第17話:第九話:雑魚ボス三連戦――上

 スライムの丘での二度目の稼ぎがようやく終わり、目標にしていた金額をなんとか手に入れた。【匂い袋】を使っていたおかげで、倒したはたからほとんどタイムラグなく湧き出るスライム。緊張感を切らすことなくフル稼働し、事故無く終えることができたのは、一緒に頑張る結衣の姿に励まされ続けたという側面も大きいだろう。


 高レベルのハンターならば、装備をそろえて数ランク上のモンスターとバトルを重ねることで、今以上の金を楽に稼ぐことができるが、そういう高望みをしても仕方がなかった。それでも、スキルポイントに関して言えば、高レベルハンターでは不可能な速度で荒稼ぎしているのだ。


「俺のレベルはずっと1だからな。どれだけレベル1のスライムを倒してもスキルポイントが手に入る」


 ある意味チートのような気もするが、戦闘不能になってもデスペナルティーの影響が少ないレベル1に固定されているからこそできた、この世界の仕様の裏を突いた荒稼ぎである。お金は毎日銀行に預ければいいし、スキルポイントも目標値に達したら必要なスキルを獲得すればデスペナルティ―も怖くはない。


 短期間――とはいっても一年とちょっと――で溜まったお金と様々なスキルをステータスウィンドウで眺めて悦に浸る。


「ずっとレベル1ってのも案外有りか……レベル1ってもしかして最強?」


 それはもちろん間違った解釈だ。いくらスキルを覚えたところで、レベル1のMPでは使えるスキルが限定され過ぎるのだから。まさに宝の持ち腐れ、豚に真珠である。


 分かっていることであるが、終盤に近付くにつれて、泣き言とか愚痴を言っている自信がある。それでもひっきりなしに湧き出るスライムと戦闘し続けた甲斐あって、体の動きや剣捌き、それに、チャンスを逃さず常に戦いをコントロールするクレバーさは、ずいぶんと洗練されてきた気がする。


 それというのも、スライムの突進を待つことなく、隙あらばランダム挙動中でもお構いなしに剣を振るっていたのだ。そうしなければ単調な作業に嫌気がさしていただろうし、バトルセンスも磨くことができない。それに、これだけの金額を稼ぎきることもできない。


「いい訓練になったよ。スライムさまさまだな」


 レベル1の身で高レベルのボスと戦うために最も必要なのは、知識もさることながらクレバーさとバトルセンスなのだから。


 そんなことはさておき、これから予定しているボスモンスターとの連戦で、入手しようと考えているモノは三つ。【疾風の指輪】【韋駄天の腕輪】【神速ピアス】という装備アイテム、つまりアクセサリだ。名前を見ればわかると思うが、全て”素早さ”に関するアクセサリであり、どのアクセサリも”素早さ”を2プラス補正する効果があって、悲しいかなどれも非売品だ。


 レベル1という現状――ムシュフシュを倒すまでは変わらない――では、攻撃力や防御力を上げてもあまり意味はない。次のボスモンスター三連戦までは武器と防具の充実でなんとかなるが、その後に控えているボス戦では、一撃でも貰えば戦闘不能確定だ。


「まぁ、悲しいかなボスだけじゃないんだけどな」


 だから上げるべきステータスは――とはいてもレベル上昇による向上は不可能――”素早さ”のみとなる。


 ”素早さ”を底上げする唯一のスキルを最終形まで発展させ終わった今、アクセサリなどによる補正しかステータスを向上させる道がない。


「レベルさえ上げることができれば……」


 とは何度も思ったが、できないことを考えても仕方がない。それに、最近では結衣も遠慮することなくモノを言うようになっていた。そんな彼女がそばにいてくれることが、心の拠り所になっているのかもしれない。


 そんなこんなで、せっせと稼いだ金を銀行から下ろして、これからの三連戦で装備する防具を買うためにサンシティの防具屋へと足を運んだ。結衣も一緒だ。


「ねぇねぇ、真治。今日はどんな防具を買うのかしら」

「ふふん、これさ!」


 そう言って結衣に見せた防具は陳列棚に飾ってあるミスリル三点セット。【ミスリルの鎧】【ミスリルの小手】【ミスリルの兜】である。ミスリル三点セットはハンターレベル20台中盤から30台中盤までが適正装備レベルだ。


 これから攻略しようとしているボス三連戦には過ぎた装備だが、悲しいかなレベル1の俺ではミスリル三点セットレベルの防御力が無ければ三連戦を乗り越えられない。相手はどれもレベル一桁後半のパーティで攻略できるボスたちだ。だからレベル1ソロで戦うためには、この分不相応な性能の装備が必要になる。


「スゴイ防具だね。渋い銀色で格好いいし、わたしも買おうかしら」

「たぶん買えないと思うよ。これだけで七百万円もするから」

「グッ、確かに買えないわね……」


 物欲しそうにミスリル三点セットを見つめていた結衣には彼女の適正装備より一ランク上のおすすめ装備を紹介していた。彼女がこの三か月で稼いだお金はだいたい把握している。その範囲で十分に間に合う価格帯の装備だ。


 ちなみに、結衣とははほぼ毎日狩りに出ていた。彼女が相手にしていた敵もスライムより高レベルだから、かなりのハイペースでお金を稼いでいた。が、【匂い袋】を使ってスライム大量虐殺という反則的な稼ぎ方をした方が、溜まったお金は彼女より三倍ほど多い。


「真治の話を聞いてると、レベル1から上がらないのもそう悪くはないって思っちゃうわ」

「それは冗談キツイっすよ、結衣。スライム大量虐殺ほどツマらないっていうか、精神的に疲れる稼ぎ方法は無いよ。それに、成長できないってのはやっぱりつらいし……」

「ゴメン。わたし配慮が足りなかった」


 下を向いて現実を思い出してしまったせいで、結衣は申し訳なさそうに謝ってくれた。これはちょっと失敗したかもしれない。ガハハと笑い飛ばすくらいのメンタルが欲しい。


「湿っぽい話は無しだ。次の目的地に行こう」

「うん」


 気を取り直して次の目的地である道具屋で【ハイポーション】九十九個と【MPポーション】二十個を買った結果、残金は五十万円と少しを残すのみとなっていた。


 これでボスモンスター三連戦の準備が全て整ったことになる。決行は明日から、全てのボスに勝てば【疾風の指輪】【韋駄天の腕輪】【神速ピアス】が揃うことになる。


「よし、パーッとつ使ちまったついでだ。今日は俺がおごるからメシでも食いに行こう」

「そだね、でも、今日はわたしに出させて」

「それはダメだろ。結衣には結衣の目標があるんだから」

「でも……」


 大枚をはたいたこの日は、結衣と街を散策して、最後にいつもより豪華なディナーを割り勘で堪能し、英気を養った。

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