第31話 魔物の卵

 前回のあらすじ!


 ドワーフたちを地上へ護衛してきた一向。ギルドマスターのツアとドワーフの長であるギルはがっちりと握手を交わし、今後の交流を図ることとなった。

 そんな時にツアから一人の魔法使いの育成を頼まれる。しかし、それは大いなる罠であった!




 *******




 ギルドの中ではそれまで第4階層が最高到達であったのをあっと言う間に塗り替え、第6階層のドワーフ達との友好を樹立させたヨハン=シュトラウツのパーティーは明らかに別格として扱われていた。ギルドマスターのツアがもともとパーティーを組んでいたというだけではなく実績が評価され始めたというのもある。そして、そのメンバーのほとんどはこのギルドで募集した人物だった。そのパーティーにまたしても一人の魔法使いが加入したらしい。ただ、他のパーティーからの「明らかに女性メンバーは顔で選んでいる」という意見を中心とした嫉妬が渦巻いている。



「いや、おかしいでしょ。探索者じゃないわよね! 自分の家だものね!」

「うるさいですねえ。私とヒビキ様の間を邪魔するならば消し炭にしますよ」

「いや、それは絶対だめだ」

「ヒビキ様がそうおっしゃるなら……」

「あぁ! 鬱陶しい! だいたいあんな回りくどいやり方しなくてもいいじゃない!」


 そして実力的に第4階層以下に潜れるパーティーがほとんどいないのも事実だった。最高到達したパーティーのメンバーは2人ほど帰ってこなかったし、その次と評価されていたパーティーは色々あって分裂し、残った3人も第3階層で誰かさんの追加料金のために回復役を募集中である。


「ほとんどのパーティーが第2階層で満足して帰ってしまうのが原因じゃろうな」

「そうなんだよね。第2階層からは質のいい鉱石が取れるから。ゴダドールの地下迷宮だったら第7階層くらいまで潜らないと出てこないようなのもたまに出てくるって言うし。あの時は鉱石なんて二の次だったけどさ」


 「ゴダドールの地下迷宮」に潜る冒険者は全てが天変地異の原因究明と排除による莫大な報奨金が目当てだった。だが「辺境の迷宮」にはそんな報酬が出ていない。凄腕の冒険者のほとんどは他の迷宮に散っているのだろう。もしくはいまだにゴダドールの地下迷宮に潜り続けているのかもしれなかった。


「師匠。やはり、この「辺境の迷宮」にも最深部到達による報奨金が出るのでしょうか」

「そう言えば、ギルドマスターがなんとか王国に掛け合ってみるって言ってましたよ」



 というわけで俺たちのパーティー以外はまだ第6階層には来ていないが、ギルドの職員数名を護衛しながらドワーフの集落まで来たのだった。ギルドの職員はここで数日すごしてから地上へ戻るつもりらしい。その間に俺たちは第6階層を探索しようと思う。


「ここから先はどんな感じなんだ?」

「ん? 宴の時も言ったと思ったが?」

「悪い、ほとんど記憶にねえわ」


 村長であるギルが理解できんという顔をしているが、あれだけ飲まされたら記憶が飛ぶだろう。


「では、もう一度説明しよう。ここから先はこの辺りと同じような岩肌がそのまま露出しているところが続く。広さはこの村の5倍と言った所か。中には植物が生えている場所や泉が沸いている所があるな。それで左側に進んでいくと下へ降りる通路がある」

「他の階層に比べると意外と狭いんだな。まあ村の中には畑もあるし、こんなもんか」

「ワシらには基準が分からん。そして下に降りるとレンガ造りの通路と部屋が入り混じった迷宮になっている。ところどころに大きな部屋があり、壁がなく土が露出しているところを掘ると鉱石なんかが取れる。ワシらはその鉱石を使って生活用品などを作っておる」


 つまりは第6階層と第7階層だけで自給自足できる状態というわけだ。第8階層や第9階層まで潜るのはよっぽどの用事があった時だけらしい。第6階層に生えている植物には穀物なんかもあってそれを村に植え替えて農耕までしている。まだ第6階層にはエオラが作った光源がところどころにある。しかし第7階層より下には全くないとの事だった。


