第15話:資金調達――上

 自分のミスで冷っとした場面には遭遇したが、無事に大鷲を倒すことができた。そして、アイテム欄には【足軽の靴】が燦然と輝いている。


「っしゃぁ!」

「よかったね」


 イベントボスのノーマルドロップ確率は100%。目的のものが入手できないはずはないが、自分の目で確認しないと安心できない。もしかしたらレアドロップもと、期待していたが、それは叶わなかった。


 ところで、金髪のイケメン兄さんことアルベルトは、盛大な拍手と賛辞をおくったのち、さっそうとバトルフィールドに入っていった。彼のレベルは16、【金切声】対策に【麻痺】を無効化できる指輪を装備していた。


 そのほかにも金にモノを言わせたのだろう、レベル16ではとても入手できないような防具と、魔法防御力に補正がかかるアクセサリを装備している。


 戦いの方はといえば、それはもう大鷲がかわいそうなくらいの圧勝劇だった。先制で【金切声】を喰らったというのに、アルベルトの頭上に浮き上がったダメージはたったの5。その直後、大鷲を切りつけたときのダメージは三ケタ中盤。圧巻だったのは、【衝撃波】を防御もせずにまともに喰らい、受けたダメージは0だっことだ。


「うん、あれは反則だよ。チートだ」

「真治、そんなに羨ましそうな顔しない」


 勝負にならないというか、勝負以前の問題だ。たったの二撃で終わったアルベルトのバトルを見て、金の力をいやというほど思い知った。


 ◇◇◇


 今、結衣と共に祝勝会と称してこの前行ったケーキ屋に来ている。注文したのはこの前と違うが、結衣お勧めのフルーツで豪華にデコられたショートケーキだ。


 そしてなぜか、アルベルトが同席している。ここのケーキ屋は、結衣が記念日に食べたいと言っていたほどには高級な店だ。低レベルのハンターや一般市民がそう簡単に利用できる店ではない。


 なぜこんな高級店でケーキを食っているのかといえば、それはアルベルトのおごりだからである。彼曰く。


「今日は物凄くいいモノを見せてもらった。そして感動した。僕に奢らせてほしい」


 ということだった。他人に金をめぐんでもらうのは、チンケなプライドのせいで許せないところがあるが、なぜだろう、食べ物をおごってもらうことに抵抗は感じないのだ。


「でも、さっきはすごかったね。レベルが10倍の敵に勝っちゃうなんて」

「結衣君の言うとおりだよ。レベル1で大鷲に勝てるなんて、今でも僕は信じられないよ」

「あんなえげつない勝ち方をしてた人がそれをいいますか、アルベルトさん」

「あはは、僕の場合は装備が良いからね。自慢できることじゃないんだ」


 それを理解して、こうして偉ぶらないところは、さすが貴族の息子だと思う。装備の強さを自分の強さだと勘違いするようになったらそこで成長は終わり、未来はないのだから。


「はぁー、世の中不公平だよな~」

「ハイ、愚痴を言わない。それよりも、これからはどうするの?」


 それはもう決まっている。スライムの丘とは別の場所で、違うモンスターを狩る。今度は結衣と二人できちんとパーティーを組む予定だ。


「ああ、しばらくの間、お金とアイテムを稼ごうと思うんだ。気前よく使っちまったからな」

「またあの場所で?」

「いや、それはもう勘弁願いたいよ。防御力が上がってるから狩場をワンランク上げようと思うんだ」

「わたしも一緒していいかな?」

「もちろん大歓迎なんだけど……結衣の今の装備じゃちょっと心もとないかな」


 懇願するよう聞いてきた結衣に満面の笑顔でOKすると、彼女の顔がパぁッと明るくなる。


「そっか……じゃぁ真治とおなじ装備にする」

「いや、それは止めた方がいいよ。俺の防具は魔法防御力が低すぎるから」

「えっ!? 真治はどうするつもり? 魔法」


 今の装備は物理防御と”素早さ”補正特化だ。金にさえ糸目をつけなければ物理魔法ともに優れた装備はあるが、全然足りなかった。だからといって魔法に対抗する手だてがないわけじゃない。だから自信をもって答える。


「単体攻撃だから全部避ける」

「避けるって、もし当たったらどうするのよ」


 そう、単体魔法はすべて避ければいい。この世界でのバトルは敵の攻撃中も動けるアクション型のRPGに近いからだ。戦闘時の動きは、わりと自由度が高い。エリア攻撃は避けられない場合があるが、その状況を作らなければいいだけだ。


「絶対に当たらない。それに、万が一当たって復活の神殿行きになっても俺の場合は被害が小さいからね――」


 ケーキをおごってくれたアルベルトそっちのけで、結衣と装備の話をはじめてしまったが、彼は「スゴク参考になるよ」といって興味津々で聞いていた。


 結衣には物理と魔法どちらにも対応できるような防具を、彼女の買える範囲でアドバイスしておいた。というか買い物につき合わされることになった。


「今日はありがとう」

「いえいえ、それは俺たちの言葉です。アルベルトさん、ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした。とっても美味しかったです。アルベルトさん」


 ◇◇◇


 そして翌日、結衣と共にスライムの丘と隣接するエリアに来ていた。狙うのはレベル5の『天日モグラ』というモンスターだ。しかし、このエリアには天日モグラ以外にも同じくレベル5の『大王オケラ』というモンスターがポップする。


 天日モグラを狙う目的は、レアで【MPポーション】をドロップするから。なのだが、天日モグラの出現率は低い。ほとんどが大王オケラであり、比率でいうと天日モグラはエンカウント五回に一回程度だ。


 モンスターがポップする間隔はスライムの丘の倍、ただし、どちらも通常四匹組でポップするので、二人パーティーでも数でいえば効率は同じになる。しかし、稼ぎで考えるとスライムの丘の三倍強の効率になるのだ。それは、ひとえに売値が二万五千円もする【MPポーション】が、たま~に手に入るからだ。


「MPポーション、いっぱい落ちるといいね」

「こればっかりは運だからなぁ。まぁ、なるようになるさ」


 この場所で狩りをするのは結衣がレベル6に上がるまでである。その期間は約四か月だ。それだけ頑張れば、一日平均五千円使ったとしても、約二百八十万円相当の稼ぎが得られる予定だ。


 バトルセンスは必要だが、スライムの丘を卒業し、まともな装備と有効なスキルを獲得すれば、レベル一桁でも年収手取りで八百万オーバーだ。安定さえすればハンター稼業はかなり割のいい仕事だと分かるだろう。


 そんなこんなで、十日に一日程度の息抜きを交えながら結衣と二人で朝から晩まで狩りに勤しんだ。たま~にアルベルトも、「勉強になるから」と言って近くで狩りをしていた。もちろんパーティーは別で、彼はハンター仲間の女性を一人か二人連れてくるか、ソロだった。


「右二体守り重視で、もし喰らったら回復頼む」

「OK真治、隙があったら倒しちゃうよ」


 そんな感じで連携しながらも、あっという間に月日は流れる。


 お互いにソロのときとは違って、パーティを組んで声を掛け合いながら連携してるから飽きが来にくいし楽しい。もはや連携の完成度はここで稼ぎはじめたころとは雲泥だ。結衣の戦闘技術も格段に向上している。

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