第5話 ローブを着た戦士と鎧をつけた魔法使い

 前回のあらすじ!


 迫りくる恐怖ホーンラビット! ついに「救国の騎士」がその実力を示す!

「だから言っただろ? ヨハンは臆病だから戦えないんだよ」




 *******




「仮にも「救国の騎士」と呼ばれている人間が戦えないとはどういう事じゃ!?」

「仕方ねえだろ! 人には適正というもんがあるんだよ!」



 騎士ヨハン=シュトラウツは戦闘にはまったく向かない人間であったが、その家系は騎士の家系であり、強制的に騎士団に入団させられていた。入団に当たっての戦闘訓練などは一通り受けたのであるが、その性格からして魔物と戦うなどとは到底できない人間だったのである。部隊の他の騎士が全滅した時も、一人臆病にも離れた場所にいたから怪我だけで済んだのだった。そんな騎士と俺はパーティーを組むことになったのである。大変だった。


「詐欺じゃ! 「救国の騎士」などと民衆を偽りおって!」

「世界の破滅の原因が何言ってんだよ!」

「うるさいわい!」

「ええと、ごめんね」


 そうこうしているうちに白いホーンラビットはこちらへ近づいて来る。その数は2匹。


「仕方ないから2人で戦うぞ」

「分かったわい」


 ジジイが剣を構える。俺は後方から詠唱に入った。


フレイム!!」


 炎系破壊魔法であるフレイムの魔法である。手のひらサイズの火の玉がそこそこの速度でホーンラビット目がけて飛んだ。かわそうとしたホーンラビットであったが、躱しきれずに後ろ足が燃える。動きが鈍くなった。


「どうだ!」

「へなちょこ魔法じゃのう」


 ジジイが突撃してくるもう1匹のホーンラビットに斬りかかった。だが、その剣は空を切り、左手にもった盾にホーンラビットが体当たりをする形になる。たまらず後ろに後ずさるジジイ。盾にぶつかってしまったホーンラビットは若干脳震盪でも起こしているのか、ふらついていた。


「ちゃんと当てろよ!」

「うるさいわい!」


 ジジイがもう一度ホーンラビットに斬りかかる。今度は胴体を捉えることができ、ホーンラビットは絶命した。こちらももう1発のフレイムを唱えてとどめを刺す。



「やったね!」

「……ふぅ……ふぅ」

「……」


 しかし、ここで俺たちは重大なことに気が付いてしまった。ジジイは戦士としてホーンラビットにてこずり肩で息をしており、俺はさきほどのフレイム2発で魔力がほとんどなくなってしまっている。嬉しそうにジジイが切り殺したホーンラビットの皮を剥ぎ取り、肉に加工しようとしているヨハンは放っておいて、俺とライオスのジジイは目を合わせて言った。


「「これ、まずくね?」」


 まだ第1階層の最初の戦闘である。それをここまで手こずり、さらには魔法使いの魔力が切れ、戦士は体力を使い果たし休息が必要。騎士は最初から戦闘には参加するつもりがない。つまり、これ以上探索を継続することはできないから普通であれば撤退を検討する場面である。こんな所で。そう言えば、二人でゴダドールの地下迷宮に潜った時はズルしてジジイの魔法で進んでいたな。


「これ、ヒビキ。さすがにこの状況はまずかろう。なんとかせい」

「うるせえよ、ジジイ。俺だってこんなに早く魔力が尽きるとは思わなかったんだよ」


 魔術師と戦士としてはお互いに一流であるはずだが、職を変えてしまった今となってはお互いに無能だった。つまり、このパーティーには誰一人一流がいない。


「とれたよー」


 ホーンラビットの肉をはぎ取ったヨハンが嬉しそうにこっちにてを振っている。というより、洞窟の中で叫ぶな。


「こんな状態で、例えば集団を組むゴブリンのような魔物に襲われでもしたら……」



 そして、それはお約束というかフラグと言うか、次の瞬間に向こう側から20匹を超えるゴブリンが出現したのは言うまでもなかった。




 ***




「それで? 3人じゃ迷宮には潜れないと思って撤退したと」

「おう。現役復帰しろよ」

「断る」


 ギルドマスターに現役復帰を断られた俺たちはギルドの2階のラウンジで酒を飲んでいた。このままでは確実にどこかの階層で全滅する、いや全滅はしないかもしれないけど行き詰まることが確定している。

 結局、あの後も戦っていたのだが、最初にジジイが音を上げた。その前に俺は魔力が尽きて魔法を撃てなくなった。ヨハンは逃げてた。


「チェンジぢゃ!」


 ジジイが叫び、初心者用の杖と剣が交換され、ローブを着た凄腕剣士と火炎爆発ファイアエクスプロージョンを連発する鎧をつけた魔術師がゴブリンの集団を駆逐するまでに1分かからなかったというわけだが、これじゃ本末転倒である。すぐにライオスがゴダドールだとばれて国に居場所がなくなる。



「だいたい、戦士と魔法使いの二人だけで迷宮に潜るなんぞ馬鹿じゃったのう。荷物係は別として」

「エーエー、ソウデスネ。もし迷宮を作った大魔術師様がいたならすぐに指摘シマスモンネ」

「なんじゃと貴様!?」

「なんだよ、やるか!?」

「あー、俺は現役復帰しないし、喧嘩するなら外で、しかも本来の職業ではやるなよ」

「ああうー、ごめんよぉ」


 酒を飲むのを中断するのはどうかと思ったのでジジイと決着をつけるのは今度にする。ドカッとソファに座り直したジジイも酒を飲み続けるつもりのようだ。ツアは付き合いきれないとばかりにギルドマスターの部屋に戻って行ってしまった。


「とりあえず、募集をかけるか」

「うむ、美形の女性で頼む」

「……エロジジイめ」


 見た目は30台の男にしか見えないライオスのエロジジイはすでに100歳をゆうに超えている。もともと惚れていたルアという仲間は初代市長と結婚して、その子供の子供の子供の………まあ、子孫がまだ市長をやっているのだそうだ。ジジイに言わせるとすでに面影もくそもない他人にしか見えなかったらしい。


「清楚な感じがいいのう」


 なんて事をいいながら、前世の日本であれば自主規制が入りそうな顔をしている。これはダメだ。絶対にこのジジイ、モテたことがないに違いない。


「能力を優先するんじゃねえのかよ」

「能力なんぞ、二の次じゃわい。いざとなればチェンジしてシーフスケルトンとダークメイジの召喚サモンでなんとでもなろう」


 と、結構酷い事を言い出した。しかし、それをするためには俺たちが職業を偽っていることがバレてしまう。


「しかし女か……」


 前回のパーティーは全部男だった。ヨハンが弱過ぎたこともあって能力を最優先にしたところ、男ばっかりのパーティーが出来上がってしまったのである。これは生物学的な差を考慮すれば仕方のないことだろう。それに色恋沙汰はパーティー分裂の原因ともなるために避けているパーティーも多い。しかし女性だけのパーティーは少なかった。前衛がどうしても男でなければ耐えられないのである。その分、盗賊や僧侶、魔法使いに女性冒険者は多い。


「というわけで顔を重視して声をかけて来い」

「なんで、俺が?」

「ワシが女の子に声をかけるなんてできるわけがないではないかぁ!」

「いや、そんな堂々と言われても……」


 前世でもナンパなんてしたことがなかった。パーティーの仲間を募集する時は基本的に他の奴に任せていたのである。どうしようか二の足を踏んでいたらジジイが「この際、サキュバスの召喚サモンでもいいやもしれん……どうせ未練などないし……」とか言い出した。やばい、早めに人間の仲間を募集する事にしよう。



「ねえ、サキュバスって何?」

「ヨハン、お前は知らなくていい」

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