第9話 1回20ゼニー

 前回のあらすじ!


 ホブゴブリンとオーガを撃退した一向は第3階層へと進む。そこは樹木を中心とした階層であった。

 遭遇したのはレッドスコーピオンと戦う冒険者たち。だが、彼らの一人が毒を受けた頃からなにやら様子がおかしい。 え? 追加のなんだって?




 *******




「最初に言ったでしょ? あの金額なら回復だけで状態異常までは治さないって」

「目の前でパーティーの仲間が死にそうになってるというのにか!?」

「関係ないわ。それに、すでに何度も回復魔法を要求してるから、貴方たち所持金がないじゃない」


 僧侶の名前はティナと言った。詳しく話を聞くと雇われの回復役としてこのパーティーに加わっているそうだったが、命を預け合う冒険者に雇われの関係っていうのは少ない。あったとしても、雇用主の立場が強いのが一般的である。だが…………。


「払えなければやらないわよ。慈善事業じゃないんだもの」

「そんなのは後から相談すればいい事じゃないか!」

「後からって、返す宛がなさそうじゃない」

「俺たちがやられたら、お前だって危険になるんだぞ!」

「状態異常の回復は契約の中には入ってないわ」


 お互いに言い分があるようだ。


「もういい、これ以上話し合ったところで分かり合えるとは思えないしこのままパーティーを組んでいようとは思わない」


 それまで何も言わずに成り行きを見守っていた狩人が言った。確かに、問題は誤解があっただけではなくもっと根本的なところありそうだ。


「ティナ、ここで解散だ。もう金を払えない俺たちは仲間じゃないだろ?」

「なっ、ちょっと! こんな所で別れるなんてどういう事よ!」

「地上までの護衛は契約の中には入ってないんでな。むしろ金が払える間だけの仲間であり、解散は契約に入っている。そして、これから俺達についてくるようなら敵対行為と見なすからな」


 迷宮の中で特定の冒険者のパーティーの後を追ったりして魔物に会わずに進んだり、強い魔物が出た場合に他のパーティーをわざと巻き込むような奴らがいる。それらの行為をギルドが取り締まっており、現行犯ではないが申告によってそれなりのペナルティを課すことがある。もちろん、冒険者たちの間では忌み嫌われている行為であり、そんな事をするなんて噂が広まれば誰もパーティーを組んでくれなくなってしまうのだ。敵対行為というのは、そういう行為だとみなすという警告、つまりはたとえ攻撃されても文句は言えない。


「そんな…………」

「自業自得だ。何故俺達がこんな事をするかをよく考えるんだな」


 そう言うと、冒険者たちは帰り支度を始めてしまった。ちらっと魔法使いがこちらを申し訳なさそうに見たが何も言わずに去っていく。…………まじかよ。


「よ、よし。問題は解決した。という事で俺たちもこれで…………」

「待って」


 グワシっと肩を掴まれた。地味に痛い。


「見たところ、パーティーに回復役がいないじゃないの? 今なら格安で契約してあげるわよ」

「いや、いいです。遠慮しときます」


 勘弁してくれ。金がないという理由で仲間を見捨てる回復役なんてごめんだ。


「本来なら1ヶ月3000ゼニーで契約というところだけれど、今なら1000ゼニーにしておいてあげるわ」


 そして激高である。宿の宿泊が1泊10ゼニーだぞ?


「それに、回復1回につき20ゼニーでどう? 状態異常の回復もするわ!」

「高すぎるわい! 雇ったら明らかに赤字になる!」

「じゃあ、500ゼニーでいいわ!」


 めっちゃ必死である。そりゃ、第3階層で僧侶が1人取り残されたら死ぬしかないのだが。そもそもなんで俺たちが雇わなきゃならんのだ。地上までの護衛料金を払うから連れていって下さいだろう?


「ちょっとヒビキ。雇うのは僕も反対なんだけど、1人にしておくべきじゃないんじゃない?」


 ヨハンが「救国の騎士」らしくティナを救ってはどうかという提案をする。だが、他の冒険者たちにヨハンが戦えないという噂が立っては困るのだ。その辺りも考えなくてはならない。


「さすがに放置はまずいですよね」


 ミルトも同意見か。では、地上まで護衛をするという事で話を進めるとしようか…………ジジイ?



「お困りのようですね? ですが、安心してください。この剣士ライオスがいればもう大丈夫ですよ」


 こらジジイ、美人だからといってそうやってすぐに手を握るのをやめれ。それとその口調やめれ。


「私はこう見えて、少し資金には余裕がありましてな。貴方のような美しい方がお金にこだわるのはきっと事情があるのでしょう。もし借金などがおありでしたら私が肩代わ…………ぶべらぁ!」

「ヒビキ、もうちょい手加減しなよぉ」


 危ない、こういう金に関する事は言質を取られるわけにはいかん。ジジイが蹴りで彼方までぶっ飛んでいこうが知ったことではない。それに…………。


「今回は見逃しますけど、セクハラは1回500ゼニー頂きますからね!」


 ほれ見ろ。この手合いは全て金に換算される。けつの穴までむしられるのが落ちだ。


「うう、げふげふっ。つまりは1回500ゼニー払えばあんな事もこんな事もしてもいいと言うことじゃな、ぐへへ」


 訂正、この変態エロジジイから守る必要がある。このジジイ、金を産み出そうと本気出せば無尽蔵だしな。


「そういう意味ではありませんわ!」

「うわあ、ライオスさん最低…………」

「ミ、ミルト! 冗談じゃよ! 冗談に決まっておろう! そういう考えをする危ない輩がいるのを教えようと思っただけじゃ!」


「まあまあ、ここに1人で取り残していくわけにもいかないし、と言っても僕らが雇うメリットも少ないんだから、きちんと君からお願いができるんなら、地上までお金の関係なしで同行するってのでどう?」


 ヨハンが現実的な案を提示した。これを突っぱねるようであれば俺も助けてあげようとは思わない。


「私たちも帰るだけですからね」

「ワシと専属契約を結ぶというのも…………いや、なんでもない」


 さあ、どうする?


「…………お、お願いします。助けて下さい」


 意外にも、きちんと助けを乞う事ができた。さすがにこの状況は把握できていたのだろう。


「うむ、困った時はお互い様じゃて」


 ちょっと前まで世界中を困らせていたジジイが言う。美人と一緒にいたいという下心がむしろ清々しいほどに伝わってくる。キモイ。


「じゃあ、ひとつだけ。一時的とは言え仲間になるんなら助け合う事。それだけ守ってくれ」

「はい、分かりました」


 素直になったら、美人なだけに不覚にもドキッとしてしまった。性格が治ればめちゃくちゃもてるだろう。


「はっはっは! ワシがいれば地上に帰ることなど造作もないわい!」


 さっき蹴られて吹き飛んでたはずのジジイが機嫌よく言う。覚えてないなら放っておくとしよう。


「じゃ、行こっか」


 ヨハンが荷物をまとめて歩き出そうとした。ミルトも続く。


「あ、でも…………」


 それを遮ってティナが言った。



「回復魔法は1回20ゼニーですからね!」


 …………そこは譲らないんだ。

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