第17話 初めての魔道具作成

 効果を確認するため、作成した魔道具を携えてアジトの外へと来ていた。


「それじゃ、闇属性の指輪から試しましょうか」


 闇属性の魔石を組み込んだ二つの指輪、『睡眠の指輪』と『麻痺の指輪』を装着すると、虚空を見つめたまま動きを止めた。


「どうした?」


「成功ね」


 口元に笑みを浮かべて二つの指輪を外すユリアーナに聞く。


「今、何かしたのか?」


「魔法を発動させたの」


 発動させた魔法は、睡眠の魔法と麻痺の魔法。

 何もない空間に向けて発動させたので見た目には変化が生じないが、魔力感知ができる彼女は魔法が発動したことを確認できた。


「盗賊が装備していたブレスレットと同様の機能ね」


「そのブレスレットを参考にして作成したんだから当然だろ」


「たっくんが作ったから、永遠に眠り続けたり、死ぬまで麻痺したままだったりと、実用性を無視した方向で高性能なんじゃないかと心配したのよ」


 ユリアーナが『杞憂だったようね』とほほ笑む。

 心配なのは理解できるが、もう少しオブラートに包んだ発言ができないものだろうか。


 釈然とせずにいると、ユリアーナは次の指輪へと手を伸ばした。


「これは『火の指輪』ね」


 これも盗賊が所持していた指輪を参考に作成した。

 この周辺の国々では中層階級の住民たちの間で、標準的に利用されている魔道具だと盗賊たちから説明を受けた。


 ユリアーナの手のひらから数センチメートルのところに、ロウソクの炎くらいの火が浮かび上がった。

 彼女が軽く手を振ると炎は地面に転がしてあった薪にぶつかって消えた。


 続いて、地・水・火・風の属性魔石を組み込んだ剣を試した。

 こちらは盗賊たちもお手本となる魔道具を所持していなかったが、ユリアーナが心配するような結果にはならなかった。


「これで普通の魔道具が作れることが証明されたな」


 俺が作成した魔道具が特に目立つことなく売り物になることが分かった。


「魔石による魔道具作成の方はね。問題はこっちよ」


 そう言って、銀製のブレスレットを手にした。

 そのブレスレットは属性魔石を組み込むのではなく、ゴブリンや盗賊たちから剥奪した魔法スキルを付与した魔道具だった。


『スキルを剥奪する能力はもちろん、剥奪したスキルを付与する能力も知らないわ』、とはユリアーナ。


「俺の錬金工房だからこそ作れる魔道具だ」


 不安がないとは言わない。だが、それを大きく上回る好奇心と期待とで胸が高鳴っていた。

 それは彼女も同様のようだ。


 装着したブレスレットを見つめる瞳が輝き、口元には妖しい笑みが浮かんでいる。


「それじゃ、試してみましょうか」


 ――――結果。


「予想通りだ」


 口では平静を装っているが、内心では今にも歓喜の叫び声を上げそうだ。

 対してユリアーナは驚愕を隠せずにいる。


「予想通りって……、これを予想していたっていうの?」


 錬金工房の主である俺だけが予想できたことなのだろう。

 事実、魔道具を使用するまで、彼女でさえ予想していなかったのがその表情と口調から分かる。


 ブレスレットに付与した魔法スキルは地・水・火・風の四つ。

 属性魔石と違い魔法スキルの付与では、地・水・火・風それぞれの属性で複数の魔法が使用できた。


 だが予想外の部分もあった。

 使用できる魔法は魔道具の使用者の魔法の才能に依存すると考えていたのだが、実際には違った。


 使用できる魔法は元の使用者が使うことができた魔法。

 つまり、より優れた魔術師から魔法スキルを剥奪すれば、魔道具の使用者は労せずに優れた魔法を使えることになる。


 たとえば……。


「この辺りに高位の魔法スキルを持ったドラゴンとかいないかな?」


 スキルを剥奪してアイテムに付与できれば、魔法のド素人でも一夜にして世界最高峰の魔術師になれる。

 胸の高鳴りが止まらない。


「探しましょう、ドラゴン!」


 即答だった。


「最強クラスの属性魔法を自由自在に使えれば神聖石の回収も楽になるわね!」


 ユリアーナの瞳が輝く。


「罪深い罪人や悪しき魔物からスキルを奪いましょう。何も魔法スキルに限定する必要はないわ。他に何ができるのか、どんどん実験しましょう!」


 一理ある。

 罪人や魔物から奪うなら心も痛まない。


 俺は魔道具による己と彼女の強化プランに思いを馳せようとした。だが、昨夜から気になっていたことが不意に脳裏をよぎる。

『楽しくなってきたわー』、と妙に浮かれているユリアーナに切りだす。


「ところで、昨夜から気になっていたんだが……」


「何よ、歯切れが悪いわね」


「入り口のところあった馬車を、中に隠れている盗賊ごと収納しただろ?」


「それがどうしたの?」


「隠れていた場所が積荷の中なんだ」

「は?」


「女の子なんだよ。何て言うか、村娘っぽい恰好をしているんだ。もしかしたら襲われた行商人の同行者じゃないのか?」


 盗賊に襲われたときに積荷の中に隠れた可能性……。

 状況からしてその線がかなり濃厚な気がしてきた。


「もっと早く言いなさいよ。ともかく、その女の子を一旦出しましょう」


 その顔に浮かれた様子はもうなかった。

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