第29話 宴

 前回のあらすじ!


 ドワーフ達との戦いを避けることができた一向であったが、何故ここにドワーフがいるかという話を聞く。それは「蟻の魔女」という蟻の魔物を召喚して迷宮を掘り進めている魔法使いが元凶だった。

「というよりもじゃな、お主最低でも200歳以上ということじゃな? ワシよりも年上じゃの。とんでもないババアじゃ」

 このジジイの一言のせいでドワーフの集落の一部が崩壊した。




 *******




「ガハハハハハッ!! ほれ、御客人も一気じゃ!」

「もう無理ですぅ、飲めません~」

「騎士のくせに弱い! 向こうの女子の方がよっぽど強いわい!」

「え? 何か言いました?」

「ミ、ミルトは本当に強いのう……コスタなんぞ1杯で潰れてしまったというに……」

「彼女に負けているようでは立派なドワーフにはなれんぞ!」

「いえ、彼女でもなければドワーフでもありませんから大丈夫ですよ?」

「あのねえ、ミルト! そうじゃなくってぇ、何ぃこの状況に適応しちゃってぇ……」

「おっとティナよ、疲れたならワシの胸で眠るとよ……」

「セクハラ1回5000ゼニーですぅ!!」

「値上げしておるっ!?」


 ドワーフたちは宴が始まると村長の家が崩壊している事などお構いなしに飲み始めてしまった。その宴に巻き込まれる俺たち。というよりどういう状況?


「なんて失礼な人たちなんでしょうか。私が? 「蟻の魔女」? 蟻ってどういう事?」


 横では怒り心頭のエオラがちびちびと酒を飲んでいる。正体をばらさないでくれとお願いするのに苦労した。ついでにジジイがババアなんて言ってしまったもんだから、エオラの火山ボルケーノとジジイの防御ディフレクトがかち合って、結果村長の家が半壊したのだ。ちょっとした事件だと思うが、宴の方が重要だというドワーフも理解できない。老若男女問わず酒に夢中になっている。


「まあ、君が昔この人たちの先祖を無理矢理連れて来たんだろう?」

「お、覚えがありませんね」


 これは絶対に思い出した顔だ。しかし年齢の話になるのを避けているのだろう。かたくなに認めようとしない。


「誤解があったとしても、迷宮のぬしが第6階層から下に住んでいた人を認識してなかったんだから、少しは責任があるだろう」

「うぐっ」


 やはりちょっとは後ろめたいのだろうか。エオラが言葉に詰まる。


 しかしドワーフが酒好きだとは聞いていたが、これほどとは思わなかった。さっきから一気飲みコールが絶えることがない。今も一人のドワーフが一気飲みをしているところだった。


「ごくごくごく……御馳走様っ!」

「「「ごちそうさまっが可愛くないっ! それ一気! 一気! 一気! 一気!」」」


 これで4杯目の連続一気である。死人が出るんじゃないか? 客人には一気をさせないというのが彼らのルールだとか。それがまだ救いではあるけど、それでもけっこうきつい。


「おう、飲んでおるか」


 村長がやってきた。ブスっとしたエオラを見て一瞬ぎょっとなるが、気を取り直して俺の横に座る。


「いただいている」

「我らの集落に客が訪れるのははじめてじゃ。先祖から客にたいする礼儀というのは教えられたが実際に会ったことがないのでな。無礼があっても許せ」

「いや、そんな事ない。こちらこそいきなり押しかけた形になり申し訳なかった。ところで村長……」


 俺は酒を飲み干す。かなり強い酒だ。ドワーフの火酒というのがこんなに強いなんて思わなかった。


「ここより下の階層の事が聞きたい。俺たちはこの迷宮の最下層に行かなければならないんだ」

「下か、よかろう。ワシらも上の事が聞きたい」


 情報収集は非常に大事なんだが、この後結構飲んだようで、あまり覚えてはいなかったというのが致命的だった。




 ***




「というわけで当面の予定を発表しようと思う」


 この迷宮の中では雨が降らないために村長の家の崩壊した部分に布団を敷いて寝た一向。そしてその部分で朝を迎えたわけだが、本日の予定を決めねばならない。寝相の悪いメンバーがごちゃごちゃになって雑魚寝状態である。


「ちょっとヒビキ! なんでその女と一緒に寝てるのよ! 離れなさい!」

「え? あ、エオラ……いつの間に」

「頭がー、頭が痛いですー」

「よっと、……俺も結構飲んだな。めちゃ気持ち悪い。……回復するまで待機で」

「あー、でも分かる気がする」

「そうじゃぞ、ティナ。お前だけが頼りじゃ」

「うー、頭が……」


 完全に全員飲みすぎで布団から出てこれない。頭痛と戦う集団になっている。ちなみにドワーフ達は朝から仕事を始めているそうだ。


「状態回復の魔法は1回50ゼニーで……うっ、気持ち悪い」


 ティナがこんな状態で魔法が使えないわけで、さっきから話が全然進んでいない。


「皆さん、そんなに飲んだんですか? 村長さんに薬を頂いてきましょうか?」


 ミルトだけが、ピンピンしているのだ。


「と、とりあえずティナが回復するまでは現状待機、総員警戒をおこたるな……」

「りょ、了解」


 コスタだけが返事をしてくれる。



「あー、本当に死ぬかと思ったわい」


 ティナが回復したのはそれから数時間あとの事だった。ミルトが全員に水を飲ませたりして介抱してくれて助かった。これからは状態回復の薬も多めに持っておくことにしよう。予備があるならば、こんな事でも使った方が良いかもしれん。


「とりあえずは一旦地上に戻ろうか。ここのドワーフ達に地上を見せてやると約束したからな。これが終わればここの集落をベースキャンプとして使うことができるようになる」

「それは大きいよ。第9階層まで潜るためにこんなにいい休憩所はないからね」


 一足先に回復したヨハンは集落の地図を書いていたようだ。他にも第7階層への階段がある場所などをドワーフたちに聞き込みをしていたようである。第6階層は第1階層同様にヒカリゴケが沢山生い茂る洞窟を、ドワーフ達が改造して住みやすくしたようだった。この階層では鉱石などが主に取れるらしい。第7階層まで潜ると樹々や水が豊富にあり、そこで採取をする事でドワーフたちは生活をしているようである。


「私は模様替えがあるので先に行きますね。ヒビキ様、またあとで」


 エオラが第5階層へと先に戻っていった。またあとで、って事は当たり前のように姿を現すんだよな。


「お前さんも大変じゃのう」

「言うな、ジジイ。全ては地上に帰ってからだ」


 ここはおそらくエオラの監視カメラがあるに違いない。同じ過ちは繰り返さないぞ。



「さて、では戻りますか」


 ドワーフたちに必ず帰ってくることを約束して第5階層に戻るとすでにエオラの家は無くなっていた。おそらくはかなり遠くに見える島に移動したのではないだろうか。船でもない限りは到達できなさそうな場所である。船があっても湖の中の魔物をどうにかしなければならないからエオラの家に冒険者が行く事は間違ってもなさそうだ。


 帰りは特に大きな問題なく地上まで戻ることができた。さて、ツアにどのように説明するべきなんだろうか。まずは状況の報告と、それなりの人数のドワーフ達が地上に出てきた時の用意が必要である。

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