概要
♪♪♪モチーフ♪♪♪
『ワルツイ短調 作品34の2』
フレデリク・フランソワ・ショパン作曲
『アラベスク第1番』
クロード・アシル・ドビュッシー作曲
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!透明に、惹き込まれる
穏やかに心象に語りかけてくる純文学です。
モチーフとなっているショパン『ワルツイ短調 作品34の2』や、ドビュッシー『アラベスク第1番』を伴奏にして読まれることをお勧めします。
おとなであることに空虚さを感じているササオカさんと、白百合の病に冒された十歳の外見をもつミヨシくん。二人はピアノ教室でお互いの透明な感性を共有します。
その透明は、ガラスのような脆いものではなく、花綻ぶ仲春と空高き晩秋の空気が同居したような——あるいは少女的青春と晩年が入り混じったような——儚くも壊しえぬものです。
それは、ピアノや病、オフィーリアのモチーフとともに、美しい筆致にのって、音楽のように胸に迫ってきます…続きを読む - ★★★ Excellent!!!共鳴するふたつの魂
「透明」という言葉は全編を包むキーワードです。ピアノの音色も、ミヨシ君の存在も、先生の想いも、全てが透明感に溢れています。
少年のかたちをしながら老成し、自らの終わりを受け容れることで透明度を高めてゆくミヨシ君。そして語り手であるササオカさんもまた、社会や常識というものを知りながら、そこに嵌まり切れない、濁ることのない少女性を持ち続けて大人になってしまったような女性です。そのためでしょうか、二人のつかの間のふれあいは、あたかも二つの同じ魂が共鳴する時間のように感じられるのです。
ラストはピアノ曲を聴き終わったあとの切なくも清々しい余韻と同じ。幸せな女の子という言葉が胸に沁みます。
おの…続きを読む - ★★★ Excellent!!!透明な音楽に包まれたその人は、一輪の花のように儚くて清らかでした
まるで童話のような、明瞭でわかりやすい語り口の中に、語り手であるササオカさんの穏やかな心情が現れています。
その心は、ある出逢いを通してどんどん透明性を増していきます。
大きく乱れることのなく、打ちひしがれることのない、流れる水のような時間。
自由で繊細な、ピアノの鍵盤を操る指先のような動作。
彼女の目の前にいる、白い花のようで雛鳥のような、不思議な青年。
彼と過ごす時間が、ショパンのワルツとともにゆったりと揺らぎながら流れていきます。
透明なこの時間を、いつまでも大切にしたい。
美しい言葉で綴られる本作は、間違いなく誰の心をも魅了する純文学といえるでしょう。 - ★★★ Excellent!!!雛鳥とオフィーリアのための鎮魂歌。
無味乾燥な大学生活を終え、社会に出たばかりの主人公は、ピアノ教室に通い始める。そこにいたのは、10歳ほどの奇麗な少年だった。ピアノ教室の先生の孫だった。主人公は、ピアノ教室に遅刻した際に、少年と二人で留守番を頼まれる。そこで主人公は、少年の母が「白百合の病」によって亡くなっていることを知る。その病は身体に奇形を及ぼし、命を奪う、恐ろしいものだった。少年は母の奇形の手が白百合のようで美しかったという。しかし父親はそれに耐えられず、少年の元を離れた。そんな少年を引き取った祖父でさえ、怪しげな信仰に逃げたのだ。
まるで雛鳥のような少年と、シェイクスピアのオフィーリアについて語らい、少年の年齢に…続きを読む