第3話 辺境の迷宮

 前回のあらすじ!


 とりあえず色々あって出来上がったのが、戦士ゴダドールと魔法使いヒビキのパーティーだった!




 *******




「というわけで王様が僕に辺境の迷宮に潜れって言うんだよ。でも、僕はヒビキがいないとそんな所には潜れないからね! あ、僕にもエールをひとつ!」

「堂々と言うことじゃねえだろう……」


 当たり前のように俺たちのテーブルについて、エールを頼むヨハン。ウエイトレスがヨハンを見てびっくりした。さすがにフードをとればばれるらしい。


「しかし、なんじゃって辺境の迷宮なんぞにあるものとやらで王国崩壊が阻止できるんかいの? そもそも本当に王国は崩壊するのか?」

「う~ん、それは僕には分からないよ。でも、ゴダドールもあの王様の必死な顔を見たら断れないと思うよ? あのぶっさいくな巫女と結婚するくらいなら王国崩壊を選びかねない勢いだったからね!」

「ヨハン、ここでその名はダメだ。こいつは戦士ライオスだ。ばれたらどうすんだよ?」

「あっ、ごめんね、知らなくて…………」


 大魔術師ゴダドールはすでに死んでいたという設定にしていた。偽名として使っているのは戦士ライオスという名前である。さすがにゴダドールが生きていて、しかも見た目が30台の戦士に転職しているなんて言っても信じる奴は少ないとは思うが、迷宮を攻略した「救国の騎士」が言ったのなら話は別だ。


「まあ、そういうわけで付いてきてよ」

「う~ん、どうすっかな」

「なんで!? ヒビキなしでどうやって辺境の迷宮を攻略すればいいのさ!?」

「いや、お前さんも「救国の騎士」と言われてワシの部屋まで来た凄腕の騎士じゃないんか? たしかにヒビキに頼りたいのは分からんでもないが、騎士団の部下たちを連れて行けばよかろう」


 ゴダドール、いや戦士ライオスがもっともな事を言う。


「ジジイ、違うんだ」

「何が違うんじゃい?」


「こいつな…………」




 ***




「いや、嬉しいよ。ヒビキが付いて来てくれて。これで辺境の迷宮も攻略できたようなもんだね」


 俺たちは辺境の迷宮の近くにあるというルノワの町に来ていた。まさかジジイの転移テレポートで一瞬だとは思わなかった。便利過ぎる。ここはかつての迷宮都市ペリエのように王国の内外から冒険者たちが集まる場所となっている。王国の管理する冒険者ギルドが設立され、迷宮に挑む冒険者たちは登録が必要となっていた。


「とりあえず、その冒険者ギルドに行くか」

「ふふふ、驚くと思うよ」


 なかなか大きな建物が見え、看板には「冒険者ギルド」と大きく書かれている。新しく建設されたばかりなのがよく分かる。そして、その冒険者ギルドを中心にして町が形成されているようだった。まるで迷宮都市ペリエの縮小版である。


「実際に迷宮への入り口は冒険者ギルドの中庭にあるんだって。というよりも入り口を囲って建物を建てたという方が正しいかな」


 ヨハンの説明に納得する。他には何もなさそうな辺境であるからな。辺境都市だけに。周囲には宿屋やら鍛冶屋やら迷宮に挑戦する冒険者を相手にする稼業の建物がちらほらと見えた。意外にも人は多く、迷宮から出た鉱物などを利用して質のいい武器防具をつくる鍛冶屋なんかもあるそうである。


「ジジイの迷宮よりもいい物が取れたりしてな」

「ワシの家は別にそういった目的に造ったもんじゃないぞ?」

「でも、ゴダドールの地下迷宮でしかとれなかった鉱物がここでもとれるんだって。ヒヒイロカネとか」


 ジジイがさりげにヨハンの言った事に対抗意識を燃やしたのではないかと思われる。ちょっとむっとした表情で言った。


「ふん、迷宮と言うても魔力が足らんければメンテナンスができんだろう。意外と維持するのはきついんじゃぞ?」


 しかしその維持をしなくなったゴダドールの地下迷宮はいまだに魔物が繁殖しており、それなりの稼ぎが出る場所として冒険者たちは潜る事をやめていない。俺もジジイも初心者冒険者を装って何回か潜った。第2階層くらいで帰らないといけない事になったのは戦闘よりも罠とかその辺の関係で進めなくなったからである。盗賊の仲間が必要だった。こっちで募集しなければ迷宮には潜れそうにもない。


「さあ、中に入ろう。フフフ」


 ヨハンが機嫌よさげに冒険者ギルドの扉を開ける。中の1階は受付と酒場になっているようだった。ほとんどが酒場スペースであり、新規受付があるだけである。中央に大きな階段があり、本格的なギルドの業務は2階が主体でやっているようだった。昼間から酒を飲んでいた冒険者たちの視線がこちらに集まる。


