第38話 緊急依頼

 前回のあらすじ!


 ギルドに現れたオルガ=ダグハット。しかし、彼は意外な人物を連れてきていた!

「お前は俺と一緒で彼女なんかできないと思っていたのに!」

 それはかつての仲間、オベール=ヨークウッド、年齢=彼女いない歴の男だった!




 *******




聖光ディバインレイ!」


 降り注ぐ光にがブラックドラゴンを焼いていく。見たこともないような量の光が収束することによって、焦点に設定された鱗が圧倒的熱量に耐えきれずに溶けてしまった。苦しみもがくブラックドラゴンの尾が僧侶の集団を襲う。


防御ディフレクト!」


 しかし、その反撃は一人の男の神聖魔法によって防がれてしまった。


「なんだよ、次期教皇候補同士って言うから仲が悪いんかと思ったら、めちゃ相性いいじゃねえか、あいつら」

「僧侶は単体でも万能型だからねえ」

「神官ってのは、ちと火力が足りんのが欠点じゃが、あの聖光ディバインレイがあるなら関係ないのう」



 オベールの聖光ディバインレイはゴダドールの地下迷宮でもかなり使い勝手の良かった神聖魔法だった。僧侶であり、基本的には攻撃魔法のないオベールが唯一持った光の破壊魔法であり、その威力はかなりのものである。もともと攻撃的なオベールの性格もあって、最終的には要所要所で使うことのできるほどの威力をもつようになった。それが、ブラックドラゴンには著効している。


「よし、もう少しだぞ、オルガ!」

「おお、任せるがいい!」


 新調したモーニングスターがブラックドラゴンの脳天をたたき割る。脳震盪を起こして倒れこむブラックドラゴンに取り巻き連中が群がった。そして、ある程度は暴れていたブラックドラゴンが最終的には動かなくなる。


「「えい、えい、おぉー!!」」


 取り巻きたちが鬨の声をあげた。そんな、戦国時代じゃないんだから……。



「ふふふ、どうだ! 王都神殿の最精鋭の力を見たか!」

「貴様らよりも先に最深部についてやるからな!」


 オベールとオルガが仲良くブラックドラゴンの上に乗っている。そして二人してこちらを指差して色々と悪態をついているのであるが、長年の相棒のように動きが合っているのがちょっと面白い。それに神官が人を指差して色々と罵ってくるというのがあまり見ない光景である。


「あぁ、私の可愛いドラゴンパピーが……」


 エオラが感情のこもってない言葉を発した。もちろん表情はこれっぽっちも悲しんでいない。


「まあ、あいつらが倒してくれるんなら、放っておいて第9階層に降りようか」


 ヨハンが意外とえげつない事を言っている。第9階層が最深部だったと思ったんだけどな。


「付き合っておっても疲れるだけじゃろう。それも良いのじゃないかのう?」


 ジジイもこいつらと付き合うのに飽きてきたようだった。


「後ろについて行って、最後に横取りってのもいいですよ」


 ミルトもなかなか言うようになった。


「いや、あまり近寄りたくないですわ」


 ティナはオベールに手を取られてから苦手意識が強いようである。


「ライオス師匠と僕で吹き飛ばしてしまえばいいではないですか。誰も見ていないのでは?」


 さらには、若干不機嫌になっているコスタが物騒な意見を言う。



「はぁ……」


 しかし、正直ため息しか出ない。なんで、こんなに攻略以外の所で問題が山積みなんだろうか。まあ、オベールもジジイがゴダドールであることをばらすつもりは毛頭ないようであるし、表面だっての問題と言えばブラックドラゴンだったけど、神官団が問題なくブラックドラゴンとも戦えるという事は俺たちが倒してしまっても特に不自然ではないわけで、問題は解決したという事でいいのか?


「私たちが付き合っているのがバレてしまったというのが問題ですね」

「付き合ってないからな」


 エオラもすぐに調子に乗ってくるし、気を抜けないのである。いっそのことオルガと一緒になってくれると楽になるのかもしれないけど、それもそれでなんか不安しかない。


「とりあえずは目の前の事だね」


 ヨハンが地図を取り出した。


「そうだな、あいつらはとりあえず放っておこう」


 まだ第7階層もきちんと地図を書き終えていない。そして第8階層は当分の間はオベールとオルガたちがブラックドラゴンと戦うのだろう。8頭もいるという事だから、結構な時間がかかるに違いない。俺たちはその間に第7階層の地図、そして第8階層の地図を書くこととした。




 ***




 何度か地上とドワーフの集落を行き来するようになると、片道をほんの数時間で行き来できるようになってしまった。降りてくるのは第1階層からスロープを使うために1時間かからないかもしれない。第5階層はほとんど直線だしな。時間がかかるのは登りの第2階層と第3階層である。寄り道しなければかなり時間の短縮ができた。そのために朝から迷宮に潜って夕方に地上に出てくるという事を繰り返している。オベールやオルガたちはドワーフの集落を利用して宿泊しているようだった。


「あいつら、なかなか地上に上がってこないみたいだな」


 ギルドのラウンジで飲んでいると、ツアがやってきた。


「ああ、ブラックドラゴンを何頭かしとめたみたいだけどな」

「さすがにオベール=ヨークウッドとオルガ=ダグハットか」


 両方とも次期教皇の候補とされる神官であり、人類にとって最高峰の神聖魔法の使い手なのだ。それが竜殺者ドラゴンスレイヤーであっても驚くことはない。


「ギルドマスターとしては早いところ素材を持って帰って欲しんだがな」


 ……あれ? あいつらまだ一度も地上に戻っていないのか? 最初にブラックドラゴンが倒されてからすでに4日は経ったというのに。おそらくは4~5頭のブラックドラゴンを倒したのであろう。


「奴らが8頭全部倒したら、ワシらも第9階層へと行くとするかのう」


 なんてジジイが提案して、他の皆も賛成してしまったもんだから俺たちは第8階層の地図の作成に取り掛かっていた。しかし、奴らが素材を持って帰っていないというのである。数頭分のドラゴンの素材だ。ドワーフの集落だけで全てを買い取れるわけがなく、そもそもドワーフ達はあまり金を持ってないから物々交換しかできないだろう。


「もしかして、あいつら素材はぎ取ってないんじゃないか? 神官だし」


 オルガがモーニングスターを持っているのは単純に得意な武器であるというだけではない。あいつらは教義があって基本的に刃物を持たないのだ。そのため僧侶や神官の武器はメイスなどの打撃系の武器となりがちである。オベールは昔、短剣くらいは持っていたことがあったが王都神殿で出世してからは携帯していないのかもしれなかった。


「おい! ブラックドラゴンだぞ!?」


 普段は細いツアの目がくわっっと開かれた。面白いな。


「何笑ってやがる! 素材を放置なんてしてたらどれだけの損失だと思うんだ!?」


 たしかにドラゴンの素材は高値で取引される。だからこそ8頭ものブラックドラゴンが第8階層にいて、それをオベールたちが倒していると聞いた時にはギルドがお祭り騒ぎになったほどだ。オルガたちが色々とギルドに迷惑かけた事を補って余りあるほどに、ドラゴン討伐による恩恵は大きいはずだった。だが、奴らは神官だった。



「緊急依頼だ! あのバカ神官たちが放置しているブラックドラゴンの素材を集めて来い!」



 こんな慌てたツアを見れたというのは初めてだろう。さっきからニヤニヤが止まらないが、途中から話を聞いていたティナがやってきて無理矢理迷宮へと押し込まれてしまったのはほんの数分後のことである。

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