十年間雪が降り続く町。人々に【うそつき】として疎んじられていた美冬は一人、町外れの天文台で暮らしていた。彼女はとある事件がきっかけで、【うそ】を唯一楽しんでくれた秋人と疎遠になっていた。
そこに、ヨウコと名乗る少女が現れ、天文台に逗留させてほしいと願い出る。
無駄のない情景描写と抽象的な心理描写。しかし、抽象的でありながらメッセージ性の非常に強い物語になっています。
ところどころに描かれる、論理学的パラドックスと数学的理論を交えたウィットに富んだ文章も心地よいです。
一度読んだら心を掴まれてしまうような、純文学的名作です。
【困ったことに】あかいかわさんの作品は読んだ直後にレビューが書けないのです。
硬くて噛みちぎれないようなお話ではありません。
作品から受け取るモノが大きすぎて、咀嚼するためのインターバルが必要になるのです。
【素敵なうそ】の物語です。
読んだ後【わかっている】のに【わからない】不思議な感情に陥りました。
作品の素晴らしさを人に伝えたいのに、言語による処理が追いつきません。
だから、とりあえず読んで欲しい!
読みながら、ひらたすら勝手な深読みをしていました。
物語のカギになる【ヨウコ】は何を示唆しているのかな。とか、
美冬は【展望台で何の星?を見ていた】のかな。とか、
【十年前に降り出してからやまない雪はどこに降っていた】のだろう。とか。
けれど作中にでてくる『〈排中律〉を取り除ける』と言う一言が特に素敵に感じたので、答えではなく、自分なりの発見を導き出すための咀嚼を続けたいと思える作品です。
読後、パブロ・ピカソの残した『芸術とはわれわれに真理を悟らせてくれる嘘である』という言葉を思い出しました。
ぜひ【素敵なうそ】に翻弄されてみてください。