第14話 盗賊襲撃

「さて、それじゃあ収納するか」


 部屋の隅で酔いつぶれている連中から収納していく。

 五人の男を収納したところで部屋を覗き込んでいたユリアーナがつぶやく


「気付かないものね」


「これからじゃないのか?」


 落胆している彼女にそう言って、次のターゲットに狙いを定める。たったいま収納した男を探して、辺りをキョロキョロと見回している女だ。


 そんな女に一人の男が近付く。

 かなり酔っているようで足元が覚束ない様子だ。


「何だ、逃げられたのか? 代わりに俺が開いてしてやるよ」


「何であんたなんかと! お呼びじゃないんだよ!」


 半ば足をもつれさせて倒れ込んできた男を女が軽く突き飛ばす。

 その瞬間を待って女を収納する。


「あれ?」


 男はあたりを見回すと、隣で抱き合っている男女に聞く。


「なあ、ドロシーを知らねえか?」


「知らねぇよ! アランと奥にでもしけ込んだんじゃねえのか?」


「ドロシーがあんたなんか相手にする訳ないじゃん」


 男女の声が重なった。


「てめえら!」


 酔った男が立ち上がろうとして、再び尻もちを突いたタイミングで抱き合っていた男女を収納する。

 これで八人目。部屋にはあと十二人。


「消えた! 消えちまった!」


「何を寝ぼけてんだ?」


「そうとう酔っぱらってんな、こいつ」


 周りの男たちがからかいだした。


「酔ってないって。いや、酔っているけど、そこまで酔っちゃいねえよ!」


 抗弁するが取り合う者はいない。


「うるせえぞ!」


「少し外で頭を冷やしてきたらどうだい?」


「外の見張りと交代してこい!」


「人数が減ってる! 周りを見ろよ、何かおかしいって!」


 異変に気付いたのがお前で良かった。


「さっさと外に行きやがれ!」


 大柄な男に一喝されるとよろめきながら扉へと近付いてきた。そして、扉のこちら側へと倒れ込む。だが、男が地面に激突することはなかった。

 その直前に錬金工房へ収納したからだ。


 これで九人目。部屋にはあと十一人。


「おい、随分と奥にしけ込んでねえか?」


「確かに、おかしいぜ……」


「男だけでしけ込んだりしねえよな……」


 バカ騒ぎしていた連中の笑い声が消えた。


「さすがに半数近くが消えれば気付くか」


「男ばかり収納したのがまずかったわね。もう少し女も収納していれば、奥にしけ込んだと思ってもらえたかもね」


 それでも予定に変更はない。


「誰だ? 隠れてねえで出てきやがれ!」


 そう叫んだ男が辺りに注意を払いながら、立てかけてある剣へと手を伸ばした。


 次の瞬間、男の手が空を切る。

 男は剣があるはずの空間を振り向くと、驚いた表情を浮かべて動きを止めた。


 残念だったな、剣は錬金工房の中だよ。


 俺は目に付く範囲の武器と連中が装備している武器とを収納する。


「武器がねえ!」


「俺の剣もだ!」


 あちらこちらで、驚きの声が上がった。


「ちょっと、ナイフもないよ」


 女が自分の腰の辺り探って顔を蒼ざめさせる。


「武器庫だ! 奥に武器を取りに行くぞ!」


 駆けだした男を大勢の眼前で収納する。

 短い悲鳴が上がり、


「消えた!」


「何で消えたんだよ!」


「逃げろ! ここはヤバい!」


 盗賊たちがこちらに向かって駆けだした。恐怖の形相を浮かべた数人の男女が一目散に向かってくる。

 先頭の男が扉に手を駆けようとしたところで、扉ごと室内へと蹴り戻した。


「ウギャッ」


 先頭の男がおかしな悲鳴を上げ、後続の二人を巻き込む形で扉と一緒になって床の上を二度、三度と跳ねた。

 部屋のなかに一瞬の静寂が訪れたが、それを一際大柄な男の怒声が破る。


「誰だ、てめえら!」


神薙修羅かんなぎしゅら

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