第18話 積荷の少女

 馬車の中に隠れていた少女を、先ほどまでユリアーナが寝ていたベッドの上に横たえた。


 年の頃は十二、三歳。

 ユリアーナと同じくらいの年齢に見える。


 北欧系の彫りの深い顔立ちで、きめの細かい白い肌と淡い水色の髪が目を惹く。

 端的に言って美少女だ。


 どことなくホンワカとした感じのする女の子で保護欲をそそられる。

 見た目はともかく、言動のきついユリアーナよりもこの娘の方が好みかもしれない。


 ただし、服装はこの上なくみすぼらしい。ツギハギどころが、ところどころ穴の開いたボロ服を着ていた。

 ベッドの上で眠っている少女を覗き込んでいたユリアーナが不意に顔を上げる。


「何で眠っているのよ」


 疑いの眼差しが俺に向けられた。

 錬金工房内の時間を停止せず、隠れていた少女が一晩中怯え、泣きつかれて眠ってしまったと思われたようだ。


 気持ちは分かる。

 俺も少女が眠っていることが信じられない。


 だが……。


「間違いなく、時間は停止していた」


「もしそうなら、相当図太いわよ、この娘」


 つまり、盗賊に馬車を襲われ仲間が皆殺しにされる中、積荷の中で息を潜めて隠れていたのではなく、隠れて居眠りをしていたことになる。

 ユリアーナが寝息を立てる少女に再び向きなる。


「もしもーし。お嬢さん、起きてください」


「う、ん……」


 覚醒しそうで覚醒しない。


「起きなさい」


 ユリアーナの語調が強まるが、一向に起きる気配がない。

 相変わらず幸せそうな寝顔だ。


 少女を起こそうと揺すること数回、ユリアーナがキレた。


「いい加減に起きないさい! これ以上眠り続けると神罰下すわよ!」


「ふぇ……」


 能天気そうな声を発して少女が目を覚ました。

 寝ぼけまなこの少女にユリアーナが聞く。


「あなたは誰?」


 つい最近、聞いたセリフだ。


「誰! 誰ですか!」


 俺とユリアーナに気付いた少女は驚きと恐怖の表情を浮かべると、怯えたようにベッドの上を後退る。


「君に危害を加えるつもりはないから安心してくれ。俺は神薙修羅、この娘はユリアーナ・ノイマン」


 俺の魂の名前と昨夜急遽決めたユリアーナの偽名を告げた。次いで、簡単に現状を説明しようとする矢先、再びユリアーナが問う。


「あなたは誰?」


「ごめんなさい。悪気はなかったんです」


 引きつった顔で小さな悲鳴を上げたと思ったら、そのままベッドの上で泣き崩れた。

 俺とユリアーナは互いに顔を見合わせた。

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