第46話 使い魔

 前回のあらすじ!


 飛ばされた部屋とその周辺にて生活を始めるヒビキとミルト。徐々に狩りにも慣れ生活が安定していく。そして魔石を手に入れたことにより、ヒビキの杖が出来上がるのだった。




 *******




「だから、どうやればその短剣でホーンガウルが狩れるんだ?」

「えっと、角を持ってこうやって捻ると首が…………」

「分かった! それ以上言わなくていい!」


 ホーンガウルが大部屋に横たわっているわけであるが、重くて動かせないためにこの場で解体作業に入る。かなり大きいので大変だ。

 ミルトの狩りの腕がどんどん上がる。すでに作り上げられた罠はちょっと見ただけでは構造は理解できないし、設置された場所を教えられたが、分かっていても見えてこない。

 さらにはもともとコスタの顔面に飛び膝蹴りをかませるほどに身体能力はかなり良かったほうなので、魔物を仕留めるのも上手い。


「もしかしたら、盗賊よりも狩人の方が向いてたかもしれませんね」


 ホーンガウルの角を頭蓋骨から外しながらミルトが言う。絵面が怖い。しかし、ホーンガウルの毛皮で快適なベッドをミルトに作ってやれると思うと、俺の分も狩ってきて欲しいところである。そして、食料の心配が一気に減った。生き残るために必要な事である。


「そろそろ探索を始めないとなぁ」


 通路の左側はずっと通路が続いており、先に進んだ事はない。大部屋の先の通路も行ったことがなかった。どこで悪魔たちが潜んでいるか分からないから、積極的な探索は行ってこなかったのである。大部屋に来る魔物を待ち構えてミルトがそれを狩る毎日だった。俺は拠点で様々な事を行う。


「この角で武器が作れませんか?」


 先の尖った角は形を整えれば槍になりそうだった。魔物の角であり、強度は十分である。短剣で少しずつ削ると立派な短槍になった。ホーンガウルの角がある程度真っ直ぐなのが幸いした。


「おお、いいじゃないか」

「これでヒビキさんも一緒に狩りができますよ!」


 いつの間にか立派な狩人になってしまったミルトが言う。




 ***




「見つけた!」


 エオラヒテ=アクツは他のパーティーメンバーと共にドワーフの集落の宿にいた。この1か月弱は常に第9階層の探索を続けているが、悪魔の抵抗が思いのほか強くなかなか奥深くまでは進むことができていない。仕方なくエオラヒテは召喚サモンした使い魔の中でも最も小さい物であるサンドリザードを第9階層の奥深くまで遣わせたのである。

 簡単な映像であれば使い魔と共有する事ができるのが迷宮の主である。これがかつてヒビキとライオスの会話を聞いていた正体であったのだが、


「おぉ、生きておったか」

「ミルトは!? 彼女は無事なんだろうな!?」

「二人とも、魔物の狩って生きているみたい。ホーンガウルの皮剥ぎしてるわ」

「ぶはは、しかし1か月弱も二人きりじゃったんじゃから、吊り橋効果ってやつで今や恋仲じゃろうのう、うらやましいのう」


 エオラヒテとコスタがライオスの方をギッと睨む。


「ジジイ! ヒビキ様が浮気なんてするわけないでしょ!」

「ライオス師匠! 言っていいことと悪い事があります!」



 だが、エオラヒテが完全に安心したわけではなかった。ヒビキとミルトが見つかった場所。それは第9階層の最奥に近く、その手前には悪魔たちが根城にしている領域があるのである。魔素を感じ取ることのできる魔法使いがいない状況で、うっかりとその領域に入ってしまえばあっという間に悪魔たちに取り囲まれる。だからと言って前衛のいない今のパーティーでは悪魔たちの領域を突破できるかというと、自信があるわけではなかった。


「どうにかして、こちらの状況をヒビキ様たちに伝えることができたらいいのに……」


 使い魔ができる事は限られる。あちらに伝える手段はほとんどない。そう思っていた……だが。


 その時、ガシッと使い魔のサンドリザードが捕まえられた。捕まえたのはミルトである。なにやら「おやつゲット!」などと物騒な声が聞こえる気もしないでもないが、その使い魔を見てヒビキが言った。


「エオラの使い魔か!?」


 光明が見えた瞬間である。エオラヒテの目から涙がこぼれたとしても仕方がなかった。


 その後、ヒビキはこれから探索の場所を広げるという事、今の所はなんとか生活ができているがヒビキの身体はまだ治っていないという事を伝えてきた。だが、こちらからヒビキに何かを伝える術がない。迷宮の主として、もう少しきちんと迷宮を管理していればという後悔がエオラを襲う。


「仕方ないじゃない。今、一番あいつらを助けることができるのはあんたしかいないんだから、シャキっとしなさい」


 年下の僧侶に言われてしまう。普段はあまり仲が良いわけではないが、この時は最もだと思った。そのとおりだ。諦めるなんてできるわけがない。昔の事がよみがえる。助けることができなかった。それどころか、自分の手で殺める以外に止める方法がなかった。あの子の好きにさせていれば、あのあともあの子は生き続けただろうかと思わない日はない。後悔がある反面、あの子の遺体は守り切ると決めた。そして大切な人もできた。今度は何があっても守り切ると誓う。


「どうするのが一番?」


 癪だが、この場でもっとも大きな力を持っている魔法使いに尋ねる。自分では妙案を出せそうになかった。


「ひとつとっておきの手があるぞえ」


 ライオスが提示した手は、ある意味簡単な事であった。




 ***




「ヒビキさん、それって本当にエオラヒテの使い魔なんですか?」

「分からん、返事してくれないしなぁ」

「とりあえず炙って食べます?」

「………………」


 エオラの使い魔と思われるトカゲを離す。ミルトがあーっ!って言ってるが、ホーンガウルの肉が手に入ったんだから我慢しようよ。


 少し元気が出てきた。もしエオラたちが俺たちの生存を確認したとなれば何かしらの行動に出るだろう。それが悪い方向に働く場合もあるかもしれないが、基本的には脱出につながるはずである。


「しかし、こいつが使い魔じゃなかったら馬鹿みたいだから、こっちはこっちで明日からでも探索の距離を広げようか」


 ホーンガウルの解体と調理で今日は終わりそうである。また明日から探索を始めるつもりでいると、ミルトが言った。



「私も新しい武器が欲しいですね」

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