第28話 ドワーフ
前回のあらすじ!
第5階層へ降りてエオラヒテの歓待を受ける一向。そして第6階層にエオラヒテも付いて来てくれることとなった。しかし、この数十年第6階層に降りた事のないエオラヒテは迷宮の主ではあるが案内はできないという……。
そして、第6階層に降りた先には人工的な柵が張り巡らされていた。かなり頑丈な柵に近づくと、何の前触れもなく矢が降り注ぐ! なんとかそれをやり過ごした一向が目にしたのは、扉が開いて突撃してくるフルプレートを着た集団だった。そして、ヨハンが言う……。
「あれ、ドワーフじゃない?」
*******
見るからに低身長で金属の扱いに長けており、尚且つ筋力が強く斧やハンマーなどの武器を好む。俺はドワーフをよく知らないが、連中がそういう人種だという事は分かっている。あと、酒が大好きだとか。あんまりこの王国にはいない人種であるために、知り合いには一人もいない。
「本当にドワーフなら、なんで俺たちを問答無用で攻撃してくるんだ?」
「まず、ドワーフが迷宮の中にいる事の方が問題なんじゃがのう……」
ジジイが冷静である。常に戦闘においてジジイが慌てたことなど見た事がなかった。あったのはミルトに「最低……」と言われた時くらいのものか。
「じゃあ、ドワーフだと仮定しよう。どうするべきなんだ?」
「うむ、分からん」
このジジイめ。
「あの……」
最後尾に回っていたミルトが恐る恐る声を上げた。
「もし、彼らがドワーフなら、…………話が通じるんじゃないでしょうか?」
「ジジイ! なんでそんな初歩的な事も分からんのだ!?」
「うるさいわ! お前さんも分かっとらんかったじゃろうが!」
ミルトのごく初歩的な提案を聞いて、俺とジジイが言い合いを始めるとコスタとティナが呆れるような表情をしてしまった。いかん、最近はあまり頼りになる所を見せることができていない。
「とりあえず、ミルトの言う通りにして対話を試みるぞ!」
「う、うむ。了解じゃ」
そうこう言っているうちにもフルプレートの集団は武器を振りかざして突撃してきた。口々に何やら言っているが、訛りが強くてよく聞き取れない。
「待て! お前らはドワーフか!? 俺たちは迷宮探索の冒険者だ! 敵対する意志はない!」
とりあえず力のかぎり大きな声で叫ぶ。その声を聞いて先頭を走っていたフルプレートが仲間を手で制した。おそらくはこの集団の指導者だろう。
「お前らは魔女の手先ではないのか? 魔女の穴から出てきたのにか?」
多少の訛りはあったが十分通じる言葉だった。やはりドワーフのようである。
「先ほども言ったが俺たちは迷宮探索の冒険者だ」
「ここは迷宮ではないが、お前らは地上からやってきたのか?」
いまいち話が通じていないようである。しかし、対話の余地は十分にあるようだった。
「ああ、俺たちは地上から潜ってきている。ここはおそらく「辺境の迷宮」の第6階層にあたるはずだ」
「なんと、「辺境の迷宮」の第6階層だと!?」
自分たちが住んでいる場所を認識していなかったのだろうか。そして迷宮の主であるエオラはドワーフが何故こんな所に? という顔をしている。どうなってるんだ?
