第2話 戦士と魔法使い

 前回までのあらすじ!


 ぶっさいくな巫女との結婚を迫られた王は、かつて「ゴダドールの地下迷宮」を突破し王国を救った「救国の騎士」をなりふり構わずに再び迷宮へと派遣する! しかし、その「救国の騎士」はある人物へと救いを求めたのだった! そして今回の話はそことはあんまり関係のない過去の話だ!




 *******




 最初にジジイと出会ったのは「ゴダドールの間」と呼ばれる場所だった。ちょっとした部屋なのだが、その時はそんな名前がついていて冒険者たちにとって重要な場所だったなんて知らなかった。


「ありゃ、間違ったかのう」

「誰? ここはどこ?」


 もともと日本のサラリーマンだった俺は夜遅くまで会社で残業した後、意識を失ったのだった。今から考えると過労死したのかもしれない。で、気づいたらこんな所に立っていた。眠い。


「ぬう、龍の召喚サモンは失敗か……」


 目の前には魔法使いのコスプレをした男が立っていた。金髪に青い目をしており、見た目は30台くらいに見えるが日本語を喋っている。しかしこんな恥ずかしい格好してるけど、頭は大丈夫なんだろうか?


「お主、変な格好をしておるな。言葉は分かるか?」

「変な格好って、お前には言われたくねえよ。それにスーツ着てる社会人に対して変な格好って、頭は大丈夫か?」

「な、なんじゃと!? 貴様、わしを誰だと思っている!?」

「知らねえよ、初対面で失礼な事言ってくる頭のおかしな奴なのは分かったけどさ」

「貴様ぁ!! 召喚サモンで魔力を使ってしまってなければ、今頃丸焼きにしてくれたものを!」

「あー、はいはい。どうでもいいから、出口はどこだ? 帰って寝たいんだけど」

「脱出用の転移テレポート板だったら、あっちの板じゃ。もう知らんから何処でも好きな所に行けばええ」

「なんでお前の許可がいるんだよ。で、この板踏めば扉が開くのか…………」

「だから脱出用の転移テレポート板じゃと…………」


 話が終わる前に俺はその板を踏んだ。自動ドアが何処かで開くと思ってたのに、一瞬で俺は地上まで瞬間移動したのだった。当時はそこが何処かなんて知らない。迷宮の入り口とは離れた場所だったが、迷宮都市が視界に入る丘の上に、無一文で放り出されたのだった。


 で、ようやくここが日本でないことに気付いた。親切な町の人に状況を教えてもらった…………正確に言うと身ぐるみ剥がれそうになった。なんとか返り討ちにしたけど、行くあてもない。そんな時に仕事をして食糧を恵んでもらおうと屋台のおっさんに声をかけたら迷宮に潜る人たちがたくさんいて、パーティーを組めばいいんじゃないかと言われた。命の危険があるらしいが、このままだとの垂れ死ぬだけなので、藁にもすがる思いで冒険者たちが集まるという酒場に行った。


 高校と大学では空手部だった。喧嘩なら負けない。殺し合いはしたことなかったけど、背に腹は変えられない。職種を聞かれたが分からんし、これから覚えると答えたら戦士という事にされた。別に文句はなかったからそのままにした。そして、初めて魔法というものを見た。正直な所、それまではここが日本ではないという事を理解できていなかったが、魔法を使う冒険者たちを見て、とんでもない所に来てしまったと思った。


 ヨハンに出会ったのはその酒場だった。見るからに大怪我をしていたヨハンは、それでも迷宮に潜るために仲間を募集していた。しかし誰も怪我人であるヨハンとパーティーを組もうとはしなかった。無一文な俺も仲間ができずに、自然と二人はパーティーを組もうという話になったのである。


「ヒビキ! ありがとうね!」

「いや、お前は騎士なんだからもっとしゃっきりしろよ」

「う、うん。よく言われる……いや、言われたよ」


 部隊はヨハンを残して全滅していた。仲間を失った傷は最後まで癒える事はないだろうけど、ヨハンには俺という新しい仲間ができた。そしてヨハンは心折れずに迷宮に再挑戦しようとしていた。


「だって、迷宮を突破するまで帰ってくるなって騎士団長が……」


 訂正、再挑戦させられていた。



 迷宮攻略に必要なのは力だった。単純な腕っぷしに加えて、情報力と経済力である。詳細な地図と高価な装備があれば、初心者でもいつかは経験を積んで立派な冒険者になれるのだ。それまでに死なないようにするのが重要で、逃げることを騎士のヨハンに教えるのに、時間がかかった。いつしか、俺とヨハンは迷宮の攻略よりも自分たちの経験を積むことを優先するようになり、それがかえって攻略を加速させ始めた。気づいたら俺たちに付いてくることのできる冒険者は限られるようになった。ヨハンのパーティーはそれまでの冒険者が到達した最深であった第8階層を突破した。


