第12話 唯一最強破壊魔法

 前回のあらすじ!


 新たに加入した僧侶ティナのおかげで最大のピンチを乗り越えた一向。しかし、迷宮はいつだって彼らに牙をむく! 第2階層へと戻った直後に響く死への足音、その名もフラグ!




 *******




「ごめんなさぁぁぁぁいぃぃぃ!!」


 ミルトの絶叫が木霊する中、続々とゴブリンを中心とした低級の魔物が召喚され続ける。数にしたら100は超えるのではないだろうか。そしてまだ召喚され続けている。1匹1匹は全く脅威ではない魔物ばかりだ。だが数が多い

 。

「おうおう、これを何とかしないと地上に帰れねえってか」

「ふん、ちと数が多すぎるのう」

「二人とも、何を呑気な事を言ってるのですか!?」

「あ、この二人は規格外だから気にしちゃだめだよぉ」


 杖を握り直す。この数にフレイムを撃ったとしても半数もいかないうちに魔力が尽きるだろう。であるならば魔力がほとんど消費されないあれだ。


「またしても俺のオリジナル魔法、物理フィジカルの出番か」

「大丈夫かいの?」

「ジジイに心配されるほど落ちぶれてはいないぞ? 第3階層で見たろ?」

「いや、そうじゃなくての……まあ、ええか。なったらなったで面白そうじゃし」


 ジジイが何やら言いたそうにしているがよく分からん。


「ヒビキ! どうする?」


 すでにヨハンはいつでも第3階層に戻れる体勢である。ぶれない奴だ。


「正面突破、これしかない」

「やっぱり?」


 俺の正面突破案を聞いてミルトとティナが蒼い顔をしているが、先程の第3階層での活躍、まあジジイのという事になっているが、その活躍があるために口に出して反対まではしないようだ。普通に考えたらサーベルマスティフの方が脅威だと思うのだろう。


「でも、数は力なりって言うし、本当はこっちの方がやばい状況なんだがね」


 サーベルマスティフはなんだかんだ言っても体が一つしかない。どんな弱い魔物であっても多勢に無勢となる事は十分にあり得るのだ。大勢に囲まれて、それでも戦えるというのは現実にはそうそうあるものではない。だが、圧倒的な力があれば話は別である。


「じゃ、行きますか」

「うむ」


 ジジイが付け焼刃の剣を構える。第4階層でホブゴブリン相手に戦っていた時と同じように補助魔法を主体に戦うつもりのようだ。対して俺は……。


「ちょっと、魔法使いのくせに敵に近づきすぎですわよ!」


 後ろからティナにローブを引っ張られてしまった。


「いや、でも俺の魔法は射程距離が短いんだよ」


 それもゼロ距離射程じゃないと駄目なんだ。


「どれだけ変なパーティーですの!?」


 君には言われたくない。


「先行くぞい」


 ジジイが切り込んだ。そんなやり取りの間にも魔物の数は倍以上に膨れ上がっている。


「俺も行きますか。物理炎フィジカルフレイム!」


 杖を振り回す。的確にゴブリンの頭を狙って叩きつけるのだ。首が捻じ曲がってさらに表面が焼けたゴブリンが次々と量産される。だが、魔力の消費が激しい。


「うぬ、なんて数じゃ」

「こっちも魔力の消費が……」


 やはり数が多いというのはきつい。2人ですでに30匹以上のゴブリンやらホーンラビットやらを倒しているが、一向に減る気配がないのである。数秒に1体の召喚がされている以上、それを越えるスピードで殲滅しなければならない。


物理フィジカル!」


 またしても1匹のゴブリンが吹き飛んだ。だが、ほぼ同じスピードでゴブリンが召喚される。


「はぁ、はぁ、キリがないのう」

「召喚の罠を破壊しないとだめか……」


 ジジイも運動不足がたたって動きが鈍くなっている。何もしてなくても剣を振り回しているだけ体力が削がれていくのだ。これはピンチかもしれん。



「ヨハンさん、あなたは戦いに参加しないのですか!?」


 後ろでティナが叫んでいる。確かにその通りなんだけど。


「ううう、僕は無理だよぉ」

「本当に「救国の騎士」なんですの!?」

「一応はね……」


 これは少しヨハンの方も気を使ってやらねばならない。討ち漏らした魔物はミルトが対処してくれている。


「ヨハン! 絶対にこっちに参加するなよ! 二人を護って逃がすのがお前の仕事だ!」

「う、うん! 分かったよ!」


 だが、こちらの状況も良いとは言い難い。チェンジすれば一瞬で終わるんだけどな……。またしてもゴブリンの集団が近づいて来た。もうめんどくさい。2匹同時に……。


「くっ、物理炎フィジカルフレイム!…ボキィィ!!……」


「……」

「………ぶふっ! 折れよった! やっぱりのう!」


 なんだとぉぉぉぉぉぉおおおお!!!!?


 右手に持った初心者用の杖がぽっきりと折れてしまっている。プランプランと頭の部分が垂れ下がっている初心者用の杖。これじゃ物理炎フィジカルフレイムどころか、普通に魔法も打てない!


「ぎゃははは、やっぱりのう!」


 腹を抱えながらジジイが剣を振るう。さすがに全然当たってない。


「うるせえ、ジジイ!」


 とりあえず罵っておいたが、これは本格的にまずいんじゃないだろうか。もう2人には俺とジジイの正体を明かして本職に戻っちまうか?


「ぎゃはははは、あー、腹が痛いのう」


 ジジイが何やらこっちに近づいて来た。その間にも魔物の召喚が続いているっていうのに。


「お前さん、さっきの借りもあるからちょいと活躍さしてやろう」


 ジジイが悪い顔をしている。杖が折れて戦力にならん俺をあざ笑いにきたか?


「こうやって、手をかざしてじゃな、こう言うがいい」


 この状況だ。仕方がない。ジジイに何やら妙案があるようだからとりあえずは従ってみよう。これでだめだったら俺はまたヨハンに剣を借りてこいつらでストレス解消だ。もう知るか。


「えーっと? なんだっけ……」


 左手を天にかざす。そしてこう言えといわれた。



「さんだぁ?」

『バリバリバリバリバリバリィィィ!!!!!!!』



 次の瞬間、ジジイがなにやらボソッと呟くと同時に、やや低めの天井全体から雷が部屋いっぱいに降り注いだ。器用にも俺たちのパーティーが立っている場所のみを残してだ。強烈な閃光と爆音と共に、魔物の焦げた臭いがあたり一杯に満ちる。200匹をこえていたであろう魔物たちは殲滅されている。

 唯一にして、最強といわれた雷系破壊魔法「雷撃サンダー」だ。ちなみに歴史上これを習得しているのを確認されたのはゴダドール=ニックハルトと呼ばれるエロジジイだけだったりして。


「な、な、な……」

「どうじゃ?」

「どうじゃ? じゃねぇぇぇえええええ!!!!!!!」


 俺が雷撃サンダーを放ったと勘違いしたミルトとティナはほぼ放心状態である。ヨハンは魔物の焦げた臭いで気分が悪くなったようだ。召喚陣の罠ごと消滅した魔物たちから素材らしきものはほとんど取ることはできなかったし、取る気分にもならなかった。


「すごいです! ヒビキさん、凄すぎます!」

「あなたたち……、なんて人たちなの!?」


 二人の美人にそう言われて気分は悪くはなかったのは確かであるが、これの後始末はどうしようか。本当、何も思いつかないぞ。クソジジイめ。



 こうして俺たちはその後は問題なく第2階層を突破した。そして第1階層で朝にひっかかった落とし穴+滑り台の罠にミルトがもう一度引っかかって、第4階層からやり直したのは言うまでもないだろう。

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