第40話 次の一手

 俺は二人の反応をスルーして話を続けることにした。


「司教が到着するまで三日以上必要だ。司教に関する情報は逐次集めるとして、ロリ代官と騎士団を何とかしよう」


「助祭はどうするつもり? 司教の到着を待ってまとめて対処する?」


 司教と助祭は特に悪事を働いているという情報はない。

 むしろ、助祭は奇跡の力で積極的に治療を行い多くの人を助けている。結果、教会からも住民からも好意的に受け入れられていた。


 評判通りの為人ひととなりなら穏便に神聖石を回収したい。


「司教と助祭の情報が不足している。ユリアーナとロッテは孤児院のルートから教会に接触して助祭の情報を集めてくれ」


「司教の情報は?」


「無理に集めようとして怪しまれても困る。助祭に集中しよう」


 俺の提案にユリアーナがわずかな時間思案する。


「そう、ね……。すべてを解決した状態で、司教の到着を待つ方がいいかもしれないわね」


「よし、決まりだ」


 俺とユリアーナのやり取りを聞いていたロッテが不思議そうに聞く。


「どうして司教様と助祭様の情報を?」


「ロリ代官にしろ騎士団にしろ、新しく赴任してきた連中が諸悪の根源だろ? 新しく赴任してくる司教と助祭がそうでないとは言いきれないからな。特に孤児院は教会とのつながりもあるから念のために調べておくだけだ」


「孤児院のことをそこまで気にしてくださったんですね。ありがとうございます」


 感激したロッテが瞳をうるませた。


 胸が痛い。

 小さな嘘かもしれないが、目の前の少女を騙していると思うと良心がとがめる。


 そこへユリアーナが割って入った。


「代官や騎士団と揉めるのはいいとして、ロッテちゃんだって教会とはもめたくないでしょ?」


「いやいやー、御代官様や騎士様とももめたくありませんよー」


「もめるというのは語弊があったわね。大丈夫よ、神罰を下すだけだから」


 屈託のない笑みのユリアーナが、引きつった笑みのロッテの手を取った。


「神罰って……」


「いい、ロッテちゃん。あなたはあたしの使徒なの」


「そうなんですか?」


 ロッテが使徒に昇格したようだ。


「その使徒であるロッテちゃんに不埒ふらちを働こうとしたロリ代官は有罪」


「大丈夫ですから。あたし、大丈夫ですから」


 ロリ代官が有罪なのには俺も賛成だ。


「騎士団に至っては取り調べ紛いの失礼極まりない態度だったわ」


「穏便にー、穏便にー」


 憤慨しているのよ、とでも言いたげな顔つきのユリアーナの前で、いまにも泣き出しそうなロッテが懇願するように言った。


 確かに俺も騎士団の態度には思うところがあるが、ちょっと意地の悪い仕返しをする程度で終わらせるつもりだった。

 女神であるユリアーナと人である俺やロッテとでは、感情面で随分と乖離かいりがあるようだ。


「あたしはこの世界の神よ。気に食わない国は亡ぼすし、気に入らないヤツには報復する権利があるの」


 報復じゃなくて試練を与える、な。


「穏便にー」


 祈りだした。


「大丈夫よ、国を亡ぼすなんてよっぽどのことだから」


 当たり前だ。

 表情をなくして固まったロッテにユリアーナが優しく語りかける。


「穏便に済ませるから大丈夫よ。たっくんの錬金工房に収納しちゃえば誰にも疑われずに失踪者が出来上がるわ」


 予想はしていたが実行犯は俺か。


「失踪者……」


 ロッテがそれだけを口にして祈りをやめた。


「錬金工房の中で解体して森の中に捨てちゃえば証拠も残らないでしょ」


「人間を解体するのはちょっと遠慮させてくれ」


 躊躇を示す俺の傍らでロッテが激しく首を縦に振って同意している。


「意気地なしね。じゃあ、言語関係のスキルを取り上げて放り出しましょう。気がふれたと思われて、すぐに交代要員が送られてくるでしょう」


「御代官様は街にとって必要な方なんです」


 ロッテが止めに入った。

 退場願うつもりだったが方針変更するか。


「交代要員に問題が無ければそれでもいいが、もっと悪くなる危険性もある」


 ロリ代官には腹が立つが、無闇に優秀な人材を排除する必要もない。


「じゃあ、どうするのよ」


「金品なり希少な魔道具を賄賂にして言うことをきかせるのと、弱みを握って言うことをきかせる。この二重の束縛が最善の手立てじゃないか?」


 だが、具体的なプランはない。


「弱みは?」


「これから探す。無ければ作ればいい」


「騎士団は?」


「幸い、以前からいる第三・四部隊はまともだ」


『騎士団長と第一・二部隊にはご退場願おう』、というセリフは口にしなかったが、ユリアーナには伝わったようだ。


「いいわ、たっくんの案を採用しましょう」


 女神の口元に笑みが浮かんだ。

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