第21話 世界のことが少し分かった気がする
「そんな便利な指輪があと二つある」
ユリアーナに指輪を差しだす。
「あたしは――」
彼女の言葉を遮って言う。
「元々の力を頼らずに訓練次第で強力な属性魔法が使えるようになるかもしれないだろ?」
「意図は分かったわ」
ユリアーナが指輪をはめた。
これで属性魔法のスキルがない俺とリーゼロッテは魔道具の力を借りて属性魔法が使えるようになる。ユリアーナは失われた女神の力に頼らずに、訓練次第で強力な属性魔法が使えるようになるかもしれない。
「でも、よく同じ形のものが三つもあったわね」
「形状を変えた。元の持ち主の関係者が現れて、盗賊に奪われた品だなんて騒がれても嫌だからな」
犯罪組織が盗んだ宝石を加工しなおして足がつかないようにするのと同じだ
「この世界じゃ、盗賊が奪った品の所有権が討伐者に移るのは普通のことよ」
「俺の気分の問題だ」
ユリアーナの『小心者ね』との言葉を聞かなかったことにして話題を変える。
「そんなことよりも、試しみなくていいのか?」
――――結果。
「予想通りだ」
口では平静を装っているが、内心では今にも歓喜の叫び声を上げそうだ。
対してユリアーナは驚愕を隠せずにいる。
リーゼロッテに至っては殻を閉ざしたようにブツブツとなにかつぶやいて自分の世界に入り込んでいた。
「予想通りって……、これを予想していたっていうの?」
錬金工房の主である俺だけが予想できたことなのだろう。
事実、魔道具を使用するまで、ユリアーナでさえ予想していなかったのがその表情と口調から分かる。
指輪に付与した魔法スキルは地・水・火・風の四つの属性魔法のスキル。
属性魔石と違い魔法スキルの付与では、地・水・火・風それぞれの属性で複数の魔法が使用できた。
「この指輪が常識から外れているってことは俺だって想像がつく。だから、指輪とは別にこんな魔道具も作ってみたんだ」
銀製の幅広のブレスレットをリーゼロッテに渡して意見を求めた。
「え? あたしですか?」
「この地域でどう思われるか、意見を聞かせて欲しい」
主に一般的な魔道具として通用するかどうかが知りたい。
手にしたブレスレットの説明を始めた。
幅広のブレスレットには横に四つ、縦に三つ、合計十二個すべてが異なる形状のシンボルを刻んである。それぞれのシンボルに触れて魔力を流すことで、四つの属性魔法から三つずつの魔法、合計十二個の攻撃や防御の魔法が使える魔道具だと告げた。
盗品の中にも水と火がだせる魔道具があったのだから、それほど非常識な魔道具ではないはずだ。
「えーと……、これに近い魔道具の噂を聞いたことがあります」
「噂?」
「騎士団の団長が先王から頂戴した宝剣で、火球と水刃と岩弾が使えるそうです」
そう言うと幼い子がイヤイヤをするように首を横に振りながら、ブレスレットの魔道具を無言で俺に差し戻す。
宝剣だと?
この程度でもヤバい品物らしい。
「助かるよ、俺もユリアーナも魔道具に疎くってさ」
「本当、助かるわー」
「これからもこの調子で教えてくれると嬉しいな」
「こんなのがまだあるんですか?」
俺とユリアーナとは違った種類の乾いた笑いが彼女の口から漏れた。
さて、次は武器と防具に移ろうと思ったんだが……。
「この際だから、失敗はこの場で全て済ませてしまおう思うがどうだろう?」
「賛成よ」
決まりだ。
俺は素材の許す範囲であれこれと作成することにした。
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