第25話 正体

 前回のあらすじ!


 ギルドに現れたオルガ=ダグハット。彼はヒビキを指差して「予言の剣士」と呼ぶ。それはヨハン=シュトラウツとともにゴダドールの地下迷宮に潜り、最深部のゴダドールの間での戦闘で戦死したとされる戦士の二つ名であった。

 正体がばれるのを恐れたヒビキであったが、なんとか屁理屈をこねてその場を逃れようとする。そして魔法使いとしての力量を示しすためにライオスが考案したのが力量差がなければ成功しない牢獄プリズンの魔法でオルガ=ダグハットを拘束することだった。

 しかし、その魔法の行使をじっと見ていた男がいた。「ゴダドールの再来」コスタ=ウェリントンである…………。




 *******




 巨大な腕が更に巨大な鉄の塊がついた棒を振り回す。おそらくはその一撃が当たってしまうとほとんどの仲間が生命活動を終わらせる事になるのだろう。

 仲間の援護を頼りに、その鉄の塊の持ち主の正面に立つ。自分の2倍以上ある巨躯から振り下ろされる一撃を何とかしなければならなかった。まずは避ける事を考える。だが、全ての局面でそれが正しいとは限らない。


「足首を狙え」


 狩人の仲間にはそう指示を出してある。つまりは足を狙うだけの隙を作る必要があり、それがなされれば次に続く仲間たちの攻撃を耐える事はできないはずだった。最初の一撃が重要である。

 わざと、タイミングをずらして剣を振る。腰の入っていない一撃だと、理解できる相手ではない。図体の割りに頭の回転が悪いのだ。だが、力は尋常ではない。



 巨人族



 ゴダドールの地下迷宮において最強の一画を担う奴らに作戦は必要ないらしい。攻撃が当たれば、相手が死ぬ。この最強とも言える魔物を攻略しない限り、ゴダドールの地下迷宮の第8階層から更に深くへは潜る事はできない。そして、それがこの迷宮の突破が不可能だと言われている理由の一つだった。


「あいつらの攻撃で壊れない装備が手に入れば、この迷宮は攻略したも同然だ!」


 この一言に尾ひれがついて、周囲の冒険者にはヒビキの言うことはだいたい当たると、言い触らした騎士がいた。


 巨人族の容赦のない一撃が振り下ろされた。今まで、全ての物を破壊してきたハンマーでの一撃が俺の掲げた盾にぶつかり、押し潰そうとする。だが、その日の俺は今までの有り金のほとんどを注ぎ込んで鍛冶屋に特注したフルプレートと盾を、持っていた。全身全霊をかけて地面に踏ん張る。地面が割れた。だが、俺は耐えきった。


「きっついな…………」


 基本的に俺の役目はここまでだ。この攻略を耐えきったために、巨人族に隙が産まれた。足にデイライの矢が刺さり、動きが鈍くなった所にリディの魔法が顔面に着弾した。たまらずのけ反った巨人族の首筋にツアが後ろから短剣を刺し込んだ。奴が痛みに気づいた時にはツアはすでに離れている。首から大量の血を吹き出し、左の足首を引きずりながら、巨人族が最期の力を振り絞ってハンマーを振り回す。だが、すでに腰に力が入らない一撃は最強の一撃ではなく、再度俺の盾に阻まれると、力なく膝をついた。巨人族が最期に見たのは自身の首に吸い込まれていくダマスカスブレードだったに違いない。


「予言の剣士か…………」


 なんでも俺の言うとおりにしていれば大丈夫。ヨハンがそんな事を言ったのをリディが茶化したのが最初だった。フルプレートを脱ぐのが面倒だった俺が町中ではあまり顔を知られていなかった。それもあって、ヨハンが「救国の騎士」と言われる頃に、俺は「予言の剣士」と言われていた。巷の噂によると、自分の死をも予言していたらしい。




 ***




「師匠、いや……」


 コスタが言った。やはり、先程のやり取りがばれたらしい。そのうち気付くとは思っていたが、かなり早かったな。


「コスタ、後で話そう。ライオスと3人でな」

「いえ、パーティー全員で話しませんか?」


 正直なところ、ミルトとティナを巻き込みたくはない。だが、コスタが不信感を抱いている中、話さないわけにはいかないだろう。そして、エオラがあのように俺に好意を抱いてくれている今、この「辺境の迷宮」は攻略したも同然だった。かなり早いが、パーティー解散か、それとも…………。


