第26話 第5階層

 前回のあらすじ!


 ヒビキの魔法を懐疑的な目で見るコスタ。ヒビキはパーティー全員の前で自分が「予言の剣士ヒビキ」であると言う。そして、これ以上を聞けば引き返せないと。それに対してミルトは覚悟ならできていると返し、ティナもそれに同意した。

 だが、コスタは納得がいかなかった。それは以前の決闘でヒビキに魔法で手も足も出なかったからである。しかし、その先にコスタの目指す高みがあるのならば…………。

 そのコスタの発言を遮ったのは大魔導師「ゴダドール=ニックハルト」だった。そして、ゴダドールはコスタの才能と努力を認め、唯一の弟子とした。




 ***




「であるからして、ここの魔法式がな……」

「おおっ! なんで今までこんな簡単な事に気づかなかったんだ!」

「普通は幼い頃に基礎で間違ったまま習ってしまうからのう。ワシがこれに気づいたのもおっさんになってからじゃ」

「さすがです! さすがゴダ……いや、ライオス師匠!」



 第4階層のベースキャンプを直して使うことになったために、片付けと野営の準備をしたらかなりの時間が経ってしまった。その間にコスタが目を覚まして魔法の事に関してジジイと話し合っている。今まで指摘したくてもできなかったコスタの魔法の使い方に関するアドバイスなんだとか。あれだけ色々やっていたのに見る所はしっかりと見ているというのはさすがジジイである。


「コスタ、楽しそうですね」


 ミルトが微笑ましそうな目でそれを眺めている。実はこの数日のコスタの働きとかを見ながらコスタに対する考え方を変えたようだった。だが、とりあえず起きたコスタが抱き着こうとしてみぞおちを蹴り上げられたのはいつもの事である。


「さあ、俺も本来の戦い方に戻るかどうかを考えなきゃな」


 魔導士のローブを着てハンマーを振り回すのもそのうち限界がくるだろう。魔法の修行をするというのがいいのか、戦士に戻るのがいいのか。


「ジジイがゴダドールだとばれるのだけは阻止しなきゃならないからな」

「そうなんだよ、僕の首が飛んじゃうからね」


 ヨハン=シュトラウツは王国にゴダドールはすでに死んでいたと報告している。虚偽だとばれたら地位を剥奪されるだけでは済まないだろう。



「さらにここをこうするとじゃな……ふっふっふ」

「おおっ! これは奇襲専用ですか!?」

「いや、覗き専用じゃ」

「えっ!? という事はミル……いやいや! ダメですよ! 師匠!」

「幸い2人同時詠唱でここが完璧になるために、どうじゃ今夜あたり」

「ダメですって!」


 何やら悪だくみが聞こえてくるが、ミルトもティナもドン引きの感じで聞こえている。


「ふはは、ではここの魔法式をこう替えてみると…………どうじゃ?」

「師匠! まさかこれは!」

「うむ、雷撃サンダーじゃ」

「何故、こんなにも魔法式が似てるのですか!?」

「それはじゃな光を曲げて通す魔法式の光の部分を雷に変えたのじゃ。この雷の部分が理解するのが厄介なのじゃが…………」

「なんとっ! では、この部分ができれば…………」

「ふむ、お主ならば明日にでも雷撃サンダーを撃てるじゃろう。魔力量がちと心許ないがのう」


 ちょっと意外だった。ジジイが弟子をとってあんな顔をするなんて思わなかったのだ。まるでちゃんとした師匠のような表情である。


「お前さん、またしても失礼な事を考えておったじゃろう」


 まあ、このジジイは放っておくとしても、やっぱり今後も転職した状態で過ごした方がいいだろう。俺が「予言の剣士」だとばれただけでもリスクがあるからな。ジジイにはゴダドールの衣装を持って帰るように言った。転移テレポートをそんなに気軽に使うというのにコスタが驚いていた。コスタはまだ使えない。


雷撃サンダー!! あっ、ちょっとできた! いや、でもこれすげえ魔力取られる! ぶべらっ!」


 コスタが雷撃サンダーを試し打ちして、ミルトの近くに落ちたものだから、飛び膝蹴りを顔面に食らっている。平和なことだ。しかし、ミルトもいつもあんな動きをしてくれればもう少し攻略が楽になるんだけどな。


「さあ、準備ができたら第5階層に降りるぞ」


 今日は、多分、第5階層に降りなければ大変な事になる……と思う。




 ***




「やっぱり、来てくれたんですね」


 階段を降りたそこには予想通り、モジモジしたエオラがいた。こっち見て赤い顔している。あれからずっと待っていたのだろうか。来なかったら大変な事になっていた可能性が高い。主に火山系の魔法とかで。


「ちょっと、何デレデレしてるんですの?」

「いや、ティナ。デレデレなんて……痛い痛い」


 何故かティナが俺の脇腹をつねってくる。そんな事を言ってもエオラは実年齢がかなりの高齢で、見た目はドストライクな女性なのだけれども、不死イモータルを使った魔法使いで……あれ? そうするとずっと見た目が変わらないのか? だったら別に……。


「ちょっと!」


 いや、杖ですねを殴るとマジで痛いから!


「すでに骨抜きにされておるのか? 相手はババアじゃぞ?」

「いや待てジジイ。それを聞こえるようには言うなよ、絶対だぞ?」

「知っておるぞ? それは振…………」

「振りじゃねえからな!」


 第5階層は大きな湖の階層だった。中心部に小さめな島と小屋がある。それをつなぐ橋状の通路が両側にあって、かなり距離はあるが反対側に階段が見えていた。これだけ? かなり向こうの方で第4階層から落ちてくる滝の音が聞こえる。


「他は面倒だったので全部湖にしてしまいましたの。だって、放っておくと魔物がえるんですから」


 魔物を庭の雑草のように言う迷宮のぬし。まあ、そんな感覚なんだろうな。ジジイが、あー分かるみたいな顔をしている。


「さすがに湖の中にまで生える魔物は駆除してませんので、落ちないように気を付けて下さい」


 よく見るとかなりデカい魚影がたまに見える。怪魚系統の魔物だろうか。ゴダドールの地下迷宮にはいなかったタイプの魔物だ。他にも色々いるに違いない。地上までは飛んでこないのだとか。飛んでくるタイプは全部駆除したらしい。


「さあ、ヒビキ様とその他一向のために我が家で食事を用意していますのよ」

「誰がその他よ」


 食事? この迷宮の中で? ティナの一言は完全に無視されているし、ヨハンが新たな食材がある可能性があるためか嬉しそうにしているが、おそらくは魔物の肉などが主体なのではないだろうか? それをエオラが調理したのか? 若干嫌な予感がしないでもないが、断るという選択肢は命に直結する気もする。他のメンバーも同じような顔をしていた。ここは俺が聞かなきゃなんないのかな? ジジイがアイコンタクトでお前が聞けと言ってくる。


「そ、そうか。ちなみにメ、メニューはなんなのかな?」


 恐る恐る聞いてみた。そうすると、エオラはちょっと、止まって、それからこう言った。



「えっとですね。地上の酒場から取り寄せた「お持ち帰り定食」です」


 なんだよ、料理できない系女子か。いやババアだったっけ? もしかしてそのために転移テレポート使ったの?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る