Ⅳ
初夏が盛夏になっても、ミヨシくんは相変わらず、ピアノと折り紙に夢中です。
まだ
「本当に可愛い、お孫さん」
ミヨシくんは、ガムシロップを
「ミヨシくんと同居し始めて、何年目だったかな。可愛い孫と過ごす時間は、精神的に充たされるものですよ」
「先生は、かつて独り暮らしを?」
「ええ。妻に先立たれましてね。娘……この子の母親も、他界しておりまして。ミヨシくん、冷蔵庫のジュレを、見てきてもらえないかな」
ミヨシくんは頼まれて、教室を一旦、退出しました。
「私たちの生活の拠点に、この雑居ビルの最上階を借りているのです。
「テレビは無いのですか?」
私は、そんな質問を
「テレビは、パソコン画面で視聴できます。ニュースを観る程度ですが。あの子も、テレビが欲しいとは言わないのですよ。ミヨシくんと暮らすにあたって、必要なものをリストアップしたのですが、あの子は不思議で。既に、あるもので、充たされているのです。何をも、欲しがらないのですよ。晩年の、せいでしょうか」
さいごの言葉は掻き消されるように小さいものでしたが、確かに『晩年』と聞こえました。どういう意味なのか
「ジュレ、ちょうど良く、
ミヨシくんは、サクランボと生クリームをデコレーションしたブルーのジュレを、バスケットに収めて戻りました。型に流された大きいジュレです。
「ササオカさんと、ふたりで楽しむといい」
「おじいちゃんは食べないの?」
「私は、血糖値に気を付けねばならないからね」
「そうなの?
「可哀想ではないよ。私は、今までの人生で存分に食べ過ぎたんだ。しかし、煙草は
禁煙推奨の御時世、老先生の内ポケットから煙草の箱が出てきました。
「すみませんが、ミヨシくんと、ふたりで、お留守番をお願いできますか」
お留守番なんていう可愛い単語を、久々に聞いた気がしました。
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