第44話 騎士団第二部隊
「いやー、よく来てくれた。カンナギ君、だったかな?」
上機嫌出迎えてくれたのは対オーガ防衛ライン構築の指揮を執っていた第二部隊のコンラート隊長。
「ご用件というのはオーガ討伐の調書作成のための聞き取りかなにかでしょうか?」
二時間ほど前にコンラート隊長と会話をした際に見せた、彼の悪そうな笑顔を思いだしながら、素知らぬ顔で訊いた。
「そこまで煩わせるつもりはない。調書の方は我々で作成したものがある。確認のために目を通してもらえれば十分だ」
実際にオーガを討伐した俺から一言の話も聞いていないのに調書が出来上がっているのかよ。
これがこの世界の騎士団の標準とは思いたくないな。
「それは助かります。では早速、調書を読ませて頂きます」
「いや、急ぐ必要はない。調書は後ほど持ってこさせる。その前に少し話をしたい」
「お話ですか?」
「第一部隊のパウルから無理難題を言われているらしいじゃないか?」
本題がそちらだと言うことは予想できたが、何の前置きもなしにいきなり核心に触れた来たな。
「無理難題というほどこのことではありません。私が討伐した盗賊のアジトに案内するよう言われているだけです」
「アジトに残してきた盗品の引き渡しを要求されているのだろ?」
俺は少し困ったような表情を浮かべて恐縮する。
「私の国では討伐した盗賊が所持いていた盗品は討伐した者に所有権が移ります。てっきりこちらの国でもそうだと思い込んでいました。ご迷惑をお掛けし申し訳ございませんでした」
パウル騎士団長に騙されている世間知らずの青年を演じる。
「盗賊から奪った盗品は君のものだ。アジトに残してきた盗品は後日運びだせばいい。もちろん、その間に誰かが発見して運び出した場合は運び出した者が所有者となる」
知っている。
知っているが、不正がまかり通るような騎士団相手に正論を言っても取り合ってはもらえないだろ。
それどころか、機嫌を損ねたら
「え? どういうことでしょうか?」
「パウルは君が法律に疎いことを悪用し、本来君が手にすべき盗賊の所持品を不当に奪おうとしている」
「たとえ一度に運びだせなくても、盗賊を討伐した者に所有権が移るのはこちらの国でもそうだったんですね」
外国人なので法律に疎い振りをした。
「要はパウルのヤツが君の資産を横取りしようとしているわけだ」
「そんな! 騎士団の隊長さんがですか!」
心底驚いたふりをする俺にコンラート隊長が同情した表情で言う。
「パウルはこちらに赴任してくる前から良からぬ噂があってな。私としてはヤツのシッポを掴んで悪事を白日の下に曝したいと考えている」
内部で処理して第一部隊の隊長を更迭するのかと思ったが違うようだ。
「同じ騎士団として恥になるのではありませんか?」
「
第三、第四部隊には一歩リードしているから、ここで競争相手の第一部隊の汚職を暴くことで第一部隊を蹴落とし、騎士団内部での優位性を不動のものにしようという魂胆か。
パウル隊長と同類の薄汚い大人であることは間違いないが、コンラート隊長の方が少しだけずる賢いようだ。
「具体的に私は何をしたらいいでしょう? それと、私の得るメリットを教えて頂けますか?」
「さすが商人! 話が早くていい」
こちらが利害で動く人間と判断しようだ。我が意を得たりとばかりにコンラート隊長が身を乗りだした。
「明日、パウルを案内して盗賊団のアジト跡に向かうな?」
「ええ」
盗賊のアジト跡には異空間収納に収まりきらなかった盗品が残っていることになっている。それをパウルに引き渡すためにアジトへ案内することになっていた。
「そこで、だ。一つ私の策に乗ってみないか?」
「策です、か? 商人なので騎士様のような難しいことは分かりませんが……」
形だけ難色を示す。
「何、難しいことはない。私の言う通りに動いてくれれば、君は盗賊を討伐して手にすべき資産を守れ、我々は騎士団内部の
おいおい。
盗賊の盗品はもともと俺に所有権がある、と言ったばかりじゃなかったか?
「分かりました。では、コンラート隊長のご指示通りに動きましょう」
「決まりだ」
コンラート隊長が提案した作戦内容は単純明快なものだった。
盗賊のアジトから持ち帰った盗品を自宅に持ち帰ったところに、第二部隊が踏み込んでパウル隊長以下、かかわった騎士団員たちを捕縛するというモノだ。
盗品はもともと保管されていた倉庫の扉を開ける瞬間にでも錬金工房から倉庫へ移せばいいので特に問題はない。
自分の手を汚さずに解決できるならそれに越したことはないだろう。
「作戦通りに事が運ぶと第一部隊はどうなりますか?」
「第一部隊を我々の部隊が糾合し、新たに第一部隊と第二部隊を編成し直すことになるだろう。まあ、第一部隊は事実上解体だな」
コンラート隊長が得意げに語った。
第一部隊と第二部隊が互いに噛み合って自滅するのが理想なのだが、ここは第一部隊を解体できるだけでも良しとしよう。
「驚きました。隊長は策士ですね」
「いやなに、これくらいは大したことはない」
そう言って上機嫌で笑いだした。
何ともこずるい大人が多いことだ。
異世界も世知辛いよなー。
とはいえ、日本で詐欺事件などの知能犯のニュースを幾つも見ていたせいか、騎士団の隊長二人が小悪党にしか見えない。
この状況を何とか利用できないモノだろうか?
俺はそんなことを考えながら、俺はコンラート隊長と握手を交わし、ユリアーナたちと合流するため孤児院へと向かうことにした。
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