第11話 フラグ回収

 前回のあらすじ!


 第3階層は迷宮のぬしが召喚した守護者であるサーベルマスティフが待ち構えていた。それを変化チェンジの魔法で乗り切るヒビキとライオスであった。サーベルマスティフの牙は1本30000ゼニーするという…。




 *******




「ティナ、君がいないとだめなんだ」

「そんな、そんな事を言われても……」


 力が抜けていく。彼女を求める手に力が思うように動かせない。心臓の鼓動も速い。視界がかすんでいくようである。だがこれは運命なのかもしれない。彼女と俺たちが出会えたことこそが運命なのだ。そして出会えた事に感謝を。


「ヒビキ……」

「ティナ……はやく……」


 だが彼女は冷たく言った。



「だから、毒キノコじゃないかと言ったでしょ? 解毒の魔法は1回50ゼニーよ」

「は、払うから……はよして……」


 現在、俺たちのパーティーはヨハンの採取したキノコで鍋をしたために全滅しかかっている。本当にティナがいてくれて良かった。




 ***




「そろそろご飯の時間だね」


 サーベルマスティフを討伐した俺たちは牙の剥ぎ取りもそこそこに第2階層を目指すかどうかを決めようとしていた。時間的にはちょうど正午くらいではなかろうか。腹が減ってきている。するとヨハンがニヤニヤしだした。


「ちょうどさっきの採取で美味しそうなものを手に入れたんだよ」


 背嚢の採取袋から取り出したのはキノコである。同じようなキノコを食べた事はあるが、キノコはあまり詳しくない。


「多分、マジックマッシュルームじゃないかと思うんだけど」

「むむ、マジックマッシュルームは灰色じゃないかのう?」


 ジジイが疑問を口にする。確かに毒キノコであったら大変なことになるかもしれない。


「それがね、こう言った風に魔物がかじった跡があるんだよ」


 何個か採取したキノコにはたしかに何かに齧られた跡があった。という事は毒はないという事か。


「それなら、毒はないんじゃないですか!?」


 ミルトもお腹がすいたようである。マジックマッシュルームは高級食材でもあり、そうそう手に入るものではない。なにせ魔力の強い場所でしか栽培できないから養殖なんてできるはずがないのだ。しかしここは「辺境の迷宮」であり、魔力が多いから迷宮が成り立っていると言っても過言ではない。


「本当に大丈夫なんでしょうね? 解毒の魔法は1回50ゼニーよ」

「大丈夫だと思うんだけどなぁ」


 そう言いながらもヨハンはてきぱきと食事の準備を始めてしまった。今日はキノコ鍋にするようで、先程手に入れた薬草も少し入れるみたいだ。乾燥させた保存食と干し肉とをお湯にくべてキノコを入れていく。出汁がでるのかすごくいい匂いがしてきた。単純に乾燥させた穀物で作った保存食と干し肉を齧るだけしかできない時もあるが、こうして危険が少なくなった時などはヨハンは積極的に料理をしてくれる。サーベルマスティフのため、この周囲に寄りつく魔物はほとんどいない。少なくとも魔物からの危険は少ないだろうと俺も思う。



 と、思った結果がこれだった。麻痺毒の作用で四人ともがしびれてしまっている中、慎重派だったティナだけが鍋を食べなかったために助かった。後で干し肉をまずそうに齧っていたけれど、助かった。


「本当、しっかりして下さい!」

「うぅ、ごめんよぉ」


 お、怒っている。でも、1回50ゼニーを4人分で200ゼニーも稼いだじゃないか。さらにはサーベルマスティフの牙もプレゼントしたんだぞ? そんな顔を真っ赤にして怒らなくてもいいじゃないか。あ、プレゼントしたのはジジイって事になってるのか。


「ふはは、ティナのおかげじゃな!」

「そ、そうですわね!」


 そういえばゴダドールの地下迷宮を攻略していた時には僧侶のオベール=ヨークウッドや盗賊のツアがこういうのには詳しくて任せっきりだった。だが、このパーティーにはそういった関係に詳しい人物がいない。これから勉強していかなくてはならないだろう。


