第22話 薄暗い酒場
殺気の込められたモーニングスターをなんとかかわしたライオス。だが、オルガは近接戦闘だけではなく
しかし、そんなオルガ=ダグハットは決め手に欠ける攻撃しかしてこなかった。彼に焦りと狼狽を感じさせた原因とは……。
辺境の迷宮の第1階層に響き渡る絶叫。その内容にヒビキたち一向はどっと疲れを感じたのだった。
*******
「すまんな、冒険者ギルドはそこまで権力のある組織じゃない。王都神殿からの圧力にはどうする事もできん」
「いやいや、こっちは騎士団長様だぞ?」
「あ、ごめん……ハンコ持ってくるの忘れちゃった」
「…………」
オルガ=ダグハットの襲撃を除け、彼の取り巻きがオルガを連れて脱出するまで何故か追う気分にはならなかったのだが、地上に帰って冒険者ギルドがなんとかしてくれるという考えが甘かった。そもそも私情に首を突っ込む組織ではなく、あくまでも迷宮に潜る冒険者の補助が主体なのである。いくら王様がヨハンの全面的サポートをしていたとしても被害者からの証言のみでは動けず、罰する権利も持ち合わせていなかった。
「よし、こうなったら最低な噂を流せ。とりあえずは奴の取り巻きに男しかいないのはそういう趣味だからだとか何だとか」
「完全に嫌がらせじゃのう」
女性陣がジト目で見てくるために「最低な噂大作戦」は決行されることはなかったが、今後探索中に妨害されるのは避けたい。
「どうすりゃいいんだ…………」
エオラヒテ=アクツといい、オルガ=タグハットといい、今回の迷宮攻略は余計な妨害が多い気がする。ゴダドールの地下迷宮は純粋な迷宮突破力があれば良かったが、少し勝手が違うというのを実感している。
「正当防衛じゃ。次に来たときは返り討ちにしてくれるわい」
「正直、それが唯一の方法かな。ツアも神殿勢力には太刀打ちできないって言ってたしね。オベールには連絡を取ってくれるみたいだけど」
以前の仲間であるオベール=ヨークウッドが神殿の中でもかなり高い位置に出世したのが幸運だった。だが、オルガはオベールの政敵という立場になるのかもしれない。ヘタな事をして事態を悪化させないようにと思うと、すぐにどうにかできるとは思えなかった。
「師匠ならば、返り討ちが可能でしょう」
コスタやティナはかなり憤慨している。特にティナはオルガの事を知っていて少し憧れもあったようで、あんな行動をするとは思っていなかったようだ。軽く落ち込んでいる。
「とりあえずは町にいるときにも警戒しないといけないな。どこにオルガたちが潜んでいるか分からん」
すでに俺たちよりも先に迷宮から帰ってきているとの情報だった。であるならば町のどこかに隠れているのだろう。そしてまた明日にでも俺たちが迷宮に入ったのを確認して追ってくるのだろうか。
「少なくとも、宿の部屋にいるとき以外は俺かライオスと共に行動するようにしよう」
さすがに町中でも襲撃はないと考えたい。
***
宿に帰って早めの夕食を全員でとった。正直酒が飲みたい気分である。
「俺、ちょっと飲んできていいか?」
「好きにせい」
他のメンバーをジジイに任せて宿を出ることにした。ジジイが偽装まで施した
「師匠! 僕も行きます!」
コスタが付いて来るという。ミルトの事以外ではかなり優秀でいいやつだと思う。
「なんだけど……」
案の定、酒場に来てすぐにコスタは潰れて寝てしまった。意外と酒に弱いんだよ。
「うー、むにゃむにゃ……みるとぉ」
カウンターに突っ伏しているコスタを放置して俺はエールを追加で注文する。結局一人で飲むことになったか。
問題が山積みである。早い所迷宮を攻略してやらないとヨハンの立場が悪くなるのではないだろうか。
「はぁ……」
ため息が出てしまった。
「はぁ……」
すると、隣に座っていた冒険者風の女性も同じようにため息をついた。お互いに魔術師のローブに身を包み、フードを被っているから暗い酒場だと顔がよく見えない。つい、目が合う。
「お互いに悩み事があるようですね」
まさか声をかけられるとは思っていなかった。だが、悪い気はしない。酒の影響もあったのだろう。
「ええ、分かりますか」
声がどこかで聞いたような声だった。口元が見えているが美人っぽい。酒が入っている事もあって興味が沸いた。たまにはこんなのも悪くない。しかし、すでに結構飲んでいるようだ。
「初めて出会った方に振られてしまいましてね」
薄暗い店内でこちらを見て女性が言う。
「貴方を振るなんて、ひどい男がいたものですね」
「仕方ありません、越えられない壁というものがあるのです」
そういうと女性は涙を流した。身分が違う相手に恋をしたのだろうか。
「その方は私を美しいと言ってくれました。そんな事を言われたのは初めてでした。私は一瞬であの方の虜になったのです。しかし、私たちには越えられない壁がありました」
何やら複雑な事情があるようだ。
「真実の愛に年齢は関係ないと思います。ですが、あの方の子を産むことができない体である私に、あの方を愛する資格などなかったのでしょう」
そうい言うと女性は酒に口をつける。かなり酔っているようだった。
「子を産むことだけが資格というわけではないでしょう。本当に好きであったなら、それは確かに不幸ではありますが越えられない壁ではないと、少なくとも自分はそう思いますよ。相手はどう考えているか、聞きましたか?」
「いえ、突然の事に私が怒ってしまってですね、ちょっと
後半はよく聞き取れなかったけど、喧嘩になって先走ってるだけみたいだ。そう言えば、会社ではよく後輩の恋愛相談とかされたっけ。
「それは、まず仲直りから始めないといけませんね」
「……そうですね……そうですね!」
痴話喧嘩で落ち込んでいただけみたいだった。どうせ答えはすでに自分の中にあったんだろう。こちらもちょっとした気分転換としては良かった。そうだな、俺も答えはすでに出ている。迷宮の主だろうが、見境をなくした神官であろうが、正面から突破するだけだ。
「話を聞いていただいて、私の中で何か答えが出そうです」
「それは良かった。お力になれて光栄ですよ」
「今度あの方が来られた時にお聞きしたいと思います。あなたのように年齢は関係ないと思っているかもしれませんし、あの時は急な事でちょっとビックリされたのでしょうから」
こんな若い女性と年齢の差があるという事は相手はかなりの高齢なのかもしれない。ジジイになってもこうやって好いてくれる女性がいるなどと、うらやまけしからん。
「ああ。明日ヒビキ様が来てくれたら嬉しいのに」
え?
「ヒビキ様もあなたのように年齢や子供の事を越えられない壁ではないと言ってくれたら嬉しい」
待て待て、ちょっと待て。よく見るとどこかで見た顔をしているような……。
「失礼、名前も名乗っていませんでしたね。私の名前はエオラヒテ=アクツと言います」
「エ……エオラ……」
「まあ、そんな愛称で呼ばれたのは久しぶりですね。ヒビキ様、エオラって呼んでくれないかなぁ」
いや、違う……そんなつもりじゃ……。
この後、真っ青になった俺の顔を覗きこんだエオラヒテ=アクツ……いや、エオラは顔を真っ赤にして
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