第7話 オリジナル魔法

 前回のあらすじ!


 盗賊がドジってどういう事?

 新たに加わった仲間「ミルト」。彼女はショートカットのとてもかわいい女性であるんだが、とてもドジであり、なんというか第1階層を探っていたら気づいたら第4階層まで落とされていたようなレベルのドジっ子だった!




 *******




「ミルトよ! 見ておるがいい!」

「ライオスさん! 危険です! あれはホブゴブリンです! 一対一でもかなりの力を持っているくせに集団で襲ってくる嫌な奴らですよ! ……あれ、ヨハンさんがいない!?」



 第4階層から第3階層へと上がる階段を目指して俺たちは進んでいた。途中に広間になっているところが数箇所ある。そのうちの一つが、ホブゴブリンの巣だった。地図に詳しく書いていないのは、この先まで行ったパーティーがホブゴブリンの巣をどうにかして通り抜けたからだろう。実際に死角になる所は多く、時間をかければなんとかなりそうだった。それにホブゴブリンはゴブリンと同じで夜間はあまり行動をしない。いくら数十匹の集団が巣を作っているといっても夜間起きているのは数匹がいい所で、これだけの大きな空間であれば通り抜けるのも問題なかっただろう。ただし、俺たちのパーティーにはジジイがいた。


「こら、ジジイ! 余計な戦闘を起こすな!」

「うるさいわい! ホブゴブリンごとき、戦闘になるかどうかも怪しいわ!」


 それはお前がゴダドールで魔法をバッコンバッコン撃ってればそうだろうが、今は駆け出しの戦士ライオスだ。昨日第1階層でホーンラビットに苦戦したばかりじゃないか。あいつはアホなのか?


「ヒビキ! 矢が面倒じゃ! 風鎧ウインドメイルを唱えよ! よし、このくらいで良いぞ!」


 ジジイが自作自演で風鎧ウインドメイルの魔法を唱えて、さも俺が唱えたかのようなへたくそな芝居を打つ。しかしミルトは気づいていないようだった。俺が無詠唱であの距離に補助魔法をかけられるわけがないじゃないか。


「ふははは! 体が軽い! まるで魔法使いの浮遊フロートがかかっているようじゃな!」


 とか言いつつ、ちゃっかりかけている。他にも数種類の補助魔法をかけているようだ。あのジジイめ。


「剣のサビにしてくれるわぁ!」


 そして引力グラビティの呪文と風刃ウインドカッターの呪文の重ね掛けで、押し寄せて来たホブゴブリンは適当に動くジジイの剣めがけて引き寄せられてしまい、斬られてしまうという事である。


「野郎……」


 事情を知らないミルトからすると、ライオスという凄腕剣士がホブゴブリンの集団の中に入って片っ端から斬りまくっているいるようにしか見えない。


「ライオスさん、すごいです!」

「ふははははは!! そうじゃろう、そうじゃろう!」


 そして調子に乗りすぎだ。だが、ホブゴブリンごときではジジイを止められないらしい。それもあの風刃ウインドカッターの威力が凄まじいからである。だが、そのうちバレるんじゃないか? そもそも増幅装置の杖がない状況の魔法のくせにあれだけの威力とか反則である。


「あれ? もしかして……」


 いつの間にかもどってきていたヨハンがジジイの剣を見て言う。


「あの剣ってさ、ゴダドールの間の前にいたグレーターデーモンが持ってた杖と持つ部分が同じだよね?」


 あのジジイ、自分の迷宮の中でもかなり強い部類に入る魔物の杖を強奪し、文字通りの付け焼刃をして持ち込んでやがる! あれは剣じゃない、杖だ!