「お、おい……あいつって」

「まさか、「救国の騎士」ヨハン=シュトラウツか!?」

「ついに、ここにも来たのか!」

「おいおい、どれだけ本気なんだよ、王様は……」

「やっぱり、噂どおりこっちの迷宮の攻略報酬はゴダドールの地下迷宮より上なんだな」

「お、俺…仲間に入れてもらおうかな?」

「やめとけ、お前じゃ足引っ張るだけだ」


 すでにここでもヨハンは有名人になっているようだった。さすがに「救国の騎士」なんて大層な二つ名がついているだけはある。


「なんじゃ、たいした奴がいそうにないのう」


 その冒険者たちを眺めてジジイが呟く。たしかにゴダドールの地下迷宮を突破した仲間のような冒険者はほとんどいなかった。ここにいるのは駆け出しの冒険者が多いのかもしれない。


「深く潜れる連中は2階のラウンジにいる。1階は安酒しか置いてないんでな」


 急に横から声をかけられた。ジジイのつぶやきが聞こえていたらしい。


「ギルマスだ!」

「めったに下に降りてこないギルドマスターが!」

「やっぱり噂は本当だったんだ!」


 その声を発した人物を見て、1階の冒険者たちがどよめいた。ギルドマスター? そんなに有名な人物なのか? ぱっと見ても暗い店内で顔が見えにくかった。いや、認識しにくい立ち位置にいると言った方が良かったのかもしれない。しかしこの感じは覚えがある。数か月ぶりだった。


「久しぶりだな、ヒビキ」

「ツアか!?」


 ギルドマスターと呼ばれた男はもともと俺たちのパーティーで盗賊業をしていたツアだった。


「なんじゃ、お前さんか」


 ジジイがつまらなさそうに言う。


「ね! ビックリしたでしょ?」


 そしてヨハンな何故だが嬉しそうだった。もともと知っていたのだろう。もしかするとここのギルドマスターにツアを推したのはヨハンかもしれない。


「冒険者は引退したんでな。こうやって迷宮に入る連中を束ねる仕事をしてるんだ」


 もはや伝説となった「救国の騎士」のパーティーメンバーであれば駆け出しの冒険者たちも言う事を聞く。意外にもまともな人選である。


「さあ、ここはひよっこどもがうるさい。上の俺の部屋に来いよ」


 何やら数か月しかたっていないというのに、ツアが別人のようである。




「登録は済ませた。だが、こんなにも早く来るとは思っていなかったぞ?」

「それはワシが転移テレポートを使ったからじゃ」

「……なんでもありだな」


 ギルドマスターの部屋に通されたあとは、ここの冒険者ギルドの登録の必要事項を聞かれただけで、他はほとんどツアがやってくれた。これで迷宮に入ることができる。


「宿の手配もしといてやろう。迷宮を突破するとなれば長期滞在になるだろうからな」

「いや、助かるよ、ツア」

「ヨハン、お前はもっとしっかりしろ。この国の英雄なんだぞ?」

「そんな事言っても、できないものはできないよ」


 お茶を飲みながらヨハンが笑顔で答える。


「そんじゃ、今日は宿に泊まって明日から迷宮入りか?」


 すでにお昼はかなり過ぎていた。もう少しで夕方になるくらいの時間だろう。今日は宿で英気を養って、明日の朝に迷宮に入るのがいいと思われるんだが……。


「3人だけで入るのか?」


 ツアが怪訝な顔をした。警戒や罠の解除役、回復役などパーティーに必要な人物はまだそろっていないのは事実だった。前回の仲間たちはほとんどが自分たちの居場所に帰っていったしな。ツアも現役を引退してしまっている。


「いや、ちょっと心配…」

「大丈夫じゃ! ワシの迷宮ならいざしらず、こんな辺境の迷宮ごとき、あっと言う間に突破してくれるわい」


 ジジイがツアの言おうとしたことを遮って宣言した。ありゃ? これはもしかしてフラグってやつか?


「お腹減ったから宿でご飯食べようよ。それとも、ツアのオススメはあるの?」

「え、いや。ヨハンの好きそうな食堂だったら宿の向かいにあるやつだけど…」

「よし! いくよぉ!」


 ヨハンが出て行ってしまった。そしてそれにジジイもついて行く。二人とも腹減ってたのか?


「おい、ヒビキ」

「言うな。それともお前が現役復帰するか?」

「…………」



 この迷宮探索はかなり大変な事になるかもしれない。ヨハンだけではなく、ジジイも暴走しそうだからな……。

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