第43話 強敵
前回のあらすじ!
第9階層で現れたのは悪魔たちだった。今までで最も危険な状況にヒビキは切り札を使う事を決める。それは
*******
「へ~ん……しん!」
やってられるか。最初にこの護符をつかって身体強化フィジカルブーストの魔法をかけた時、ジジイの魔力があまりにも強大すぎて翌日動けなくなったのである。二度と使うつもりはなかったのに。だいたい、大魔術師ゴダドール=ニックハルトが魔法を使える状態でパーティーにいるのに苦戦するとか、何の冗談だよ。
全身の筋肉に魔力が流れるのが分かる。それとともにかなりの負荷がかかっていく。だが、今の状態であれば耐えられる。これが効果が切れた時のことを考えるとため息しかでないけど。
ベヒモスの大剣が薙ぎ払われた。さすがにこれだけ大きな武器になるとかわすのが難しい。……と、普通は思うのだろうが
一瞬にして1体のベヒモスの頭部付近まで跳躍する。オリハルコンハンマーを振りかぶって、兜にたたきつけた。ベコォ!と音がして兜が鎧に埋め込まれる。もちろん兜の中身も一緒にだ。あっという間に1体を倒された他の2体のベヒモスは、それでもこちらへと向かってくる。そこで異変に気付いた。
「オリハルコンの杖が!」
「ハンマーじゃろう……」
「杖が!」
見るとオリハルコンの杖が若干曲がっていたのだ。先ほどのベヒモスを倒した時に変な感触があったからな。しかし他のベヒモスは待ってくれない。大剣が襲ってくる。避けきれずに、オリハルコンの杖で受けた。ミシリ……と嫌な感触があったが、何とか大剣を受けることに成功する。そのまま大剣を受け流し、隙ができた胴体に杖の先端を叩き込んだ。
鉄の鎧が砕ける。両膝をついたベヒモスの頭を、横から兜ごと吹き飛ばした。オリハルコンの杖は先端部がもうひどい方向に向いてしまっている。
「あと1体」
さすがにもう1体は不用意に攻撃をしかけてくる事はなかった。ジリジリと間合いを詰めながらこちらの出方を窺っている。すでにオリハルコンの杖が武器としても防具としても頼りないものとなっている。予備の武器といっても短剣を持っているくらいで、ベヒモスに効きそうなものではない。
ベヒモスが大剣を振りかざす。間合いに入った瞬間に振り下ろすつもりなのだろう。正面から大剣をオリハルコンの杖で迎え撃つのは得策ではない。なんとか避ける必要がある。瞬間的に懐に入ろうかと右足を踏ん張った。だが、そこでブチンッという音とともに右足に踏ん張りが効かなくなる。
「ヒビキさんっ!!」
後方からコスタの唱えた
「
そこに、ティナが俺の脚に回復魔法をかけた。あっという間に断裂したアキレス腱が治っていく。だが、すぐに足の踏ん張りが効くようになるわけではない。時間さえ稼ぐことができれば……。
その時、ベヒモスが急にのけぞった。力が抜けた大剣を払い立ち上がると兜の隙間に短剣をねじ込んでいるミルトが見える。コスタの風の魔法で飛んだようだ。短剣はそのままに離脱する。捕まえようとしたベヒモスの手は空を切った。
「助かった!」
まがったオリハルコンの杖を持ち直すし、ベヒモスの脚を思いっきり殴った。右の膝を砕かれたベヒモスが倒れ込む。右腕の筋肉が悲鳴を上げてちぎれていくのを感じながら、最後の力で頭部を破壊する。他のメンバーがベヒモスに効果的な攻撃を入れられない状況で、最後までよく体が持ってくれたものだ。完全に動かなくなるベヒモス。3体を相手に、最後はかなり危なかった。そしてこの体はほとんど使いものにならないのだろう。断裂したアキレス腱も無理をすればまた断裂するに違いない。しかし、まだ終わっていなかった。
「最後の役目だ、行って来い」
曲がったオリハルコンの杖を大きく振りかぶる。アンダースローの恰好で、いまだにジジイとエオラと対峙していたバフォメット目がけて投げつけた。回転しながら飛んでいくオリハルコンの杖を見て、バフォメットが物理障壁の魔法を展開する。オリハルコンの杖はそれで完全に防がれてしまい、地面に落ちた。だが、一瞬であるがジジイに対しての攻防に隙ができた。
「よそ見しとる場合じゃないのう……
バフォメットの足下に禍々しい魔方陣が現れた。地面が奈落へと変わっていき、そこから巨大な腕が出てきた。黒々しく、どう見ても人間のものではない巨大な腕がバフォメットを掴む。そして奈落へと引きずりこんでいくのだった。
「なんて、魔法だ……」
コスタの呟き以外に言葉を発する者はいない。徐々に沈んでいくバフォメットと巨大な腕。ようやく、休むことができる。全身の筋肉がズタズタで、起き上がるのもきつい。
だが、これで終わりではなかった。
「
首以外が奈落へと引きずり込まれたバフォメットが最後の力をもって、魔法を唱えた。満身創痍の俺を目掛けて。
「ヒビキさんっ!」
とっさにミルトが俺を庇う。しかし、二人もろとも
「ジジイ! あとは頼んだ!」
「ヒビキ! ミルト!」
魔法が発動する前に伝えられたのはそれだけである。
気がついたら、俺とミルトは見知らぬ部屋の中にいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます