第6話 駆け出しの盗賊
前回のあらすじ!
迷宮の
「チェンジぢゃ!」
ローブを着た戦士と鎧をつけた魔法使い、そう呼ばれる原因となる出来事がおわり、一行は新たなる力を求めるのであった。
*******
「で、駆け出し魔法使いのパーティーになど、誰も入ってくれんかったと? 使えん奴じゃわい」
「うるせえ! 文句があるならてめえで行け!」
約1時間ほど手あたり次第に声をかけまくったが、全て振られてしまった。というよりも仲間を募集している女性冒険者などほとんどいなかったのである。こうなったら、ヨハンがパーティーのメンバーを募集していると言ってしまおうか。しかし、いざ探索になってヨハンが戦えないという事を知ったら抜けられてしまうに違いない。
「頭の悪い奴と組むと、本当に疲れるのう」
「なんだと、引きこもりジジイが!?」
「何じゃと!?」
と、いつも通りの展開となってしまっている。
「ふん、頭を使え頭を」
ジジイが受付の方を指差した。業務のほとんどは二階で行っているのだが、ギルド登録の受付は一階にあった。
「新人のパーティーは新人同士でしか組めないものじゃ。であるならば、受付に登録に来たおなごを狙うというのが定石よの」
なんと、こいつは天才か!?
「仕方ない、見ておれ。お前さんを見ていたらあの程度できるような気がしてきた。ワシがおなごをゲットしてやる」
さっきまで声をかけられないとか言っていたが、非常に不安だ。大丈夫だろうか……。
***
「君、もしかして今日初めてここに来たのかい? 僕らもそうなんだけど、良かったら少しお話をしないか? ちょうどパーティーに戦士と魔法使いと荷物係しかいなくてね」
「いえ、いいです。遠慮しておきます」
ジジイが3人目に玉砕するのを見て、腹筋が崩壊するかと思った。
「ぐっふっふっふ、ふひー、腹いてぇ。何その口調……」
「うぬぅ、おなごはこういうのに弱いと思っていたんじゃが……」
だめだこいつ。絶対にモテないタイプだ。
「やっぱり、こんな所だと思ったぜ」
気づくとツアが階下に降りてきていた。先ほどから俺たちのやり取りを2階から覗いていたらしい。
「ちょっと待ってろ、おーい! ミルト!」
ツアが一人の冒険者を呼ぶ。
「んん?」
ジジイがいきなり反応した。ツアが呼んだ冒険者が結構可愛かったからだ。見た感じ軽装に身を包んだ黒髪でショートカットの女の子である。童顔だが20台前半くらいだろう。もしかしたら10台かもしれない。
「こいつはミルト。駆け出しの盗賊だ。こっちがヒビキとライオス。魔法使いと戦士だな」
ツアが俺たちをミルトに紹介する。
「お互いに条件に合っているはずだ」
「ミ、ミルトです。よ、よろしくお願いします」
「やあ、僕はライオス。駆け出しの戦士なんだ……」
「それやめんか、ジジイ」
「ミルトはな……すでに4つのパーティーに追い出されてしまってるんだ。お前ら、盗賊だったら実力は二の次でもいいんだよな?」
「もちろんじゃ! いや、もちろんだとも!」
完全にミルトの見た目で判断をするジジイ。ツアが即行で「よし成立」と言っている。嫌な予感がする。
「あー、俺はヒビキだ、よろしく。ミルトはなんで4つのパーティーに追い出されちまったんだ?」
百歩譲って実力が二の次だとしても聞いておかねばならない。
「それはですね……私が……いわゆるドジなんです!」
盗賊がドジって……ツアが俺と目を合わそうとしないんだけど。
***
「しかし、これはないだろう?」
「ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!」
「こりゃヒビキ! なんて事をいうんじゃ!」
「うーん、あっ、ここだね。地図に乗ってるよ! 良かった良かった」
ミルトを連れて初めての迷宮探索に行く。すると第1階層で魔物に出会う前にパーティー全員で落とし穴に落ちたというわけだ。結構長い距離を滑り台に乗っていた気分である。ここは絶対に第2階層ではない。もっと深いところまで落とされた。それもご丁寧に罠を発見して、それを解除し損ねて、という経緯である。
「うー、今度はできると思ったのにぃ」
「いいんじゃよ、失敗は当たり前にあるんじゃて。それを次に活かせばええ」
ジジイがミルトにデレデレになっているが、すでに口調がジジイであるので孫に対する変なジジイにしか見えなくなっている。ただしミルトはライオスがゴダドールだという事を知らないはずなので、変なジジイ口調の戦士にしか見えてない。どちらにしろ変なジジイだ。
「ヒビキ、このギルドの地図に書いてあるあの湖っぽいのがこれだと思うんだけど」
ヨハンが冒険者ギルドの地図をのぞき込んで言う。確かに形が似ている。湖のほとりに落ちて来たのだろうか。地面が柔らかい場所で助かった。
「不幸中の幸いってやつだな。今日は地図作成もそこそこに帰還することを目標にすっか」
「すみませんっ! 私のせいで皆の命を危険にさらしてしまって」
「大丈夫じゃ、ミルト。ワシを信じるがいい」
ミルトの手をガッチリと掴んでジジイが言う。このエロジジイめ。セクハラで訴えられる前に止めねばならない。
「でも、第4階層ですよ!? 今までで一番強いと言われている冒険者のパーティーがやっとこの前たどり着いたのに……」
「ワシを誰だと思っておる? ワシこそはゴダ……げふぅっ!!」
かなり体格のいい駆け出しの魔術師による飛び蹴りを喰らってジジイが吹き飛ぶ。その先を言わせるわけにはいかないんだ。
「ジジイ、セクハラ禁止だ」
「ヒビキ! 貴様! ワシを誰だと思って……」
「だ・か・ら・駆け出しで運動不足の戦士のライオスさんデスヨネ?」
「ちょっと、喧嘩してる場合じゃないよお?」
ヨハンが間に入ってきた。魔物と戦う時は臆病なくせに、こういった時は大丈夫というのはどういう事なのだろうか。
「ぐぬぬ」
「戦闘要員は二人しかいないんだから、お互いに傷つけあっちゃダメだからねぇ。あと、ライオスはなんで怒られたか分かってるよね?」
落ち着き払ってヨハンが松明に火をつける。これでかなり明るくなった。地上への出口の方角も見えている。地図は間違いなさそうだ。
「できたら、地図を作りながら帰りたいところだけど、テントの準備がないんだよ」
ほのぼのと言うヨハンに対してミルトが唖然としている。
「テントって、第4階層ですよ。いくら「救国の騎士」でも、しかもヨハンさん戦えないって聞いてるのに」
「うん、大丈夫。この二人がいれば。それよりも僕は今日のご飯の方が気になるよね」
「……!?」
こう見えてヨハンは雑用係としては一流である。テントの設営も、テントがなくてもその辺りの素材でつくってしまうような器用な男なのだ。だからこそ、ゴダドールの地下迷宮を潜るパーティーに最後までついていくことができた。もちろん俺もその辺りは全く心配していない。
「ふん、ワシがおればこの程度の迷宮の魔物など、恐るるに足らん」
ふふん、とジジイが鼻で笑う。何やら秘策がありそうだった。
「さあ、落ち着いた所で出発しようか。いい? ヒビキ?」
「ああ、いいぜ」
前回のパーティーのくせが出ている。全てはパーティーの実質的リーダーだった俺にヨハンは何事も確認してくるのだった。それで、他のパーティーメンバーも情報を共有しやすい。意外にも、この男は優秀なようで優秀でないようで、思わぬところが優秀である。
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