Ⅱ
私は数度、ミヨシくんと会話を交わしたことが、あります。
彼は、不思議な少年でした。
ミヨシくんの髪は、どの月曜日も同じ長さでした。おとがいのあたりで真っ直ぐに
分厚く
「ミヨシくんは
まだ初夏の陽光の柔らかい頃、真実に言いました。するとミヨシくんは、ただでさえ大きい瞳をより大きく開いて、
「どうして、僕の名前を知っているの?」
か細い
「先生が、あなたのこと、ミヨシくんって呼んでおられるでしょう」
私は、ピアノ教室の老先生を、ちらりと
クロード・ドビュッシーの肖像に似た先生が、鍵盤を磨いておられます。先生は優しくて、神経質な人柄でした。生徒のために、鍵盤を丹念に磨いて下さることから伝わります。
「ササオカさん、お待たせしました」
私のレッスンの時間が来て、ミヨシくんとの会話は、次回に持ち越されることとなりました。
「ミヨシくんの髪は、いつも綺麗に揃っているのね」
初夏の生温さに、カサブランカの甘い芳香が溶けていた時期に言いました。ミヨシくんは折り紙の手を止めて、私と目を合わせます。何処か哀しげな、水を
「女の子に間違われたり、しない?」
目の前の少年は、女の子のように、と言うよりも、性が未分化の時代に限定される独特の美しさを
「ササオカさん、お待たせしました」
初夏の月曜日、私はミヨシくんの声を聞かずじまいに、レッスンに入りました。
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