第16話 戦利品

 盗賊が貯め込んでいた盗品を収納した後、俺たちは盗賊のアジトで一夜を明かした。


「やっぱり屋根と壁があるっていいわね」


 ベッドの上で気持ちよさそうに伸びをするユリアーナが、顔を輝かせて提案する。


「ねえ、たっくん。野営用に小屋を造りましょうよ」


 それはもはや野営ではない気がする。

 だが、雨風をしのげる空間が欲しいのは俺も同じだ。


 幸い周囲は森と岩場のため、建材は十分にある。

 金属類も鋼の武器を中心に盗賊たちの為込んでいた武器類が、洞窟の奥にあったので材料に困ることはなさそうだ。


「食事をするスペースと寝室、キッチンとトイレ、風呂があればいいか?」


「お風呂、いいわねー。出来れば温泉が欲しいところだけどー」


 物欲しげに見るな。


「さすがにそれは無理だろ」


「大丈夫。どこかで温泉を見つけたら大量の源泉を収納しましょう」


 収納容量がどれくらいあるか知らないが、俺とユリアーナなら問題なく実現できそうでヤバい。


「問題ない。源泉を見つけたら実行しよう」


 寝室は当然別々になるから、2LDKでトイレ付、風呂は大きめってところか。

 練習がてら造ってみるとしよう。


「あ! トイレは毎回破棄できるようにしてね」


 俺も使用済みのトイレを持ち歩くのはノーサンキューだ。


「分かった。取り敢えず作ってみるからそれを見てから意見をくれ」


「馬小屋にいる馬も全部持ってくわよ」


 洞窟の外に馬小屋があり、そこに三十頭以上の馬が繋がれていた。

 公用語スキルを付与した二頭の馬も昨夜はその馬小屋で一晩を過ごしている。約束通り飼葉を大量に用意したので心行くまで食べているはずだ。


「と、その前に盗賊のお宝ね」


 俺たちはアジトの奥にある収納庫へと向かった。


「随分と羽振りのいい盗賊だな」


「街道沿いだし、隊商やら行商人が幾つも往来していたんでしょ」


「本当にこれを全部俺たちが貰っても大丈夫なのか?」


 無造作に積み上げられた盗品と思しき品物の山は、一般的な馬車十台分はありそうな量だ。


「尋問した盗賊たちも言ってたじゃないの、盗品は盗賊を討伐した者に所有権が移るって」


「確かに言っていたな」


 あの後、複数人の盗賊たちからこの世界の一般常識、周辺諸国の情勢、近隣の街や村について聞きだした。

 引きだした情報の中に盗賊と盗品についても語れた。


「当面の生活費も必要でしょ? それに街に到着したときに所持金が無いというのもわびしいものがあわよー」


「郷に入っては郷に従え、とも言うしな」


 移動手段としての馬車も欲しいし、武器や防具にしても最低限の装備は整えておきたい。

 ここは盗賊の資産をありがたく使わせもらうとしよう。


 武器や防具と同様、部屋に積み上げらえていた品物を錬金工房へと収納した。


 ◇


「次は武器と防具ね」


 盗品の中から真っ先に貨幣を寄り分けて、武器と防具の作製に移る。


「武器と防具は盗賊を襲撃のときに作成したモノじゃダメなのか?」


 自分が身に着けている武器と防具を見る。


 昨夜、盗賊のアジトを襲撃するにあたって、俺たちを襲った盗賊たちから剥ぎ取った剣を再加工し、刀身が黒塗りの日本刀とショートソード、さらに数振りのコンバットナイフを作成していた。

防具も同様に一般的な革鎧や籠手など一式をあつらえてある。


「予備と飛び道具が欲しいわね」


「完了だ」


 予備の武器と防具、弓矢を作成したことを告げる。


「それと、魔石があったでしょ?」


 盗品の中にあった魔石は全部で五つ。

 火属性の魔石が二つに水属性の魔石が一つ。土属性の魔石が一つ、風属性の魔石が一つ。


 これにゴブリンが持っていた闇属性の魔石が二つ。

 これが俺たちの手持ちの魔石だ。


「――――全部で七つある」


 手持ちの魔石の内訳を告げた。


「それじゃ、魔道具を作りましょうか」


 ユリアーナの弾む声が洞窟内に木霊した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る