第42話 悪魔
前回のあらすじ!
遂に第8階層のブラックドラゴンが全て掃討された。一向は第9階層へと進む。
だが、そこについたライオスは急に警戒を強めて言った。
「のう、ここには誰か魔力の強い者が眠っておるようだの?」
*******
「特徴的な魔素が漂っておる。これは奴らじゃ」
ジジイが珍しく真面目な顔をしている。奴らとは誰だ? と思っていると、エオラもまた真面目な顔になっていた。周囲の人間は理解が追いついてきていない。
「
歴史上に現れたことはほとんどないという。だが、ジジイは過去の文献からそういった類の悪魔がいるという事を知っていた。その悪魔の狙いは魔力の強い魔法使いの死体なのだという。
「まさかお前さん、ずっとやつらと戦っておったんか? やつらの背後には魔王がおるぞ?」
「あなたには関係ない。それに心配はいらない」
今まででもっとも冷たい表情をしてエオラが言った。同時に今まで纏っていた魔力の質が変わる。それは魔法使いのものではなく、オルガやオベールをゆうに超えるほどの神聖魔力であった。エオラは、神聖魔法も使えたのか。しかし、魔王とはまた物騒な。
「なるほどのう、神聖魔法で入り口に結界を張ったのか。じゃから奴らは奥から攻めようとしたんじゃな」
全てを見透かしたかのようなジジイ。そして、それを言われても表情を崩さないエオラ。ちょっと、周りの人間が付いて来てないんですけど、誰か解説して?
「この先に死体はないんじゃな?」
「軽々しく死体だなんて言葉を使わないで。ないわ」
「ふむ、お前さんにとって大切な人というわけじゃな。もしかして反乱王か?」
ピクリとエオラの顔が一瞬だけ曇った。それを見てジジイは全てを悟ったようである。しかし、その反乱王という人物を俺は良く知らない。だが、他のメンバーはその人物に心当たりがあるようだった。おそらくは歴史上の有名人なのだろう。
「反乱王であれば、魔王を降臨させるに十分な媒介となるやもしれんのう。魔王は無理でもかなり上位のものが現世に出てくることができるはずじゃ。奴らは本気でそれを狙っとるのじゃろう。第9階層にこれほどの魔素が漂っとるところを見ると、すぐにでも上の階層に攻めてきそうじゃ。どうするかのう」
ジジイは周囲の魔素を感じ取っているようだった。
「奴らがどの程度の戦力なのかを把握しときたいところじゃが、一旦戻るとするかのう。このまま何の準備もないままに上位の悪魔と出会ってしまうと……」
ジジイが俺の方を見て言う。なんだ? なんか言いたいことがあるのか?
「このメンバー、とくにヒビキが魔法使いの恰好をしとる状況ではちときついかもしれ…………まずいのう」
話し込んでいるうちに何者かの足音が聞こえてきた。それの大きさからすると第8階層にいたブラックドラゴンと同じほどの大きさの魔物なのかもしれない。地響きが伝わる。
「見つかってしもうた。まあ、魔素が漂っておる時点で仕方なかろう」
メンバー全員が臨戦態勢に入る。ヨハンは来た道を一目散に戻り始めた。途中の岩影に隠れるようである。ついでにミルトとティナも後退させて、コスタに守ってもらうように指示した。オリハルコンの杖を構える。
「肉弾戦はやめておけぇ」
ジジイがさらに補助魔法を重ね掛けする。
「あら、魔法はもっと効果がないわよ」
エオラが神聖魔力を高めた。彼女はその悪魔の事をよく知っているようだ。何の迷いもなく、地響きがする方角を見ている。
「おい、大丈夫なんだろうな。ジジイ!」
「ふむ、どの程度の悪魔かは分からぬが、上位になるとワシよりも魔力が強いからのう」
「は!? ジジイよりも強いとか、どんだけだよ!?」
「それに魔法に対する耐性がかなり強い。正直、魔法使いの天敵と言っても良い相手ぞな」
「おい!」
現れたのは鉄の鎧を着た巨人と言ってもよい悪魔が3体と、山羊の頭に蝙蝠の翼をした人型の悪魔だった。
「ふむ、図体がデカいのがベヒモス、山羊頭がバフォメットかの。なかなかのものではないか」
「どうやってこんな迷宮の奥に!?」
「それは分からぬが、もしやワシらがここに潜る理由と関係があるやもしれぬのう……そう言えば肉弾戦はやめておけとは言うたが、ベヒモスは魔法がほぼ通じんから任せたぞい」
さりげにジジイが付け焼刃の剣をクルリと回しながら言った。……待て、あのデカいのを3体もか?
「さすがはヒビキ様」
エオラまで裏切るか……。だが、そのベヒモスとやらはごつい鎧に大きな両手剣を持っている。それが3体。大きさはオーガよりも一回りもデカい。いやいや、待て待て。俺一人で?
「じゃって、魔法効かんし……」
「嘘つけ! その顔は何か手があるけどメンドクサイって顔だ!」
「じゃって、メンドクサイし……」
「開き直るなぁぁ!!」
***
巨大な大剣が迫ってくる。そのあたりを闊歩するオーガなどの攻撃とはまるで違い、剣術を彷彿とさせる太刀筋だ。さすがに盾もフルプレートもないこの状況であれに当たると死ねる。
「なんなんだよ! もう!」
視界の端ではジジイとエオラがバフォメットと呼ばれる山羊頭の悪魔と遠距離から魔法を撃ちあっていた。特にエオラはいつも使う魔法ではなく神聖魔法を多用している。
「ええい、当たらなければっ!」
紙一重で大剣を避ける。地面に突き刺さるそれの威力によって振動が伝わり、足場が不安定になるのを感じながら、がら空きの胴体にオリハルコンハンマーを叩きつけた。ベヒモスの巨体が少しだけ浮き、鉄製の鎧が大きくへこむ。だが、隣のベヒモスがその隙を逃すわけもなく、すかさず回避行動へと移らなければ命はなかっただろう。少しも気が抜けない。
ゴダドールの地下迷宮にいた巨人族とは全く違い、無駄がなく連携を取ってくる。さらに……。
「
「魔法までっ!? 自分たちには効かないくせにかっ!?」
他のベヒモスの唱えた
「野郎……」
フルプレートと盾さえあれば、ある程度の無茶をすることができた。だが、今の装備はローブに鎖帷子である。一撃くらうだけでにあの世に直行することになるだろう。視界の端ではジジイとエオラが苦戦しているようだった。それだけあのバフォメットという名前の悪魔は上位の存在なのだろう。であるならば、援軍は期待できない。
「やるしかないか」
これをすると、次の日に響くからやりたくなかった。だが、この状況を打破するには俺が3体のベヒモスを狩って、ジジイたちに合流するのが最善だろう。
「ジジイ! 使うぞ!」
「むっ、そうか!」
「何!? ヒビキ様は何をされるの!?」
エオラの魔法障壁がバフォメットの魔法で崩されそうになっているのをジジイが阻止している場面だったようだ。お互いに余裕がない。リスクは覚悟の上である。
懐から、ジジイ特性の護符を取り出す。ジジイが暇だった時に魔力を込めて作り上げた身体能力上昇の護符だ。発動には魔力が必要であるとのことで、今まで使ってなかったが魔法を少し使えるようになった俺は発動させる事ができるようになっている。本番で使うのは今回が初めてであるが、ゴダドールの間で使った時は次の日、筋肉痛で動けなかったほどに負荷がかかったようだった。正直、こんな場面でなければ使いたくない代物である。
「発動、
本当の、きちんとした方のフィジカルの魔法である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます