第8話 樹木の迷宮と出会い
前回のあらすじ!
魔法使いヒビキのオリジナル魔法がオーガの頭部に炸裂した! オリジナルの魔法が! 魔法が! 魔法?
*******
第3階層に戻ると、そこはかなり大きな空間が広がっていた。草木が生い茂っている場所が多く、光源となる魔法照明が所々にある。松明は必要なくなったためにヨハンが器用に地面に擦り付けて火を消していた。
「すごいですね! 私、第3階層は初めてなんです!」
オーガの角を手の中で玩びながらミルトが言った。さっきの戦闘の後から若干テンションが高い。角はヨハンがしれっと剥ぎ取っていた。
「やはり、この迷宮、
魔法照明を指差してジジイが言った。ヒカリゴケはともかく、樹木が育つほどの照明は人為的にしか発生しない。特に半永久的に周囲に漂う魔力をかき集めて光を発する魔法照明を召喚するには高度の召喚魔法が必要となる。…………らしい。
「最深部に行けば会えるかなあ?」
「多分な」
ゴダドールの地下迷宮の最深部にはジジイと魔物がいた。いまだにあそこに到達したパーティーは俺たちだけらしい。ジジイに言わせると、強制的に発生させていた守護者と呼ばれる魔物たちはもういないから、突破は容易になったはずだという。そのうち最深部にたどり着く奴らが出てくるだろうが、ゴダドールの間はすでに
「なんか、珍しい草木が多いね。ギルドで買い取りしてる薬草も沢山ありそうだよ」
いつの間にヨハンがその辺の薬草をブチブチと引っこ抜いている。採取用の袋が背嚢から取り出されており、代わりにさっき火を消した松明が無造作に詰め込まれていた。火の取り扱いには注意しろよ?
「ギルドが買い取りをするのは、他にどんな物があるのじゃ?」
ジジイ、あれだけ大々的にギルドに飾られていた看板を見なかったのか。
「えっとね、薬草の他に鉱石だとか、武具の素材として使える魔物の素材とかかな。あとは、あまりないけど、食用にできる魔物の肉とかも扱ってるみたい」
食用の魔物といっても、ホーンラビットとかである。外界にいる動物とあまり外見が変わらないものだけが商品として流通するのだ。ゲテモノ食いは存在するらしいけど。
「なんだかんだ言って、干し肉持ち込んだほうが美味い飯にありつけるだろ?」
「そうでもないんじゃない?」
てっきり賛同してくれるかと思ったヨハンが異議を唱えた。
「迷宮でしか味わえないグルメがあってもいいと思う」
そして、真剣な目で採取を続けている。そろそろ先に進みたいんだけどな…………。
***
「この先で誰かが戦ってます」
少し進むと木々の間にできた道を発見した。だが、その先の開けた場所には先客たちがいたようだ。ミルトが盗賊らしく先に進む。
「多分、冒険者のパーティーと魔物が戦っているみたいですね」
樹と樹の間から見ると、4人ほどの冒険者たちがサソリ型の魔物の群れと戦っていた。あれはレッドスコーピオンだろうか。
「手助けするの?」
ヨハンがいつでも逃げることのできる体勢で言う。
「いや、まずは様子を見よう」
下手に手出しすると剥ぎ取り素材や報酬のせいで揉め事に巻き込まれるケースもある。だが、やられるのを見過ごすつもりはない。お手並み拝見というところだ。
「実力的にはなんとかなるじゃろう。ただし…………」
ジジイの心配は俺にも分かる。身のこなしからいって、レッドスコーピオンたちに後れをとるパーティーではなさそうだった。だが、レッドスコーピオンにはあれがある。毒だ。
「でも、僧侶が仲間にいるみたいだねえ」
ヨハンが指差した方には僧侶がいた。女性であるようだが、危なげなくレッドスコーピオンの攻撃を避けている。彼女が毒にやられなければ、このパーティーは大丈夫だろう。
「あっ」
ミルトが声を上げた。前衛の戦士がレッドスコーピオンの針で刺されたのだ。すぐさま他の仲間がそのレッドスコーピオンに攻撃を加えて引き剥がす。魔法使いが
「なんか、揉めてない?」
ヨハンの言うとおり、僧侶と魔法使いが言い争いをしているようだった。
「なんじゃ? 内輪揉めかいの?」
早くしないと毒が全身に回ってしまう。と、思っていたら魔法使いが懐から何やら小瓶を取り出して戦士に飲ませ出した。それまで、他のレッドスコーピオンは狩人が弓矢を連射して近づけさせないようにしている。
「魔法、使わないんだねえ」
「なんでじゃ?」
「ん~、分かんないです。解毒の薬はそこそこの値段するのに」
俺もさっぱり分からなかった。何かしらの事情はあるのだろう。言い争いもしていたし。
「あ、回復したみたいだねえ」
解毒された戦士が戦線に復帰した。それで形勢は逆転し、レッドスコーピオンたちは掃討された。
***
「もうたくさんだ!」
「ティナ、俺も今回の事は許せない。残念だがもう一緒に潜るのはよそう」
「さすがに死ぬかと思った」
戦闘が一段落して冒険者たちのパーティーに近づくと、そんな会話が耳に入ってきた。何やら僧侶が先ほどのやり取りで責められているようだ。
「そんなこと言っても、貴方たちには無理だったんでしょ?」
「ああ、無理だね。だからと言って、君が取った行動を許すつもりもないよ」
こんな迷宮の奥でするようなやり取りではない。この状況で襲われでもしたら、連携が取れないに違いなかった。それに、さっきから声が大きすぎる。興奮しているのだろう。仲裁に入るべきだと判断した。
「あ~、君たち、声が大きいよ」
いきなりガサガサっと木々を掻き分けて現れた俺たちに4人がビクッと反応する。だが、こちらも冒険者のパーティーだと分かり警戒を緩めた。
「すまない、ちょっとパーティーの中で問題が起こってな」
魔法使いが代表して答えてくれた。男3人、女1人のパーティーのようだ。そう言えば、こちらも同じような編成である。簡単に自己紹介を済ませる。
「申し訳ないが、最後の方だけ見ていた。劣勢だったら助けに入る予定だったが、なんとかなりそうだったんでな。で、揉め事の原因はそっちの僧侶かい? こちらとしてはこんな迷宮の中で大声出されるなら関係ないとは言えないんでな。よければ、第3者として話聞いてもいい」
少々首を突っ込みすぎな気もするが、こんな場所で揉めているパーティーを放っておいた方が何が起こるか分からない。
「見てたなら分かるだろう? こいつは死ぬ所だったんだ」
「ああ、見てた。だが、何故解毒の魔法を使わなかったんだ?」
「それはな!」
魔法使いが説明するのを遮ろうともせずに僧侶はこちらを見ている。よく見るとかなりの美人だった。
「こいつがあの状況で追加料金なんて言うからだ!」
いや、待って。完全に予想外の言葉が出てきたんだけど? 追加の何だって?
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