「とにかく、矢を射かけて申し訳なかった。話がしたいが、どうだろうか?」
ドワーフたちの方から、矛を収めてくれるようである。とりあえずは最悪の状況は乗り越えた。
と、思っていた俺はやっぱり甘かったのだろう。集落の中で先ほどの指導者の家に通されてお茶を出されたわけだが、さっきから全く味が分からない。仕方ない。この状況だ。
「ワシらの先祖は「蟻の魔女」にここに閉じ込められた。「蟻の魔女」は蟻型の魔物を使ってここを掘り進めているようだ。他にもたくさんの魔物がいる。ワシらの先祖はなんとかここで生き延び、ようやくこの辺りに柵を張り巡らせることができた。これが数十年前のことだ。「蟻の魔女」を見たことのある世代はもういない。だが、爺さんたちはあの穴は「魔女の穴」であり、先には魔女がいるから絶対に行くな、そしてあの穴からやってくるものは魔女の手先だから注意しろと言い残して死んでいった」
「「「…………!!」」」
やばい。その通称「蟻の魔女」はどう考えてもエオラヒテ=アクツその人であり、ここで呑気にお茶を飲んでいる。この感じは自分の事を語られているとは思っていないな。普通は気づくはずなんだけど……。そしてその蟻の魔物はどう考えてもアントシーカーだよな。
「蟻の魔物はいまだに死んではおらん。という事は「蟻の魔女」ももしかしたら生きているのかもしれん。だが、さすがに200年以上も前のことだ。寿命は尽きておろう。だが、ワシらは先祖の言いつけを守り、蟻の魔物が死に「蟻の魔女」がいなくなる事を確認するまではあの穴には近づかないと決めておった」
あれ? 200年以上前ってことはエオラはそれ以上の歳……いやいや、今はそれどころではない。この状況で戦いになる事だけは避けねば。
「そ、そうか。「蟻の魔女」には心当たりがないんだが、もしそいつが現れたらどうするんだ?」
「決まっている。命尽きるまで戦うのみだ。二度とワシらの故郷を奪われるわけにはいかん。父祖に誓っても一矢報いるまでは死んでも死に切れん。だが、先祖はワシらでは歯が立たん事を分かっておった。だからこそ「魔女の穴」を越えることを禁じたのじゃろう」
「そ、そうか……」
いかん、ドワーフたちにエオラがその「蟻の魔女」だとばれたら戦いになる。この第6階層に集落を作っているドワーフは全部で60人くらいだろうか。さすがに筋骨隆々でこんなフルプレートに斧やらハンマーの連中と戦うとなればこっちにも負傷者がでそうだ。もしくはジジイとエオラが酷いことをしてしまうか……。
「ワシらの悲願は地上を見ることじゃ。先祖は最後まで地上に立つことができなんだ。もし、お前らが協力してくれるならば、……いや、ワシらを地上に連れて行ってくれぬだろうか」
「え? そんなの簡単よね。だって私が迷宮のぬ……モガガ」
慌ててエオラの口をふさぐ。やべえ、この流れはちょっと待て。
「だ、第5階層はまだしも、第4階層と第3階層にはそれなりの魔物が出る。俺たちが一度帰って君らが地上に出る下準備をしてきても良い」
「おお! そうか! 恩に着る! 皆の者! 今宵は宴じゃ!」
「「「うぉぉぉぉぉおおおおお!!!!」」」
ドワーフの集落全体が揺れるほどの雄たけびが……、どっちかというと地上に出れることよりも宴に対してテンションが上がってないか? いや、今はそれどころじゃない。
「ちょっと、ヒビキ様。急にどうしたのです?」
「いやいや、エオラ。ちょっと状況を整理しようか」
「そ、そうだね。ヒビキの判断は正しかったと思うよ?」
ヨハンも気づいていたか。というよりもエオラ以外は気づいていたに違いない。コスタもミルトもティナも顔面蒼白である。そこでジジイがいらん事を言った。
「というよりもじゃな、お主最低でも200歳以上ということじゃな? ワシよりも年上じゃの。とんでもないババアじゃ」
このジジイの一言でドワーフの集落の一部が崩壊したわけだけど、宴の準備で忙しかったドワーフ達は深い理由を聞いてこなかったので助かった。そして「蟻の魔女」が自分の事だと気づいたエオラがドワーフ達を皆殺しにしようとするのを止めるのがもっと厄介だった。「蟻の魔女」って名前が不本意なんだとか。
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