「情報は必要だ。だが、むやみに俺たちの情報を他のパーティーに流してやる必要はない」


 実質的なパーティーのリーダーは俺だった。ヨハンはそういうのは苦手である。戦士ヒビキ、騎士ヨハン=シュトラウツ、魔術師リディ=ルナドーン、盗賊ツア、僧侶オベール=ヨークウッド、狩人ディライ。6人のパーティーは周りの認識では第6階層あたりでつまづいているパーティーに見えたはずだ。目立たないように、目立たないようにと町では過ごすようにした。それでもある程度の実力はあり、毎回誰も欠けることなく帰ってくるパーティーとは認識されていたみたいだった。本当の実力を見抜いていたのは鍛冶屋の親父くらいのものだったろう。


「貴様!?」

「あ? いつかの」

 第12階層にゴダドールの間は存在した。そして、そこは見覚えがあった。

「まさか、最初の侵入者が貴様とはな!?」

「もしかして、お前がゴダドール?」

「知らなかったのか!?」

「いや、当時はここに来たばっかりで…………」


 迷宮最深部に漂うなんとも言えない空気。今から死闘を繰り広げるつもりだった仲間たちがどうしていいか分からなくなってしまっている。


「おい、おっさん。天変地異の原因はお前なんか?」

「おっさんだと!? わしがゴダドールだと知って言っているのか!?」

「うるせえな、だから知らなかったって言ってんだろ。いいから答えろ、ジジイ」

「貴様!!」

「ジジイが原因なら倒さなきゃならんからな」

「ふっ、すでに迷宮を拡張させ続けている魔物アントシーカーはわしの魔力を離れ自立して動き続けておるわい」

「皆、こいつ倒しても関係ないって、先行こうぜー」

「ちょっ!?」


 そして、ゴダドールの間の次の部屋で穴を掘っていたアリの魔物はたいして戦闘力がないタイプの魔物だった。あっさりとアントシーカーを倒すと俺はゴダドールに聞いた。


「なんで、邪魔しなかった?」

「…………もう、ルアは生きておらんしな。いつの間にか目的を失っていた事に、今気付いたんじゃ」


 この町の初代市長ペリエリテ。彼は仲間たちとともにここを開拓し、王国の礎を築いた一人だった。彼は仲間の一人だったルアと結婚し、その子孫が今でも市長を続けている。そして、ゴダドールはペリエリテにルアを奪われた逆恨みで、世界を滅ぼそうとしていた。


「ちょっと、余りにも情けない理由すぎて、世界を救ったって実感がないんだけど?」

「うぅ、すまん」

「で、これからどうすんだ?」

「いや、全く決めてない」

「俺も職を失ってしまったなぁ」


 他の仲間たちは行く所があった。ヨハンなんか王国騎士団に戻らなければならない。王国からもらえる報酬で暮らしていくというのもありだけど、こちらに来てから迷宮探索以外の生活をした事がない。誰かに仕えて給料をもらう生活なんてもうこりごりだ。


「もう、生きておっても仕方がないんじゃろう」

「いや、そんな事はないぞ?」

「じゃが、これから何を目標に生きて行けばよいか、分からん」

「何人も殺しておいて、何を言ってるんだ」

「殺したのはワシの家に勝手に入ってきた連中のみじゃ。しかもワシは直接手を下しとらんし、警告もしたぞい。自己責任というやつじゃな」


 開きなおるジジイ。


「分かった分かった。俺の仲間たちはそれぞれ帰る場所があるが、俺には冒険者以外の生き方が分からん。ジジイと同じような状況だ」

「ヒビキは騎士団に入ればいいよ」

「うるさい、ヨハン。俺は宮仕えなんぞまっぴらだ」

「それで、どうするんじゃ?」



「俺とパーティーを組め、ジジイ」

「「「は!?」」」


 こうして俺は大魔術師ゴダドール=ニックハルトとパーティーを組んで冒険者を続けることにしたのである。俺が冒険者にこだわったのにはいくつか理由があった。そしてゴダドールのジジイは他に行くあてもなく、この提案をのんだのである。しかし、問題があった。ゴダドールは正当防衛とはいえ、王国の騎士たちをはじめとして多くの者たちの命を奪ってしまった犯罪者として扱われる。ゴダドールは死んだことにしなければならなかった。


「だが、隠そうとしてもすぐばれるんじゃないか?」


 盗賊ツアの指摘ももっともだった。そこで、俺も死んだことにした上で、ある計画を思い付いたのである。


「転職!? わしがか!?」

「うん、俺も一緒にしてやるからさ」



 それで出来上がったのが、戦士ゴダドールと魔法使いヒビキのパーティーだった。

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