第27話 柵
前回のあらすじ!
正式にライオスの弟子となったコスタを伴って、一行は第5階層へと足を踏み入れた。
そこは大きな湖であり、基本的に一つの島と入り口と出口をつなぐ通路しかない階層であった。
そして、その入り口にはモジモジした料理できない系女子(中身は老婆)が立っていたのだった。
*******
「なあ、エオラ。最下層にあるっていう王国の危機を救うことのできる物の心当たりはあるか?」
「えっと、それがですね…………」
第5階層のエオラの自宅で食事を済ませた後、第6階層から下へと潜るかどうかの相談になった。エオラからも探索の許可をもらっている。近々、この第5階層も模様替えして冒険者たちがエオラの家にたどり着けないようにするらしい。最近になって第4階層まで潜れるようなパーティーが出て来たり、ジジイみたいに完全にエオラよりも強い冒険者が現れたらというのが心境の変化の原因なんだとか。
「実はですね、最下層が第9階層なのは確認してるんですけど、あの……ちょっと……」
歯切れが悪い。
「え? 何かあるの?」
「……第6階層から下は、全くメンテナンスしてなくて、野生化した魔物と罠がごちゃごちゃに…………だから第9階層に、何があるかは、把握してなくて……」
片付けられない系女子だったか。
「そうすると、やっぱりどこかにベースキャンプを作って、じっくりと探索していかなきゃね」
エオラが味方になればすぐに探索は終わると思ったが、そうでもないらしい。しかし、ヨハンのためにも第9階層まで降りねばならない。
「この数十年で、勝手にアントシーカーが掘り進めたのですよ。私はこの家ができたから満足してたのに」
口をプーっと膨らませて言うエオラ。年の事を気にしなければ可愛いんだが。
「あのアントシーカーはもういいですから、見つけたら送還しておいてくださいね」
そして自分の召喚した召喚獣の処理をこっちに押し付けてくる。ああ、同姓に嫌われる系女子か。さっきからティナがイライラしてる。
今日はこれから第6階層に降りてもいいかもしれない。第4階層に作ったベースキャンプもあるし、ここのエオラの家ならば安全だから、何かあればすぐに引き返すことができる。
「私もついて行きます」
エオラがそう言うと、ピクッとティナとミルトが嫌な表情をしたがすぐに何事もなかったかのようになる。さすがに迷宮の主が同行してくれる事のメリットが上回ったようだ。命の危険に比べたら安いものなのだろう。
「じゃあ、エオラに案内してもらうとして…………どうした?」
「ええと、第6階層より下は、数十年くらい行ってないもので……今はどうなっているのか……案内はちょっと……」
引きこもり系女子か。もういいや。
とりあえず第5階層は模様替えするらしいし、あまり意味もないので地図は作成しなかった。第6階層から、仕切り直しである。
「ヒビキ、できたら第5階層にベースキャンプを作りたいけど、エオラヒテに許可をもらってよ」
「ああ、どうするかな。安全でも第5階層にはエオラの家があるしな」
何かの拍子にエオラの家に他の冒険者が行ってしまうかもしれない。
「まずは第6階層見てからにしようぜ」
「たしかに、そうだね」
新たな場所の地図を書くときのヨハンはテンション高い。
第6階層への階段を降りていく。他の階層間と違って長く感じた。もしかすると第5階層が湖のエリアなのが影響しているのかもしれない。
「あ、ようやく終わりじゃな」
一応は前衛であるジジイと一応は斥候であるミルトが先頭で進んでいる。
「何ですかね、あ……」
ミルトが指を指した。階段が終わったあとはゴツゴツした洞窟のようになっているようであるが、かなり広い空間になっているようだ。両側に壁があり、その先にはまるで砦のように不恰好な柵が並んでいる。石と木で作られたその柵は、見た目こそ悪いが非常に頑丈に作られている。要所には金属を使っているようで、攻城兵器でもなければ破壊は困難かもしれない。ジジイは別として。
「なあ、エオラ。あれは何?」
迷宮の主と行動を共にしていたために、一行の気が緩んでいたのかもしれない。しかし、エオラの返答を聞いて、やはり気を引き締めなければと思った。
「さあ、何でしょうか。私が作ったものじゃないですね」
「…………」
これはやはり迷宮の主がいても全く関係ないな、うん。
「さあ、どうしようか。明らかに文明をもった連中がいるよね」
ヨハンは地図を書きながら、尚且ついつでも第5階層に逃げ帰れる体勢で言う。相変わらずで、逆に安心する。
「あの柵を作れるというだけで…………」
ビュンと最初に音が鳴った。そしてそれに続いて数十を越える矢が俺たちの頭上に降り注ぐ。
「
「う、
いつものように俺が唱えたようにジジイがとっさに
「矢か!?」
矢を放つ魔物はたまにいるが、これほど統制された動きをみせる奴等は珍しい。単なる数の暴力ではなく、戦術が合わさってくるとなると、油断は全くできない。
「密集しよう、相手の出方次第では後退だ」
「ふむ、妥当じゃの…………それとも柵ごと吹き飛ばすか?」
「やめれ、迷宮ごと吹き飛ぶ」
一応は前衛のジジイを先頭にして、すぐ斜め後ろに俺がつく。他のメンバーはその後ろに隠れる。ジリジリと後ろにさがりながら、いつでも全力疾走できるようにジジイが全員に
「
「お、おう」
パーティーのメンバーはすでに気にする事はないが、敵には俺が唱えたように見せなければならない。敵に
こちらに矢が効かず、さらに密集隊形をとられた敵は矢での攻撃を諦めたようだった。柵の中央にあった小さめの門が開いていく。突撃してくるかもしれない。
「エオラ、心当たりは?」
「さあ、全く分かりません」
「あなた、迷宮の主でしょ!? あいつらの御主人様じゃないの!?」
さすがにティナが言ってしまった。だけど今までの感じからすると、エオラにそんな事を言っても無意味じゃないだろうか。
「あんな事をする魔物を召喚した覚えはないんですけど……」
そして本気で心当たりがなさそうだ。唇を尖らせて言う。そのしぐさにティナとミルトが舌打ちしたような気がする。マジで勘弁してくれ。
門が完全に開いた。中から敵が出てくる。
「フルプレート?」
そいつらは、全身に鎧を着込んでいた。但し、ちょっと小さい。だいたい15人ほどのそいつらは身長に似合わない大きな斧やハンマーを担いで、こちらに向かってきた。
「まさかとは思うんだけど…………」
ヨハンが、ちょっと予想外の事を言ったが、聞いたら確かにそうかもしれないと思った。
「あれ、ドワーフじゃない?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます