第7話 魔物が現れた

「神界にいればお腹が空くこともないわよ。そもそも不老不死だからね」


 違った。

 今の状況が特殊なのか。


「もしかして、人間界に降臨した今の状態だと、怪我したり、その、死んだりするのか?」


「そう、そうね。そうなるかしら」


 どこか困ったような曖昧な微笑みを浮かべた。

 彼女の表情に俺は言葉を詰まらせる。


「……ユリアーナ」


「自己犠牲とかじゃないから。その、誰かがやらないとならないでしょ?」


 慌てたユリアーナが不意に視線を逸らした。


「……元気出せよ。俺も頑張るからさ」


「ありがとう」


 世界を守るために頑張る少女。

 眼前の健気な少女の味方が自分だけだと思うと、胸が締め付けられるような気がした。


「その、なんだ……俺がここにいる状況には納得できないところもあるけど、ユリアーナがそんな危険を冒してまで頑張ってるんだ。男の俺がいつまでもクダクダ言っていられないかならな」

「たっくんのそういうところ、大好きよ」


 不意討ちの笑みに心臓が大きく波打つ。


「お、おう」


 ゆっくりと歩きだした彼女の背中を視線で追う。


「それじゃ、そろそろ身体強化の練習をしましょうか」


 そう言って不意に振り返った。


「錬金工房が十分に戦力になることは分かったけど、魔物が脅威であることは変わりないわ。自分の身を守るうえでも身体強化は重要よ」


 ユリアーナが真剣な眼差しを俺に向けた。


「手を抜くつもりはないから安心してくれ」


 当面は二人の能力を活かして戦う。


 本格的に武器や防具、アイテムが作成できるようになったら、それぞれの弱点を補うアイテムを作成する。

 隙が少なくなれば生存確率は上がるはずだ。


 そんなことを考えた瞬間、俺の中で何かが閃いた。


「さっき、飛行能力があるとか言ってたろ? なら、俺を抱えて飛べば魔物に遭遇しなくてすむんじゃないのか?」


「空を飛ぶ魔物だっているわよ」


「そう、か……」


「それにたっくんを抱えて飛ぶなんて無理よ。今のあたしが持っているのは低レベルの飛行能力だもの」


「でも、上空から街を探すくらいはできるんじゃないのか?」


 大まかな方向が分かるだけでも、無闇に森の中を歩き回るより安全で確実だ。


「エッチ」


「何を言っているんだ?」


 予想外の反応に思考が鈍る。


「あたしを宙に浮かせて、下から覗くつもりなんでしょ」


 恥ずかしそうに頬を染めるユリアーナに俺の心臓が再び大きく跳ねた。


「しないって! そんなことする訳ないだろ!」


「ふーん。怪しい……」


 ほんのりと頬を染めた彼女が上目遣いで見つめる。


 疑惑の眼差しだと分かっていても、心臓がまるで早鐘を打つように高鳴る。


「違うから。やましいことは考えてないからな。俺は純粋にお互いの弱点を補えあればと考えただけだから」


 自分でもしどろもどろになっているのが分かる。


「そう言うことにしておいてあげる」


「そう言うこと、ってなんだよ――」


 なおも抗弁しようとする俺の言葉を遮る。


「この話はここまでよ。少し離れているけど雑魚が集まってきたわ」


「魔物か?」


 ユリアーナが神妙な顔でうなずいた。

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