第48話 星の核
前回のあらすじ!
拠点と大部屋の他の探索を開始したヒビキとミルト。ミルトは新たにスリングという武器を使い、ヒビキはロックリザードとの戦いで戦いの勘を取り戻し新たな戦闘スタイルを見出すことに成功した。
*******
大部屋の先の探索は意外にもすぐに終わった。先には2つほど、大部屋と同じくらい広い空間があり、さらに先に通路が入り組んでいた。だが、どの通路にも入らなかった。いや、入れないと言った方が正しい。
「これか…………」
「どうしたんです?」
「多分、これがジジイの言っていた特徴的な魔素ってやつだ」
以前の俺では感じとることのできなかった魔素が、この数週間での魔法の鍛練で感じ取れるようになっていた。第9階層に降りてきた時ほどではないかすかな魔素。これ以上進むと悪魔たちに嗅ぎ付けられるのだろう。今はまだ戦える状態ではない。
「仕方ない、通路の左側を進むとするか」
拠点に戻る。大部屋の先が第8階層へと続いているのだろうか。だとすると、通路の左側には何があるのだろう。
「とりあえず行ってみないと分かりませんね」
「そうだな」
食料も問題ない、ここで生活を続けるのが可能になるほどに適応してきた。しかし、打開策がなければいつかは心が折れてしまうだろう。まだ前向きに物を考えられる今だからこそ、何かしらの希望が欲しい。
「ご飯を食べたら行ってみましょう。だけど、そんな怖い顔してたら悪魔たちも寄ってこないかもしれませんね」
「む……そんな顔してたか?」
左手で顔をペチペチ触ってみる。ミルトに気を遣わせてしまうとは。
「ここにシワが凄かったですよ」
自分の眉間に指を置いてミルトが言った。これは反省しないとな.
「すまん、ちょっと色々と考え過ぎていたようだ」
ここに来てからミルトには随分と助けられている。
通路の左側はかなり長い廊下のようになっていた。基本的には一本道であるために迷うことはない。
「これだけ長い通路は今までなかったんじゃないだろうか」
「そうですね。第9階層自体が他の階層に比べて随分と広い気がします」
言われてみると第9階層はかなり広い。第5階層なんかと比べると何倍、何十倍かというくらいである。最深部であるという事が原因なのだろうか。
「とにかく、進んでみましょう」
ミルトに促されて進むこととした。これだけ長い一本道で悪魔たちに襲われたら逃げる所も隠れるところもないのではないかという不安がよぎる。通路の広さは当初は人間が数人横になって進むことのできる程度であったのが、徐々に広くなっているようだった。大型の魔物やベヒモスなんかの巨大な悪魔も追ってくることができそうである。
「これ以上進むべきだろうか」
「いざとなればヒビキさんが
簡単に言ってくれるが、意外と有効な手なのかもしれない。いつでも発動できるように魔法式を練っておくことにしよう。練習も必要かもしれない。俺は槍ではなくて杖を持って移動することにした。
それにしても通路は長かった。すでに数キロメートルは歩いたのではないだろうか。1時間くらいは経っている。これだけ長ければこちら側から魔物が来なかったのにも納得ができた。
まだまだ通路は続く。ところどころ曲がっているが基本的にはずっと一本道だった。明らかにここだけ異常な作りをしている。すでに地上はルノワの町を大きく外れているだろう。あるのは瓦礫とヒカリゴケ、それに他の少量の苔などの植物のみである。ほとんど音もしないために自分たちの足音が大きく響く気がする。
「この先に、何かがあるのでしょうか」
「分からんけど、何もありませんでしたってのはちょっと嫌だなあ」
できれば、第8階層へと続く道で会ってほしい。だが、こちら側からはほとんど魔素が感じ取れない。悪魔たちはいないが、第9階層の入り口にあれだけの魔素が漂っていたことを考えると望み薄というところか。とにかく、これだけ歩いて来たのだからこの先に何があるか確認したい。
「ジジイだったら
「ライオスさんはすごいですからね、さすがゴダドールって感じで」
「そのうち、コスタもそうなるのかな」
「どうでしょうか。無理なんじゃないですか?」
ミルトが笑いながらひどい事を言う。だが、ジジイが才能と努力を認めたってことは、すくなくともジジイくらいにはなるんじゃないかと思っている。
「ひどい奴だな、彼氏に対して」
「……え?」
「え?」
「なんですか、それ?」
ミルトがすごい顔をして言った。あれ? コスタの事を認めたんじゃないのか? あれだけアタックをかけたコスタを認めたってことは、てっきり付き合っているのかと思っていた。
「…………違うの?」
多分、我ながら酷い顔をしているのだろう。ミルトの表情がどんどん変わって怒りの表情になっていく。これは、何かの地雷を踏んでしまったのだろうか。しかし、どこが地雷だったのかが全く分からん。
「なんで私がコスタと付き合わなければならないんですか!? もう知りません!」
ミルトが俺を置いてドンドンと進んで行ってしまった。そんな速度で歩かれたら、足の悪い俺は追いつけないんだけどな。
「ちょ、待ってくれよ」
慌てて追いかける。だけどどうしても足が速くなるわけではなかった。引きずるようにして走っていくと、軽く曲がっている部分に出た。ミルトはその先に行ってしまって姿が見えにくい。
「ミルトさん?」
これは結構怒っているぞ。まずい、やらかしたか。機嫌を取るにはホーンガウルの干し肉を多めに渡して……。
「ヒビキさん」
すると曲がった所でミルトが立ち止まっていた。待っててくれたのかな? ようやく追いついた。
「ふう、ミルト。ごめんな……」
「あれ……」
気づいたらミルトが指を指していた。その先には通路が終了して、ちょっと小さめな部屋がある。中が薄暗く見えていた。中央の奥の壁で何かが光っていた。
「と、とりあえず、罠がないかを確認して部屋に入ろう」
「はい」
ミルトが罠の確認をする。どうやら何もないようだ。
部屋の大きさは拠点よりも小さいくらいだった。他に続いている通路はなく、ここが終点のようである。
中央の壁の中心に、光るものが埋め込まれていた。
「これ、何だ?」
「さあ、なんでしょうね……」
近寄ってみると、光を発する石のようだった。青白く発光している。大きさは手のひらに収まるくらいで、杖に使った魔石よりも小さいくらいだった。
だが、この石からは強大な魔力を感じた。魔法がある程度使えるようになっていなければ感じなかったのだろうが、この魔力は半端ない。しかし、以前に同様の魔力を感じたことがある。
「これ、ジジイの「時狩りの杖」に似ている」
あれはたしか、「大魔術師のローブ」と同様に、星の
「これが、星の
謎に包まれていた星の
「じゃあ、これが……」
「ああ、これがあれば……」
星の
「ヒビキさん! もしかしてこれが!」
「ああ、そうだな! ミルト!」
二人で喜びを分かち合う。これがあれば……。
「これがあれば強い杖を作ることができるぞ!」
「え?」
あれ? なんか俺、間違ったこと言った? あれ? ミルトの顔が一瞬で曇ったんだけど?
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