第10話 身代わりの魔法
前回のあらすじ!
セクハラが1回500ゼニーの罰金ならば、つまりは1回500ゼニー払えばあんな事もこんな事もしてもいいと言うことじゃな、ぐへへ
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1回20ゼニーは放っておくとして、俺たちはティナを連れて地上を目指すことになった。
「ヒビキ、この先はちょっとまずいかもよ?」
ヨハンがギルドの地図を見ながら先導してくれている。近くにミルトもいて警戒中だ。
「何がまずいんだ?」
「明らかにレベルの違う魔物が生息しているらしい。もしかしたらサーベルマスティフかもね」
サーベルマスティフとはゴダドールの地下迷宮の第8階層に出て来た魔物である。巨大な体をした4本足の猛獣で、剣のような牙をもっていることからそのような名前がついているが、正直第3階層なんかに出てきていい魔物ではない。
「サーベルマスティフなんぞが繁殖すれば、階層の生態系が狂ってしまうんじゃ。おそらくは
ライオスに言わせると、適当に魔物を召喚すればその階層の生態系が狂ってしまって、結局は魔物が住めなくなってしまうらしい。だが、この魔物はかなり前から目撃されており、ほとんどの冒険者がそこを迂回して第4階層を目指すという事みたいである。そう言えばさきほどティナたちと別れた奴らも階段の直線方向とは別の方角へと歩いて行ったな。
「よほど、下に潜って欲しくないんじゃろう」
「ゴダドールの地下迷宮とは違うってことか」
「そうじゃな」
「どうする? ヒビキ」
ヨハンが気の抜けた声で聞いて来た。だが、俺が答えようとする前にミルトとティナが慌てる。
「無理ですよ! サーベルマスティフなんて、絶対に迂回したほうがいいですって!」
「ちょっと、いくらなんでも自殺行為には付き合いきれないわよ!」
まあ、ある意味当たり前の反応だろう。サーベルマスティフ1匹くらいならば俺とジジイでなんとかなるのではないかと思っている。だが、お互いに不慣れな職業であり、そこそこの強敵を相手にして後れを取らないとは言い切れない。どうするべきか。
「おい、ヒビキ。ちょっと耳を貸さんかい」
ジジイが耳打ちしてきた。
「なんだよ」
「お前さん、剣だったらサーベルマスティフくらいなんとかなるじゃろ?」
「ああ、剣だったらな」
「くふふ、良いぞな。くふふ」
ジジイが何やら悪だくみをしているようだ。
「大丈夫じゃ、ヨハン。このまま行くぞ」
ジジイがヨハンに言った。ヨハンも「うん」とか言ってそのまま進みだしている。女2人は大慌てである。
「ちょっと、さすがにまずいですよ!」
「私は戦闘には加わらないからね!」
おいおい、ろくな説明もなしに進んでいるけど本当に大丈夫なのだろうか? そもそも、今の俺が剣を振るったら、もともとの職業が戦士であって、さらに戦士ヒビキと言えば知ってる人は知っているかもしれないんだぞ? 町でもずっとフルプレートに兜だったから素顔を知ってる人物は少ないんだけどさ。
「お、見えて来たよ。じゃ、ライオス、ヒビキ、よろしく」
樹々をかき分けて進んでいくと開けた場所に出た。迷宮の中とは言えこれほどに広大な空間があるというのは単純に凄いとしか言えない。そして魔法照明に照らされてかなりの明るさがある広場は草原のようになっていた。天井さえなければここが外だと言われても気が付かないほどである。そして、その草原の中央部に寝ているでかい魔物がいた。ここでは天敵がいないのであろう。まだ、この魔物を討伐した冒険者もいないはずだった。たしかに、サーベルマスティフだ。ゴダドールの地下迷宮で戦ったのとほぼ同じ体格をしている。
「ヒビキ、こっちじゃ」
ライオスに引っ張られて樹々の中の死角に入る。ここならサーベルマスティフにも、仲間にも見られる事はない場所である。
「さあ、武器を交換するのじゃ」
「ああ? どういう事だ?」
「
ジジイが魔法を唱えると瞬時に俺とジジイの見た目が入れ替わった。
「その鎧は鎧のように見えて魔術師のローブじゃから気をつけるんじゃぞ?」
付け焼刃の剣を渡しながら、俺の初心者用の魔法使いの杖を奪うジジイ。
「ぐふふ、ワシの恰好をしたままでミルトとティナの前で格好良くサーベルマスティフを狩ってくるのじゃ!」
……このジジイめ。そう言うとジジイは茂みから出てサーベルマスティフに目がけて破壊魔法を撃ちだした。そして
「さあ!」
さあ、じゃねえよ。このクソジジイめ。
「グルルルルルルルルゥ!」
サーベルマスティフがこちらに気づいた。攻撃したのはジジイであるが、とりあえず手が届くのは明らかにライオスの恰好をした俺である。こうなってしまったからには、仕方ない。
「ヨハン、剣を貸してくれ」
付け焼刃の剣では心もとない。俺はヨハンの所へ走っていくと背嚢から豪華な剣を取り出した。剣を取るとヨハンは一目散に逃げていく。ミルトとティナも避難はできているようだ。空中待機のジジイは知らん。
「ティナ! ギルドの換金表の一番下、覚えているか!?」
俺はティナに問いかける。その間にもサーベルマスティフは俺目がけて突進してきていた。
「え、えっと、サーベルマスティフの牙、1本30000ゼニーですわ!」
「おう、俺からのプレゼントだ! 2本あるからミルトにもやるよ!」
剣を握り直す。国王自ら「救国の騎士」に送るために第一級の鍛冶師に命じて作らせたと言われている「救国剣セイブ」である。これほどの剣になると、愛用していたダマスカスブレードの他には握ったことがない。手になじむわけではないが、切れ味がいい事は分かる。
「グルルルルルルルルゥ!」
大きく開かれた顎が俺をかみ砕こうとして迫っていた。サーベルマスティフの体はさきほど倒したオーガにも引けを取らないほどの巨躯である。そしてその顎の力は想像を絶する。噛まれたら、最期である。
「クソジジイめ!」
タイミングを合わせて剣を下から斬り上げた。俺のもっとも得意とする究極の「濁流剣」である。数多の剣士が基本と呼んでいる上段からの重力を加えた袈裟切りを真向から否定する、力任せの剣。最初はゴルフのスイングっぽい動きだ。仲間の狩人がその捻くれた性格を表現したために「濁流」という名がついた。俺は切り上げた後に回転しながら跳躍する動作から「昇竜剣」とつけたかったんだけどな。
そして、その剣がサーベルマスティフの頭蓋を二つに割る。勢い余った体は俺がいた場所に倒れこんだ。
しかし俺は切り上げた体勢のまま上空に跳躍しており、二つに割れた頭蓋を越えて体の上に着地する。そのために返り血は浴びない。
「すごいです! ライオスさん!」
「なんてこと……」
ミルトとティナが遠くから俺の攻撃を見て感動したようだ。当たり前だろう。ゴダドールの地下迷宮で巨人族と渡り合った俺がサーベルマスティフごときに後れをとるわけがない。さすがにフルプレートなしでちょっと怖かったのは事実だけど。
「ぐふふふ、よくやったライオス! ライオスがよくやった!」
これは貸し1つだからな!
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