第15話 討伐

「たっくん? 唐突に何を言いだすの?」


「この世界での俺の名だ」


「確かに偽名は必要かもしれないわね」


「神薙とは神を薙ぐこと。修羅とは最強の鬼。俺は神をも斬り割く最強の鬼となる! 改めて名乗ろう! 断罪者、神薙修羅だ!」


「色々と間違っているけど突っ込まないであげる」


 ユリアーナは俺を気遣うようにささやくと盗賊たちに向きなおった。


「あ、あたしのことは気にしないで。悪人に名乗る名前は持ち合わせてないから」


「ゴチャゴチャとうるせー!」


「武器も持たずに俺たちと戦う気か? 奥に武器があるんだろ? 取ってこいよ。それくらいの時間は待ってやるぜ」


 背筋に電流が走るような錯覚を覚えた。

 自分らしくない言葉遣いに、えも言われぬ快感が襲う。


 隙を見つけたつもりなのだろう、三人の男女が奥へと駆けだした。彼らが通路の陰に差しかかる直前に錬金工房で収納する。

 これでいくら待っても奥から武器を持って戻る者はいない。


「奥から二人来るわよ」


 ユリアーナの警告にうなずきながら、飛んでくる投げナイフを収納する。


「やった! え……?」


 仕留めたと思ったか?

 女の顔から笑みが消え、顔を蒼ざめさせる。


「お前の投げたナイフは銀のナイフか? それとも金のナイフか?」


 馬車の中にあった銀食器と金貨を加工して作成したナイフを左右の手にそれぞれ出現させた。


「通じるわけないでしょ」


「ちょっとした冗談だよ」


 ナイフを上に放り投げるような動作をして再び錬金工房へと収納する。

 同時にナイフを投げた女も収納したが、部屋にいた全員が俺の手の動きに気を取られていて女が消えたことにすぐには気付かなかった。


「奥から二人、直ぐに姿を現すわ」


「OK」


 男たちが姿を現した直後に収納した。


「助けてくれ。金も武器も全部差しだす。命だけは助けてくれ」


 盗賊の一人が涙を流してその場に平伏すると、他の五人も同じように平伏して抵抗の意思がないことを示した。


「あなたたち、隊商か行商人を襲ったでしょ? 生き残りはいるの?」


 ユリアーナの質問に残りの女たちが悲鳴で答えて奥へ向かって走りだした。


 悲鳴を上げる女だからと言って容赦はしない。

 通路に差しかかったところで、まとめて三人の姿と悲鳴が消える。


「もう一度聞くわ。生き残りはいるの?」


「行商人の仲間なのか?」


「荷物は返す。全部返す」


「助けてくれ、助けてくれ」


 涙を流して懇願する男たちにユリアーナが三度みたび問う。


「生き残りはいるの?」


 三人の肩がビクンッと跳ねた。


「……いねえ。全員、殺しちまった」


「殺すつもりはなかったんだ。本当だ」


 泣き叫ぶ二人と鬼の形相でユリアーナへと向かってきた男を同時に収納する。

 部屋のなかに静寂が訪れた。


「これで全員か?」


「少なくとも魔力感知には何も引っかからないわ」


「盗賊たちが貯め込んだ盗品を頂くとしよう」


 俺たちはアジトの奥へと歩を進めた。

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