第43話 魔術師ギルド(3)

 俺は彼女から受け取った買い取り明細に視線を走らせた。

 アンデッド・オーガの素材一式で金貨三十五枚かよ。


 日本円にして三千五百万円ほどだ。

 受ける被害や損害、討伐に参加する人数を考えると妥当な額なのかもしれないが、ついこの間まで日本の高校生だった俺からすればちょっと想像し難い金額だ。


「参考までにお伺いしたいのですが、通常のオーガだとどれくらいになりますか? 大体の金額で構いませんので教えてください」


 常識なのだろう、三人が不思議そうな顔をした。

 俺は『この国の相場をまだ理解していませんので』と付け加える。


 すると、ギルド長と入室してきた女性の視線が交錯した。

 答えたのはギルド長。


「金貨二枚から三枚といったところです」


 十倍以上か。

 アンデッド・オーガも普通のオーガも戦闘力的には大して差はなかったから、希少価値ということなのだろう。


「献上品の鑑定をお願いしてもよろしいですか? 魔術師ギルドの鑑定証明証を発行頂ければ心強いです」


 たったいま女性から受け取った代金から、金貨五枚を最初に渡した長剣の横に積み上げる。

 ギルド長と二人の女性が息を飲んだ。


「こちらは鑑定証明証の発行手数料と急いで頂くことへの私の気持ちです」


 鑑定証明証の発行費用は、代物によって多少の差はあるが、銀貨十枚――日本円にして十万円程度だ。

 押し黙るギルド長に向けて言う。


「商品はまた仕入れればいい。金はまた稼げばいい。ですが、時間だけは取り戻すことができません」


 さっきも言っただろう。

 時間は何よりも貴重なんだよ。

 特に今はな。


「分かりました、すぐに代官の屋敷まで人を走らせます」


 そう言って代金を持ってきた女性を見ると、


「畏まりました」


 彼女はそう言って即座に退室した。


「無理をお願いして申し訳ございません。このご恩は近いうちに返させて頂きます」


 俺はギルド長と握手を交わし、魔術師ギルドを後にした。


 ◇


 続いて、第二部隊のコンラート隊長に会うために騎士団第二部隊の詰所を訪れた。

 さて、第一部隊と第二部隊、この二つのがんをどうやって排除するかな。


 先ずは敵情視察と行こうか。

 出迎えたのは十二、三歳ほどの少年騎士。


「ご丁寧にありがとうございます」


 案内の少年騎士に笑顔を向けると、


「コンラート隊長から『アンデッド・オーガとオーガ八体を単独で撃破した英雄に失礼のないように』、と言われています」


 そう言ってキラキラとして瞳で見返された。


 純粋な英雄への憧れなのか? 

 崇拝するような目で俺を見ないでくれ。


 チクリと胸が痛む。

 ごめんよ。


 第一部隊と第二部隊には配置転換してもらう予定なんだ。

 本当、ごめん。


 俺は心の中で少年騎士に詫びながら隊長室へと向かった。

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