「だって、行かないんですもん。第6階層も開発するつもりだったんですけど……」


 要はめんどくさくなってやめたらしい。その後エオラは第5階層の自分の家に籠って研究ばかり続けていたのだとか。誰にも会わなかったのは寂しくなかったのだろうかと思ったが、たまに転移テレポートで他の主に酒場に出かけていたようである。だからゴダドール=ニックハルトの名前を知っていたのか。



「とりあえず、第6階層の地図を作りに行こうよ」

「よし、ならば村の者を数名護衛と案内につけよう」


 ヨハンの提案に対してギルがドワーフ数名を紹介してくれる。彼らにとっては庭のようなものであるが魔物がでるためにいつもは数名ずつで行動しているのだとか。そしてその魔物はできたら狩猟し、貴重な蛋白源として重宝されているらしい。


「何の魔物が出るんだ?」

「一番多いのはガダゴとよばれる飛べない鳥の魔物だな。足がものすごく早い。仕留めるのは大変だぞ」


 鳥の魔物か。であるならば、あれがあるかもしれない。


「巣はあるのか?」

「一応はどこかにある。卵が取れることなどほとんどないがな」


 やはり、卵があるのか。地図を作る過程で見つけることができそうだ。もし手に入ったなら様々な料理に使うことができる。ヨハンがいるからたいていの物は作れるし、近くに集落があるから準備も問題なかった。


「よし、さっそく第6階層の地図作成にとりかかろう。今日はこの集落に帰ってくることとして、目標は明日までに地図を作成することと、できればガダゴの狩猟、卵の採取といってところか」

「ヨハンよ。卵で何を作るんじゃ?」

「へへへ、それはね……」




 ***




 あれだけ強引にパーティーのメンバーになったエオラだったが、地図作成がかなり地味な作業であったこともあり、退屈して家に帰ってしまった。


「マジかよ……」

「お前さん、年齢抜きであれはやめといた方がええぞ。ワシですらそう思う」


 ジジイが言うけどすでにこの数日エオラに振り回され過ぎていて正直お腹いっぱいである。


「だから言ったでしょ! あんな奴を仲間にするなんて!」


 ティナが起こっているフリをしながら顔が笑っている。いなくなったのがよほど嬉しいみたいだ。


 しかし今後も気が向いた時だけパーティーに加わってくるつもりだろうか。迷宮のぬしだからこそ可能なんだろうけど、正直めんどくさくなってきた。当初の計画通りに王様とくっついてもらうというのがいいのではないだろうかと思ってしまう。


「ヒビキ、エオラヒテがいない今のうちに話合えることを話合っておこう。ライオス、盗聴の危険はあっても大きな声で話さなかったら大丈夫なんだよね?」

「そうじゃ。その辺りの壁とかに使い魔がおるだけじゃからの。固まって小声で話せば大丈夫じゃ」

「ミルト! 僕の横に来……なんで逃げるんだ!?」


 地面に円陣を組むパーティーメンバー。傍からみると変な集団である。ドワーフの護衛たちが、「地上のモンは変な奴が多いで」とか言ってるけど無視だ。


「とりあえず、当面はエオラヒテの機嫌を悪くしないままで行こうよ。ヒビキは頑張って」

「頑張るって、何をだよ」

「嫌われないようにだけお願いね。それでこのまま今回はしっかりと第6階層と第7階層の地図を作るよ。そしたらエオラヒテも飽きるだろうしね」

「うむ。異議なしじゃ」


 ジジイが賛同すると他のメンバーもうなずいた。ちょっと、俺は結局何をするんだ?


「じゃ、当面は地味だけどそれで行こうね。あと、今日はできたら魔物と卵を手に入れた……」


 と言っている最中にガサゴソと大きなダチョウのような魔物が茂みから出てきて俺たちとばったり出くわした。


「いたぁっ!!」


 珍しくヨハンが叫ぶ。


「ライオス! ヒビキ! 絶対に逃がさないでねっ! それに卵が近くにあるはずだから皆で探すよ!」


 俺とジジイに魔物の討伐を指示して、自分はコスタの後ろに隠れる。いや、ヨハンにしては頑張ったほうだぞ? 指示出してるもの。


 ガダゴはジジイが魔法で凍らしてしまうとすぐに片がついた。そして……。


「あったよ!」


 ヨハンが率先して探し出したのはガダゴの卵だった。ダチョウの卵くらいの大きさである。

「さあ、これでアレが作れるね! 地上から砂糖と牛乳を運んできた甲斐があったよ」



 アレとは俺が教えた、あのスイーツである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る