第47話 探索開始

 前回のあらすじ!


 エオラヒテの使い魔を発見したヒビキとミルト。ある程度の情報はエオラヒテたちに伝わったはずであったが、エオラヒテたちからは何も伝えることができなかった。ヒビキは周囲の探索範囲を広げることを決める。一方、ライオスはある方法を思いついていた。




 *******




 ミルトの新しい武器を少し考えてみる。この数週間で格段に動きが良くなったミルトは十分に前衛を務めることができそうだった。しかし女性であることもあって力が強いというわけではない。であるならば盗賊の主要武器である短剣と、それを補助するような武器が最もよいのだろう。しかし迷宮内で作る事のできる武器というのは限られてしまう。俺用に角の槍ができたのが奇跡に近いのだ。鍛冶職人と設備があって初めて金属製の武器は手に入る。他は基本的に生産する技術がなければ戦闘に耐えられる強度の武器など作りにくい。


「短剣の他に何か使ったことのある武器はあるのか?」

「いえ、これ以外は何も。ですけど、攻撃の幅が欲しくなってきたんですよ」


 非常に狩人としての才能に恵まれたんだろうか。ぜひとも脱出した暁には弓を使ってもらいたい。盗賊兼狩人としてメンバーに一人いるとものすごい重宝する冒険者に成長したのではないかと思う。極限の状況というのは恐ろしいが、こういった産物もある。


「できれば遠距離攻撃だよな。じゃあ、この状況でできるのはこれだけかもしれない」


 俺が提案したのはスリングである。ツタを割いてより合わせたロープを組み合わせて石や瓦礫を投げる武器だ。狙いが難しいのが難点であるが、威力は下手な武器なんかよりもよっぽど強い。急ごしらえという事も考えると、今のところは最適な武器じゃないかと思っている。


 さっそくロープを編みだしたミルトは罠を作成した経験もあってあっという間に一つ作り上げてしまった。手頃な石を持ってきて練習を始める。なかなか筋がいいようで百発百中とは言わないが大きな的には当てられるくらいの精度はあるようだった。あれなら十分に遠距離の武器として使うことができそうだ。ただし、やはり命中精度が完全ではないために外れた時の隙も大きい。牽制に使うくらいがいいのかもしれない。それでも攻撃の手段が一つが増えたと言って喜んでいる。石をスリングにのせて回すとヒュンヒュンいうのが楽しいらしい。遠心力が乗った小石はそれなりの勢いを持って飛んでいく。


 十分とは言えないが、探索の準備は整った。


「さあ、どっちから攻略していくかな」


 通路の左側か、大部屋の先である。


「ヒビキさんはどっちが安全だと思いますか?」

「そりゃ大部屋の先じゃないかな。あっちからは魔物は来ていても悪魔は来ないからな。逆に通路からは何かが来たことはないし」


 逆に言うと、魔素が漂う領域を越えなければ第8階層には戻れないのである。通路の方が戻る道の可能性が高い。だが、この状態で悪魔たちと渡り合えるわけがなかった。むしろ最深部を目指し、何かしら武器になるものを見つけたい。


「分かりました、大部屋の奥に行きましょう」


 ミルトはスイングで飛ばす小石をかき集めて袋に入れている。あれが何かしらの助けになってくれれば嬉しい限りだ。


「慎重にな。少しずつ進むからな」


 拠点と大部屋以外は行ったことがないのだ。どんな魔物や悪魔がいるか、分からない。慎重過ぎるなんてことはあり得なかった。



 大部屋は部屋という広さではなく、かなりの広さがあった。瓦礫や植物で溢れているが、背の高い障害物は少なくかなり先まで見通せる。ただし、ヒカリゴケの量はそこまでないために全体的に暗い。ミルトは足しげく通っていたが、俺は川の傍までしか来たことがない。川の近くにはミルトが作った罠を見張るときに潜伏する窪地が作ってあった。ミルトはここで魔物が罠にかかるのをずっと待つらしい。


「そんなに魔物来ないですから暇なんですよ」


 窪地の近くには製作途中の罠が置いてあった。ツタが沢山採取されている。


「よくここまで作ったな」

「えへへ」


 他のメンバーであったならこうも上手くは作れなかっただろう。ジジイやエオラであったなら転移テレポートで帰れたかもしれないが、ここで生き抜くのは無理だ。


「それで、この先に通路はあるのか?」

「2か所だけ、先に進む通路があって、魔物はそっちから来ることが多いです」


 ぼやっと先に通路らしきものが見えた。


「じゃあ、片っ端から探索して…………なんか来たな」


 通路から歩いて来る魔物が見える。ロックリザードだった。罠にかけてしまえばミルトでも倒すことができる。だが、今後のことを考えると戦闘で倒さなければならないのではないだろうか。動きの鈍った足を引きずり、曲がりにくい右腕に槍を持つ。


「できますか?」

「おう、やらなきゃならん」


 覚悟は決めた。1か月ぶりの戦闘だ。全身の筋肉は落ちているし、利き腕は曲がりにくい。瞬発的に飛ぶこともできないだろう。しかし勘を取り戻すには実戦しかない。


 槍を左手に持ち帰る。まだ、こっちの方が使いやすい。クルンとホーンガウル製の短槍を回してみると、ロックリザードがそれに気づいたようだった。こちらへとバタバタ走ってくる。


「以前みたいに避ける事もできんから、工夫せんとな」


 ふらりと近寄る。ロックリザードもあまり警戒もせずに突進してくるようだった。槍を構える。以前であればこの時点で投擲して終了だったかもしれない。だが、武器を手放しても戦える状態ではない。


フレイム!」


 さっと、右手に杖を取り出す。唱えたのはフレイムの魔法だ。単発での威力はさほどでもないが、顔面に直撃したロックリザードの足が完全に止まる。連発する事で、動きをある程度封じた。一歩、踏み出す。左手の槍はすでに繰り出される体勢になっていた。狙うは急所のみであり、顔面に魔法を食らってのけぞったロックリザードは威嚇のために歯と舌を出している。口に吸い込まれるようにして、ホーンガウルの単槍がロックリザードを串刺しにした。


「やりましたね! やっぱりすごいです!」

「ああ、ありがとう」


 気づくと、かなりの汗をかいていたようである。ロックリザードなんて、以前であれば格闘だけでも倒せたような相手であったはずだった。


「さあ、先にすすもうか」

「はいっ!」


 今回は探索が目的であったためにロックリザードはそのままにしておく。食料も十分あるしな。ある程度探索できたら帰ってきてこいつをさばこう。俺たちは通路の先を目指した。



 でも、この時に少しだけ気づいてしまった。頭にあったのは油断ではなく、生きて帰れたあとの事。ジジイの快癒リカバーならば、動かなくなった体を直すことができるはずである。そして、先程の戦闘。

 俺は、まだまだ強くなれる可能性があったのだ。

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