動きをしても逃さず撮影できる」
調査で死竜と戦う時ならこの充実した機材も分からないではないが、今回は堕天使戦だ。リーンゲイルたちにとっては遥かに格下の相手であり、何の参考にもならないと思う。
リーンゲイルの奴は堕天使戦をNET上にUPするつもりなのだろう。勘弁してほしい、というのが正直なところだが、OKを出してしまった以上、何も言えなかった。
「準備ができたようだ。シンジ君、いつはじめてもいいよ」
「ハイハイ、それじゃ、いっちょやるとしますかね」
半ば投げやりな態度でリーンゲイルにそう言って、パンッ、と両手で自分の頬を叩いて気合を入れなおした。堕天使は遥かに格上な強敵だ。生半可な気持ちでいれば即座にヤラレてみっともない姿をNETで晒すことになる。それだけは避けたいのだ。
気合を入れなおして教会に足を踏み入れた途端、フロア中央の床に黒い靄が発生し、そこから堕天使がせり上がってきた。堕天使は背中に翼をもつ人型のモンスターだったが、黒くかすんだ羽の片方が半ばから折れ、その顔は紫色に変色していた。天使というよりはゾンビのような見た目である。
バトルはもうはじまっている。けれども先手は譲らなければならなかった。すぐに【超速】を唱えたいところだが、そうはいかない。【超速】を唱えた直後の攻撃が、鎌による直接攻撃か、光属性の単体攻撃だった場合は避けきれないからだ。【超速】を唱えることができるのは、発動モーションが長くて、無効化できる雷撃の場合のみである。雷撃が来るまでは【超速】抜きで単体攻撃を避けなければならない。
堕天使のモーションを注意深く観察していると、最初の攻撃は鎌による直接攻撃だった。鎌を振り上げるモーションと同時に、俺横ステップで攻撃を躱し、そのまま距離をとった。【超速】無しでは攻撃を避けることしかできず、こちらから攻撃できる余裕は無い。しかも、避けるのもギリギリというのが現実だった。
祈るような気持ちで雷撃を待っていたが、次の攻撃も鎌だった。一度実際に見た技だ。さっきよりも余裕をもってサイドステップで躱す。ブンっと顔の前を鎌が通りすぎ、攻撃に備えるために腰を落とす。
さあ次はなんだ。しかしまたしても鎌。同じ攻撃は効かないんだよと心の中で叫び、余裕をもって避ける。堕天使がのけぞった。光線のモーションだ。目が光ったと同時にかがみこみ、頭上を熱波が通り過ぎた。
「お前の動きは学習済みなんだよ」
光速の攻撃を避けた興奮から思わず独り言ちたが、周囲の驚く声が聞こえてきて我に返る。そこから鎌→光線と、攻撃を避けた所でようやく堕天使のモーションが変化した。
両手を広げ天に顔を向けたのである。このモーションが待ちに待った雷撃の予備動作だ。迷うことなく【超速】を唱えた。そして、教会の中全体を無数に別れた稲光が襲う。
しかしだ、【雷神の冠】の装備効果で雷属性は無効。無傷で雷撃を凌いだ。直後に【超速】が発動し、上昇した”素早さ”を存分に活かして堕天使の攻撃を華麗に避けまくる。その合間に【ミドルポーション】を連投して堕天使を倒すことに成功したのである。
いつでも耳を塞ぐ心構えはできていたのに、堕天使が超音波を使ってこなかったのは拍子抜けだったが、倒すことができたのだ。何も言う事は無い。
「いやぁ、見事な戦いだったね。なんなんだい、君のあの動きは。レベル1の動きじゃないよ」
「あはははは、気にしないでください。あれが俺の戦い方なんで」
リーンゲイルはちょっと大げさに賞賛してくれた。高島竜二は目を丸くして驚いていた。だからすこしだけ溜飲を下げることができた。
何はともあれ、堕天使の初回限定ドロップアイテム【身代わりの腕輪】を手に入れた。これで最後のアイテムを手に入れるための準備に取り掛かれる。
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