「誰かが聞いている所じゃまずい」

「第4階層では?」

「いいな、そうしよう」


 今後の事を話し合わなければならない。



「何よ、さっさと言えばいいのにもったいつけちゃって」


 事情を知らないティナは「話す事がある」というのを深刻には受け止めていない。前もってジジイとヨハンには事情を話した。二人とも、俺に任せてくれるらしい。ジジイはばれたらばれたで困る事はないという表情をしている。ミルトは少し心配な顔をしており、ヨハンは顔面が蒼白だった。たしかに、ゴダドールの事がばれて一番大変なのはヨハンである。


 第1階層からのスロープで第4階層まで降りる。少し進むとベースキャンプ予定地が見えてきた。エオラの火山ボルケーノでめちゃくちゃになったかと思っていたが、地形などは変わっていないようである。散乱した焦げた物資をどかして、内部に入る。


「さて、ここなら誰も聞いてないな」


 エオラは別として。


「まず、…………俺はオルガの言う通り、「予言の剣士ヒビキ」だ」


 ある程度予想していたコスタですら、信じられないという顔をしている。他の二人は…………。


「ちょっと! 寝言は寝て言いなさい!」

「そんなわけないですよね! だって魔法使ってたじゃないですか!?」


 とまあ、こんな具合である。


「今まで黙っていてすまなかった。だが、これから先に言う事を聞いてしまったら後戻りできない。その覚悟がないならここでパーティーは解散しよう。地上までは安全に送る」


 ゴダドールの事は国家レベルの事となる。事実がばれてしまえば追っ手がかかるかもしれないのだ。冒険者ギルドも使うことができなければ生活するのも困るだろう。



「覚悟? そんな物はすでにできてますよ?」


 意外にもすぐさま言ったのはミルトだった。


「まだ、本当にちょっとしか一緒にいませんけど、私の事を理解してくれたのはこのパーティーだけです。国を救った凄い騎士に、頼りになる魔法使いさん、ちょっとエッチだけど皆を守ってくれる剣士に意外と皆の事を一番に想っている僧侶さん、あとめんどくさいけど絶対に私が何をしても最後まで裏切らない魔法使い……、こんなパーティーは二度と会えないに決まってるじゃないですか。このパーティーで進むんです。後戻りなんて、考える必要ないです」


 ミルトがそんな事を思っていただなんて。コスタが泣きそうになってるぞ?


「わ、私だって…………本当は回復魔法でお金儲けなんてしたくなくて、でもこのパーティーはそんな事全く気にしてないように振る舞ってくれて…………」


 ティナも、このパーティーは居心地が良かったようだ。


「師匠、いやヒビキさん」


 だが、コスタは別だろう。ミルトの事があったとは言え、師匠だと思っていた俺はほとんど魔法が使えないのだ。


「僕にとっては納得できる説明じゃない。魔法で僕が手も足も出なかったのは事実だから。でも、もし、その先に僕の追い求めているものがあるのならば…………」



「あるぞい」



 感情を押し殺して言うコスタの言葉をジジイが遮った。後ろに回ったジジイは、いつの間にか大魔術師のローブに身をまとい、時刈りの杖を持っている。ジジイ、そのためにゴダドールの間まで転移テレポートを往復で2回ほど使ったな。ジジイはすでに全身に魔力を帯びている。その量はコスタどころか、エオラの何倍も多い。誰が見ても、強大な魔法使いだった。


「ラ、ライオスさん…………?」



「コスタ=ウェリントン、お主の才能と努力を認めよう。もし望むのならば、このゴダドール=ニックハルトの唯一の弟子にしてやってもよい」



「ゴダ…っ…!?」

「ライオスさんが!?」

「…………!!」


 それぞれ反応は違う。ただ、コスタは完全に意識が飛んでいた。魔力量に当てられたのかもしれない。まあ、憧れの存在だったわけだしな。ミルトに認められ、ゴダドールの弟子となる、今までの人生で最も良い日に違いない。



「つまり、このジジイはゴダドールで、暴走すると国が滅ぶから俺が面倒みてるわけだ」

「誰がお前さんなんかに面倒みてもらってるじゃと!?」

「お前だ、お前! このエロジジイが! 行く先々で問題起こすだろうがっ!!」

「お前さんに言われたくないわい! 変な一癖も二癖もあるような連ればっかりのくせに!」

「変な連れ代表が何をほざく!」

「やるのか、貴様!」

「あぁ? 吠え面かくなよ!」

「ちょっと、二人ともやめなよ~」



 こうしてパーティー解散の危機はうやむやになって乗り越えた。起きたコスタが何とも言えない表情になってて、どちらを師匠と呼べばいいのか分からなくなってたのは、放っておくとしよう。

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