第4話 地図係と荷物係
前回のあらすじ!
とりあえずは3人で迷宮に潜ることになった! 嫌な予感しかしない!
*******
翌朝、迷宮の入り口がある冒険者ギルドの中庭に俺たちは集合していた。戦士の恰好をしたライオスのジジイと、魔術師の恰好をした俺を見てツアがため息をついている。
「いくらお前らとはいえ、そんな初心者用の装備で大丈夫なのか?」
「ワシの時刈りの杖と大魔導のローブを貸してやったんじゃが、魔力が足りずに吸い尽くされよったんじゃよ、こやつ」
「俺のギガンテスプレートを着たら歩けなくなって、ダマスカスブレードを持ち上げることもできなかったジジイには言われたくない」
まあ、そんな事情で俺たちはそれぞれの職業の実力相当にあたる初心者装備である。
「まだ、こっちの迷宮は第4階層までしか到達した者がいない。ゴダドールの地下迷宮に比べても遜色のないくらい危険な迷宮だ。本当に無茶はするなよ」
「ふん! ワシを誰だと思っておる」
初心者装備に身を包んだ戦士が言っても絵面からは説得力がない。たまにこいつが本当に大魔術師ゴダドール=ニックハルトだったかどうかを忘れそうになる。
「じゃあ、行こうよ」
そしてヨハンが緊張感のない声を上げた。一応、今回は低階層の探索と地図作成が目的である。あまり重装備が必要なわけではなかったが、それでも補給品は多めに持っていくことにした。魔術師である俺が背負う背嚢が意外と大きく、傍から見たら変なパーティーに見えることだろう。
「本当に、気をつけろよ」
最後までツアは俺たちの事を心配してくれていた。だが、大丈夫だ。いざとなったら奥の手がある。
迷宮の入り口はいかにも洞窟といった感じの縦穴だった。降りるための梯子がつけられている。
「先にいくよ~」
ヨハンが鎧をガチャガチャ言わせながら降りていく。あの鎧は騎士団長に就任した時に王様からもらった物らしく、かなり質のいいものではあるのだが、迷宮探索には向かないんじゃないか?
「意外と暗いね~」
梯子を下りた先はほとんど何もない洞窟の空間が広がっていた。ところどころにヒカリゴケが生えており、照明の代わりになっている。ゴダドールの地下迷宮は大魔術師ゴダドールの設置した永久魔法照明がいたる所にあったから松明はいらなかった。生息していた魔物たちも光がないと生活できなかったはずだけど、ここにいる魔物は視力に頼らないタイプのものがいるかもしれない。
「陰気な所じゃのう」
対抗意識を燃やすジジイ。だが、照明の面では完全にゴダドールの地下迷宮の方が勝っている。
「さて、地図の足りないところを中心に探索するぞ」
冒険者ギルドで購入した迷宮の地図を取り出す。先に探索を始めている冒険者たちにお金を払ってギルドが作成した地図である。未だに第1階層が全て網羅されていないくらいのものだったが、ないよりはマシだった。しかし、この地図が本当に正しいかどうかは分からない。そのためにギルドでは地図の作成と確認を専門で行う冒険者を募集しているくらいである。
「ジジイはいなかったけど、あっちの迷宮攻略を始めた時と同じことをすればいい」
「そうだねぇ」
「なんじゃ? 何をやるんじゃ?」
俺とヨハンがまだ2人組だった頃を思い出す。ゴダドールの地下迷宮に初めて潜った時に魔物に襲われて現実を理解した。魔物を倒すというのも重要な事ではあるが、迷宮攻略に必要なのは生きて帰ることである。それは何となく理解できた。そして俺には日本での知識という大きなアドバンテージがあったのだ。
つまり、ゲーム知識である。そんなにやりこんだわけではないが、ダンジョンもののゲームならやった。そしてそのゲームの最も面白かった部分がダンジョンの地図を作製していく過程である。通路の形、トラップの位置、モンスターの出現するポイント。それらを全て地図に書き込んでいく。書き込まなくても迷宮の攻略はできるのだが、その階層を全て書いて地図を作り上げることで得られる達成感は、いいものだった。