「そりゃ、魔法打てるわけだよねえ」

「卑怯だ!」

「いや、バレなきゃいいんじゃないの?」


 ミルトに聞こえないようにこそこそと二人で喋っているが、ミルトはジジイの戦いに見入っているようだった。


「ライオスは大丈夫そうだね。あとはヒビキがなんとかして強くなれば僕は安心できるよ」

「お前が強くなってもいいんだぞ?」

「無理だよ、僕は戦いなんて……あひゃあ!」


 こっちをみていたヨハンが何やら叫んだ。その声につられて後ろを振り返る。


「ヒビキさん! ヨハンさん! でも、ライオスさんはこっちのホブゴブリンと戦ってるし!?」


 ミルトもその方角を見て察したようだった。ホブゴブリンにばかり気をかけていて、背後から近寄ってきていた魔物に気づかなかったのである。ちなみに、俺はなんとなく分かっていたけど言わなかっただけだ。本当だぞ?


「オーガ!? なんてこと!?」

「やばいよ、ヒビキ!」


 そこにいたのはオーガと呼ばれる魔物だった。人型であるが人間の2倍ほどある身長と、4倍以上ある体重の巨大な魔物である。知能は低いが、トロールやゴブリンほど馬鹿ではなく恐ろしい魔物として認識されていた。ゴダドールの地下迷宮では第6階層辺りに出没した。最初にオーガに出会った時は、かなり苦戦したもんだ。


「グオォォォォ!!」


 オーガの絶叫が耳に痛い。言葉は喋れないはずだが、こう言った声というかもはや鳴き声に近いもので仲間と意思疎通を図るのではないかと言われている。良く知らない。


「ヒビキさん!」


 ミルトが青い顔をしている。俺を助けようにも、どうやって助ければいいのかが分からないのだろう。


「ヒビキッ! 頼んだよ!」


 ヨハンが明後日の方向へと逃げていく。


「おう、ミルト回収しとけ」

「任せてよ!」


 こういった時だけ、返事がいいのがヨハンのいい所だ。走り出したヨハンはミルトを抱えてホブゴブリンもいなければオーガが仁王立ちしている場所でもない方角へと駆けて行く。


「グオォォォォ!!」


 このオーガは武器を持っていないようだ。拳を振り上げ、こちらへと突進してきた。


「ヒビキさんっ!」


 ヨハンに抱えられたミルトが叫ぶ。そりゃ、駆け出しの魔法使いがオーガに迫られて、前衛もいない状態となれば死しかイメージできないだろう。だが、俺はちょっと違うのだ。



「光栄に思え、俺のオリジナル魔法を食らわせてやる!」

「むっ、オリジナルじゃと!?」


 すでにあらかたホブゴブリンを倒していたジジイが何故か反応する。そんな余裕があるなら、こっち来いよ。


「ヒビキさんっ!」


 オーガが突進してきた。突き上げられた両手を振り下ろす。それをかわすと、さっきまで俺がいた場所の地面が大きくひび割れ、抉られた。地響きがする。なんて力なんだ。だが、当たらなければなんとやら。


「死ね、物理炎フィジカルフレイム!!」


 杖を振り抜いた。それはオーガの頭の左側に直接あたるようにして、炎を発した。


「ゴグッ!」


 変な声を出してオーガがよろめく。物理炎フィジカルフレイムを食らったオーガの頭は頭蓋骨が砕け散り、中の脳はおそらくは原型をとどめていないだろう。そして表面が少しだけ焦げている。

 一瞬で意識を刈り取られて頭を焼きつぶされたオーガはその場に倒れこみ、二度と立ち上がることはなかった。


「……ふぃじ…かる?」

「……いや、お前さん、それ……杖で殴っただけ……」

「凄いです! ヒビキさんも凄い!!」


 ヨハンとジジイはからくりが分かったようである。ミルトは全く理解していない。よし。



 オーガとホブゴブリンの集団という脅威を乗り切り、ミルトは興奮しっぱなしだった。自分が今まで所属したパーティーの中では群を抜いて強いという事だ。まあ、当たり前だな。そして、少しの休憩を取った後に俺たちは第3階層へと続く階段を見つけたのだった。




「お前さん、どうみてもあれはただ殴っただけじゃろう!?」

「うるさいわ! ちょっとフレイム足してるだろうが!」

「表面が焦げただけじゃろう!」

「それを言うならお前の魔法は卑怯だ! というか、それは杖だろう!?」

「ちがうわい! ちゃんと刃がついておる!」

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