 全員で干し肉を齧りながら歩いていると第2階層へと続く坂道へとやってきた。これで第3階層は終了だ。


「なんか、あっと言う間に第3階層が終わっちゃいましたね」


 ミルトが少し名残惜しそうに言う。第3階層にいたのは数時間という所だろう。第4階層に至ってはもっと少ない。


「第2階層は迷宮っぽい迷宮って言うから、もっと早いと思うよ。地図もあるしね」


 第2階層はレンガで形成された迷宮そのものであるらしい。樹木などはほとんどなく、天井も低い。ところどころに魔法照明こそあるものの、松明が必要になる。ヨハンがもう一度松明に火をつけた。


「ツアによれば今のところほとんどの冒険者たちが第2階層を探索しているらしいんだ」


 その理由は迷宮内部で採れる鉱石だそうである。さすがにヒヒイロカネなどの希少なものはほとんど採れないらしいが、純度の高いものは結構あるようで、第3階層にサーベルマスティフが陣取っていたこともありほとんどの冒険者が第2階層で満足しているようだった。


「そう言えば、さっきまで一緒にいた彼らも第3階層まで降りるからという理由で私を雇ったんですわ」


 ティナと一緒にいた連中も第2階層までで燻っていたようである。回復役がいなくて第3階層に降りられなかったというのは納得できる。ただし、まさかこんな僧侶を雇ってしまうことになるとは思っていなかったんだろう。


「地図の通りなら、特に大きな罠もなさそうだし、強敵になりそうな魔物もいそうにないね」

「ワシの敵になるような魔物がこの程度の階層に出てくるわけないのじゃ」

「でも、たまに魔物の大量発生が確認されているみたいだよ。その場合は一目散に来た道を引き返すことって書かれてる」


 もしかしたら召喚系の罠かもしれない。罠にひっかかった冒険者の周囲に魔物を召喚し続けるやつだ。ゴダドールの地下迷宮でもあった。


「あれか……魔力消費が効率悪いんじゃよ」


 仕掛けた本人も言っているとおり、そう頻繁にある罠ではない。それを第2階層なんかに置く時点でこの迷宮のぬしが下に降りてきてほしくないと言っているのがよく分かる。どこかのカマッテチャンのジジイが作った迷宮とは違うのである。


「お前さん、いまとてつもなく失礼な事を考えとったじゃろう?」

「さて、なんの事やら」


「でも、そんな罠は一度発動してしまえばもう一回設置されるまでに時間がかかるんですよね?」

「そうじゃな、ミルトの言う通りじゃ」


 坂道を上がるとレンガ造りの壁と天井が見えて来た。第2階層の最後は大きめの部屋になっているようだ。


「よっぽど運がない限りは他の冒険者が発動させておるか、分かりやすい罠になっとるじゃろうて」

「地図には来た道を一目散に戻れって書いてあるけど、僕らが来た道は第3階層につながってるよ」

「来た道を戻ればいつまで経っても帰れんというわけじゃな、ふはは」


 ミルトもティナも第3階層を突破したことで命の危険がかなり減ったことを実感しているのか足取りが軽い。ヨハンとジジイはもとからそんな心配などしていないかのようだった。そして第2階層で命の危険があるとすれば罠だろうが、そんな大掛かりな罠にひっかかる俺らではない。だが、俺はこの時、重大な事を見落としていた。ジジイとミルトが先頭で部屋に入っていく。その後をヨハン、ティナ、最後部が俺だ。


「多分じゃが、床の上にスイッチとなる起動装置があるはずじゃ。分かりやすいはずじゃから踏まなければ大丈夫じゃ」

「ライオスさん詳しいんですね!」

「もし、罠が発動したとしてもワシが全ての魔物を倒してくれよう!」

「さすがです! じゃあ、そのスイッチを私が見つけ…「カチリ!」……何か踏みましたね……」



 そう、ミルトはこういったフラグを立てると全部回収してくる子だった。発動される召喚陣、無数に湧き上がってくるゴブリンなどの低級の魔物。さあ、ジジイ。罠が発動したらお前が全て倒すんだったよな?

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