第25話 ラタの市場

「ここが市場です」


 ロッテが少し得意げな表情を浮かべた。


「随分と大きいのね」


「凄いな……」


「普段はこの十分の一くらいの規模なんですけど、今日は十日に一度の特別市の日ですからお店もたくさん出ているんです」


 この世界の市場の規模がどの程度のものなのか知らないが、眼の前に広がる光景は俺が想像していた規模を遥かに超えている。

 テレビで見た後進国の市場を想像していた。


 それ程広くもない道の両側に無許可の屋台が雑然と並び、大勢の人が忙しそうに行き来する様子だ。

 だが、俺の眼の前に広がる光景はまったく違う。


 東西へ真っすぐに延びる大通り。

 人込みのせいで道がどこまで続いているのか判然としないが、それでもゆうに二キロメートル以上の直線道路だというのは分かった。

 道幅は馬車四台が並んで通れる程で、大通りの両側に幾つもの屋台が雑然と並ぶ。

 

 活気に溢れる人々に目を奪われた。

 広い通りにもかかわらず大勢の人々が押し合いへし合いしている。


「他の街の市場も同じくらいの規模なのか?」


「行商人さんたちのお話だと、ラタの街の市場は近隣の街に比べて十倍以上の規模だそうです」


 その言葉を裏付けるように、日用品や食料品、衣類、アクセサリー、さらには武器や防具など日常生活で使われるであろう、思いつく限りの品物が売られていた。


「市場が十倍なら人口もそれなりってことだな」


「それだけ大きな街の代官となると、相応の権力を持っているでしょうね」


 十数歩前を歩くロッテに聞こえないよう、小声で会話を始めた。


「衝突せずに逃げるのも手だよな」


「平和的に懐柔って方法もあるわよ」


 賄賂か……。

 盗賊のお宝からなにか適当なものを渡して解決するならそれに越したことはない。


「平和的な解決策を模索しよう」


「それでも無理なら逃亡しましょう」


「いいのか?」


「衝突して犯罪者に仕立て上げられても面倒だし、これだけの規模の街を任される代官が仕事を放りだして小娘一人に執着するとも思えないわ」


 まったくだ。


 ロッテは確かに美少女だが、彼女と同程度の容姿の女性は他にもいる。

 事実、騎士団の詰所からここまで来る間、何人もの目を惹かれる女性とすれ違ったし、いまも俺の隣を美人が歩いている。


「そうなると厄介なのは中年オヤジの方か」


 強欲そうな中年騎士の顔が浮かんだ。


「馬車九台分の盗賊のお宝を、そう簡単に諦めないでしょうね」


「対策は後で考えよう」


 ユリアーナをうながして屋台を覗き込んでいるロッテのもとへ駆け寄った。

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