第31話 オーガ襲来
思いもよらぬ幸運に鼓動が早まる。
手が震える。
自分でも緊張しているのが分かった。
いますぐ行動を起こすつもりなのだろうか、とユリアーナを見つめると彼女は穏やかな笑みを浮かべた。
「穏便に返してもらう算段も考えないとならないし、細かいことは後で話し合いましょう」
「分かった」
神聖教会の助祭だからといって、話し合いをするつもりということはないよな。
乱暴に扉が開かれる音で俺の思考が中断される。
視線を巡らせると、そこには傷だらけの冒険者と衛兵がいた。
どうやら新たな怪我人たちが運び込まれてきたようだ。
「怪我人だ!」
「重傷者なんだ! 優先してくれ!」
「冒険者と衛兵に怪我人が続出している! 頼む! 光魔法が使える魔術師を門へ派遣してくれ!」
そんな悲痛な叫びと共に次々と怪我人が運び込まれてくる。
「ユリアーナ、ここは任せていいか?」
「まさかアンデッド・オーガを仕留めに行くつもり?」
「元を断たないとキリがないだろ」
「錬金工房を頼らずに戦えるの?」
作成した魔道具だけでアンデッド・オーガを倒せるかは分からないが、錬金工房を使えば楽に倒せる自信はある。
だが、錬金工房の能力を知られるのは避けたい。
特に生きた魔物を百メートル以上離れた位置から収納できることは秘匿する必要がある。
「錬金工房は俺のスキルだ。存分に利用するつもりだ」
「大勢の見ている前で?」
「安心しろ。魔道具による攻撃と併用して錬金工房の能力を悟られないように戦って見せる」
「できるの?」
「問題ない」
実践するのは初めてだが脳内シミュレーションは十分だ。
自身満々に言い切る迫力に気圧されたのか、ユリアーナは何かを言いかけて口をつぐんだ。
「俺だってバカじゃないんだ。自信のないことは口にしない」
「信用しましょう。でも、念のためあたしも同行するわ」
こいつ、信用してないな。
「あたしも行きます。一緒につれて行ってください」
そう口にしたロッテの目に涙はなかった。
「よし! アンデッド・オーガを倒しに行くぞ!」
俺は教会の外へと駆けだした。
◇
門にたどり着くと既にバリケードが築かれ、防壁の内と外とに二重の防衛ラインが構築されていた。
防壁の隙間から外の様子を確認する。
防壁の外は冒険者と思しき臨時戦力を中心に騎士団の下部組織である衛兵たちで、馬防柵のような簡易なバリケードに取り付いたオーガと交戦中だった。
防壁の内側は騎士団が中心で、防壁の上からの攻撃魔法や弓矢での遠距離攻撃による援護に終始している。
「二体だけ、随分と後方にいるが……」
俺が絶句する横でロッテが悲鳴を上げる。
「食べてます! オーガを食べてますよ!」
グロいものを見てしまった。
そこではオーガの共食いが起きていた。
黒ずんだ皮膚の不健康そうなオーガが褐色の健康そうなオーガの内臓をむさぼり繰っている。
あの不健康そうなオーガがアンデッド・オーガで間違いなさそうだ。
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