透明に、惹き込まれる

穏やかに心象に語りかけてくる純文学です。
モチーフとなっているショパン『ワルツイ短調 作品34の2』や、ドビュッシー『アラベスク第1番』を伴奏にして読まれることをお勧めします。

おとなであることに空虚さを感じているササオカさんと、白百合の病に冒された十歳の外見をもつミヨシくん。二人はピアノ教室でお互いの透明な感性を共有します。
その透明は、ガラスのような脆いものではなく、花綻ぶ仲春と空高き晩秋の空気が同居したような——あるいは少女的青春と晩年が入り混じったような——儚くも壊しえぬものです。
それは、ピアノや病、オフィーリアのモチーフとともに、美しい筆致にのって、音楽のように胸に迫ってきます。

あなたもぜひ、その『透明』を感じてみてください。

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