「地図だ。地図を描くんだよ」
背嚢の中には地図を書き込める羊皮紙とインク、ペンを入れてある。
「地図を書き上げることで、その階層を全て把握し、ゆっくりと降りて行くんだ。まあ、書き終わる頃には地図がいらなくなっているんだがな」
「なるほどのう、そうすることで確実に突破できるというわけか。それじゃあ、今日は第1階層を網羅するんじゃな?」
「そうだ」
ギルドの地図は書き方がなってなかった。これだけの情報では初めて第1階層に入る人間が安全に移動できるというわけではない。俺は梯子を下りたばかりの場所から地図の作成を始める。
「この広場を越えた所に左右に別れる道があって、右を進むと第2階層に降りるようだ。俺たちは左に行くとしよう」
第2階層に降りる方の道は比較的詳しく書かれている。ただし、罠の存在は書かれていても詳細まではなかった。罠にも様々な物があり、魔力を持った迷宮であれば一度解除してもまた発生するといったものまである。後で確認が必要だ。
「じゃあ、この広場が地図の通りかどうかを確認したら先に進むんだね?」
「ふん、まどろっこしいのう」
ヨハンは慣れたもので俺の背嚢から出したインクとペンでギルドの地図になにやら書き込みだしている。ゴダドールの地下迷宮の時も地図に書き込むのはヨハンの役割だった。今回も地図係をするつもりなんだろう。
「そう言えば、地図には書いてないけど、どんな魔物が出てくるんだろうね?」
「ああ。魔物が出現するというのは聞いているが、魔物の種類までは教えてもらえなかったな」
迷宮が違えば、出現する魔物も違うんじゃないだろうか。
「よし、この広場は大丈夫そうだね」
「じゃあ、先に進むぞ」
こんな感じで地道に踏破していくのが迷宮探索のコツである。一気に降りて不測の事態が起こるなんて事はよくある話だが、馬鹿のする事であり、だいたい誰かが死んでしまうほどの失敗につながる。パーティーの仲間が死ぬと、精神的にやられるだけじゃなくてその補充にも時間がかかるからな。
「おい、魔物じゃぞい」
通路を左に曲がった先にはまたしても広場があった。ヒカリゴケがあまりないせいか、かなり薄暗い。そんな中に動く影が2体……明らかに人ではなかった。
「
「うるせえ、これから覚えるんだ」
「と、と、とにかく戦うんだよね?」
ジジイが剣を抜く。一般的な鉄の剣だ。そこまで重くもなければ切れ味がいいわけでもないのだが。シャリンという抜剣時の音が広間に響く。魔物は既にこちらに気づいているようだった。
「形からして、ホーンラビットか?」
ゴダドールの地下迷宮の表層にいたウサギ型の魔物を思い出す。
「若干、色が違うのう」
しかし、あれは灰色だったが、こちらは真っ白だった。しかし頭についている角は同じ形状である。ホーンラビットであれば後れを取ることなどあり得ない……はずだ。
「さ、さあ、頑張って!」
ヨハンが言った。
「頑張るって……お前さんも前衛じゃろ?」
剣を肩にかついでジジイが言う。ヨハンはいまだに剣すら抜いていなかった。というよりも、お前剣はどうした? よく見るとヨハンの腰には剣が佩かれていなかった。背嚢の中からなんとなく豪華な鞘がちらっと見える。
「おい、冗談だと思っておったが……」
ジジイが半眼になってこちらを見た。いや、説明はきちんとした。俺は悪くない。
「だから言っただろ? ヨハンは臆病だから戦えないんだよ。前回のゴダドールの地下迷宮突破の時もそうだったけど、ヨハンは地図係と荷物係なんだ」
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